フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、“ワケあり”な人々が集まる介護施設に密着した『ありのままでいいじゃない ~いしいさん家の人々~』(7月31日・8月7日)。ナレーションを担当する女優の森川葵は、今回の映像から様々な愛情の形が伝わってきたと語る――。

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当した森川葵

■いろんな人からの愛情を受けて出来上がっている

千葉県にある「いしいさん家」は、認知症や統合失調症などの患者を預かる介護施設。その多くが、暴力・暴言といった問題行動を理由に、他の施設から“お断り”された人たちで、家族にとっては“駆け込み寺”のような存在だ。暴言を吐こうと、暴れようと、薬などに頼ることなく、その人の“ありのまま”を受け入れるという方針で、運営する石井英寿さん(47)は、“介護業界の異端児”と呼ばれてきた。

この石井さんの姿に、森川は「最初は大手の介護施設にいらっしゃって、そこから自分なりのやり方を発案して独立して、本当にすごいですよね」と感服。

一方で、「“介護業界の異端児”とメディアに取り上げられていますが、自分が一番負担の大きいポジションだから、なかなかそれができる人っていないと思うんです。そこに、周りにいる奥さんや、『いしいさん家』のスタッフさんたちとお互いに助け合う愛情があるからこそ、石井さんも吸収して、それを未来につなげていく。いろんな人からの愛情を受けて、今の石井さんという人が出来上がっているのかなと感じました」と印象を述べた。

  • 「いしいさん家」の利用者(左)と石井英寿さん (C)フジテレビ

■「たとえ病気だろうと、あなたはあなたでしょ」

この“愛情”というのは、今回の番組のキーワードの1つだ。徘徊が日常茶飯事になっている認知症の女性(73)を「苦労させたのかな…」と思いやって見守り続ける夫、時に怒りを爆発させる統合失調症の男性(46)に「いい部分も持ってるんだよ」と励まして支える妻など、「いしいさん家」に通う人と家族の、それぞれの“愛情”が描かれている。

森川は「人間って、どうしても突き放したくなる瞬間があると思うんですけど、それでもみんなが一緒にいる。怒りを爆発させる男性の奥さんが『たとえ病気だろうと、あなたはあなたでしょ』と声をかけたという話もありましたが、たしかに人間と接していて嫌になる瞬間もあるけど、それが全てじゃないから、良いところを見つけてあげられるんですよね。その人を1つの方向から見るんじゃなくて、多方面から見て、素敵なところに気づいてあげて、それを知っているというのが、すごく“愛情だな”と思いました」と話し、今回の中でも特に印象に残った場面だという。

さらに、「どういう状態になっても、みんな相手のことが好きで、思いやることができて、やっぱり人は人を簡単に捨てないんだというところを学びました。今、こうやって元気に生きていると、ちょっと仲が悪くなったら『もう連絡取らなくていいか』とか、簡単に疎遠になっちゃいますけど、1つ大きな壁があることによって、逆につながりになる。困難な状態こそ、愛情を表現するきっかけになったりするのかなと思いました」と、発見があったようだ。

■歯車が合わず胸が苦しくなった場面も

そのほかに印象的な場面として挙げたのは、スタッフに手を上げてしまった統合失調症の男性と、彼を再び受け入れようとする石井さんの関係性。

「石井さんは男性の症状が改善していったらいいなと思うけど、彼は石井さんに甘えてしまって、2人の歯車が合わなくなって、思ったように進まないところが、見ていてちょっと胸が苦しくなりました。どうして人間って、こんなにお互いが思い合ってるはずなのに、うまくいかないんだろう、と」

ともに相手に対して“愛情”を持っているはずなのに、うまくいかないもどかしさを感じたようだ。

  • (C)フジテレビ

『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当するのは、『おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~』(19年6月2日放送)、『「おかえり」の声が聞きたくて ~歌舞伎町 真夜中の処方箋~』(21年6月7日放送)に続き、これが3回目。

前・後編を担当するのは初めてで、「ナレーションのお仕事はそんなにいっぱい機会があるわけじゃないんですけど、自分の中でも好きな仕事なので、こうやって長い時間をかけてできたのは、うれしかったです」と声を弾ませながら、「でもやっぱり大変ですね(笑)」と本音をのぞかせていた。

●森川葵
1995年生まれ、愛知県出身。10年にファッション誌『Seventeen』の専属モデルとしてデビュー。最近の出演作品は、ドラマ『名探偵ステイホームズ』(日本テレビ)、『ナンバMG5』(フジテレビ)など。現在『太田光のつぶやき英語』(NHK)、『それって!?実際どうなの課』(中京テレビ)にレギュラー出演中。『それって!?実際どうなの課』では様々な超難易度の達人技をバラエティの制限を守らない驚異的な速さで習得することから「ワイルド・スピード森川」と呼ばれる。