栃木県の宇都宮市と芳賀町を結ぶLRT(次世代路面電車システム)の車両「ライトライン」(HU300形)は、6月末に全17編成がそろった。その後、栃木県在住者および栃木県内への通勤・通学者を対象に、車両見学会が7~8月の毎週日曜日に開催されている。

  • 芳賀・宇都宮LRTの車両「ライトライン」は全17編成がそろった。7~8月に栃木県在住者・通勤通学者向けに車両見学会を開催

今回の車両見学会は8月28日まで開催予定だが、受付期間はすでに終了している。いずれの開催日も9時・11時・13時30分からの3回に分けて実施しており、筆者は宇都宮市・宇都宮ライトレールの許諾を得て、7月の日曜日、11時から行われた回に参加。車両見学会の様子を取材した。

芳賀・宇都宮LRTは、宇都宮駅東口停留場から芳賀・高根沢工業団地停留場まで約14,6kmを結び、現在も整備工事が進められている。公設型上下分離方式を採用し、行政・民間の出資による新会社「宇都宮ライトレール」が「上」にあたる営業主体、宇都宮市と芳賀町が「下」にあたる車両・設備等の整備主体を担う。

以前は2023年3月に開業予定とされていたが、途中の野高野町交差点付近にて、交通渋滞を極力発生させないようにするため交通規制を縮小した分、工事日数を要したとして、開業を延期する見通しとなったことを宇都宮市が発表した。車両については、昨年5月に第1編成(HU301)が搬入されて以来、月1~3本のペースで搬入され、6月28日に最終となる第17編成(HU317)が搬入されたと、宇都宮ライトレールの公式サイトにて発表されている。

「ライトライン」の愛称を持つHU300形は、3車体連接の低床車(LRV)で、全長は約30m。パンタグラフの設置された車両が宇都宮方となり、そこから順に「HU300-A」「HU300-C」「HU300-B」の編成となっている。車両の愛称「ライトライン」は、宇都宮市・芳賀町在住者へのアンケートを経て決定。宇都宮の別名である「雷都」と、LRT(Light Rail Traisit)の名前に含まれる「LIGHT(光)」を冠し、「雷都」「LIGHT」「LINE」を組み合わせて「(未来への)光の道筋」になるようにとのメッセージが込められている。

  • 後部灯を点灯させた状態

  • 「ライトライン」の外観

  • 車体側面の表示器

  • (写真左から)「HU301-A」「HU301-C」「HU301-B」の外観

その外観は、乗降ドアと窓周りを黒、先頭車両から側面上部・下部に向かって黄色いラインを配したデザインで、前面はシャープな流線形となっているところが特徴的。先頭車両のドア上に車いす・ベビーカーのマークが表示されている。

車内はモノトーンを基調とした空間で、背もたれなどに黄色・オレンジのアクセントを加えている。一部を除き、座席はボックスシートで、外側の黒い部分に合皮を使用。内側のライトグレーの部分には、宇都宮伝統の染め物「宮染」による、大谷石の採掘場をモチーフとした柄を施した。そこに「雷」をイメージしたダークグレーの模様をあしらっている。大型の窓はカーテンを降ろすことができ、カーテンにも「宮染」を採用。ボックスシートの一段高くなっている床にも、大谷石の柄がデザインされている。

  • 座席は一部を除きボックスシート。「宮染」による大谷石の柄と雷のイメージも

  • 「ライトライン」の乗降ドア

  • すべてのドアにICカードリーダーを設置

  • 現金精算とチャージは前の運賃箱で行う

すべての乗降ドアの左右に、ICカードリーダーが乗車用・降車用に分けて設置されている。ICカードで「ライトライン」に乗降りする場合、すべてのドアから乗車・降車が可能。その際、カードリーダーにカードをタッチして乗車・降車する。

現金で乗車する場合、停留場に設置している整理券発行機で整理券を受け取り、「ライトライン」のいずれかのドアから乗車。降りる際は進行方向の最前部にある運賃箱で現金精算を行い、降車する。なお、ICカードの残高チャージ(1,000円分のチャージに対応)も最前部の運賃箱で行う。運賃は乗車区間に応じて150~400円とされている。

車内は全車両でバリアフリー対応となっており、中間車両にフリースペースも用意した。吊り手は人間工学にもとづき疲れにくい形状となっているほか、位置によってさまざまな握り方も可能。各ドアの上部、通路の天井、運転席後ろの壁にディスプレイを設置しており、車内の抗菌・抗ウイルスコーティングも施工済みだという。

  • 中間車両にフリースペースを設置

  • 人間工学にもとづいた疲れにくい吊り手

  • 車内は抗菌コーティングを施工済み

  • 「ライトライン」の運転台

  • 前面表示器の表示例

  • 側面表示器の表示例

筆者が取材した車両見学会では、開始時間の11時に合わせ、参加者が会場のLRT車両基地に集まってきた。近隣を走るバス路線の本数が少ないためか、自動車で来場する人が大半だった。参加者たちの様子を見るに、夫婦での参加や、こどもたちを連れた家族での参加が多かったようだ。1回あたりの参加人数は20組(30人前後)。今回の応募倍率は5倍だったそうだが、多いときには応募倍率が10倍になったこともあるという。

まずは車両基地の事務所内で、LRTに関する説明会を実施。「ライトライン」のコンセプト、工事の進捗、運賃、乗車方法や運行計画など、20分程度かけて説明を行った。全7問のクイズ形式で、参加者たちの反応を拾いつつ、わかりやすく、親しみのある話し方で進行していく。説明の途中、路面区間での自動車運転に関するお願いや、宇都宮駅東口のまちびらき(11月予定)、駅西側へのLRT延伸検討に関する話などもあった。

事務所内での説明が終わると、「ライトライン」に移動して車内見学。全員が車内で着席した後、スタッフが座席、吊り手、乗車方法について解説を行った。ここでも参加者に質問しながらの進行で、こどもたちが元気よく答える姿が見られた。解説が終わり、自由見学の時間になると、スタッフは個別の質問や記念撮影に対応していた。

  • クイズ形式で、概要や乗り方など分かりやすく解説

  • 車内に移動し、座席や吊り手などの解説を行う

  • 自由見学では、スタッフが記念撮影に対応した

先頭車「HU301-B」の運転台は見学会限定で開放され、数組ほど並んでいる時間帯もあった。運転台は意外と高い位置にあり、席に座った際の眺望に、大人も驚いていた様子。車両外観の見学・撮影も可能で、外に出て外観を撮影する人も多かった。全体を通して1時間程度の見学会で、参加者らは興味深く見学・撮影しつつ、LRTの新しい車両を楽しんだ様子だった。

今回、筆者は宇都宮駅からバスで会場へ向かい、その際に宇都宮駅東口停留場から平石停留場まで工事の様子を車窓から眺めていた。筆者が見た限りでは、工区により進捗が異なるものの、順調に工事が進んでいるように見受けられる。建設の進む停留場の様子も、バス車内や公道から確認できた。

なお、宇都宮市内のショッピングモール「ベルモール」にて、1階インフォメーション付近に芳賀・宇都宮LRT特設ブースが設けられ、LRTを紹介するとともに、再現ジオラマも展示していた。「ベルモール」付近では、新たにLRTの宇都宮大学陽東キャンパス停留場が設置される予定。今後、工事が進めば、真新しい線路の上を「ライトライン」が試運転で走るようになるだろう。引き続き、宇都宮市・芳賀町と宇都宮ライトレールの取組みに注目していきたい。