吉川英梨の同名小説を原作に、ある少女失踪事件の真相を追う刑事と、失踪した少女の家族の苦悩と執念の日々を描いたヒューマンミステリー『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』(毎週日曜 22:00~全5話 ※第1話は無料放送)が、7月24日からWOWOWで放送&配信スタートする。本作で、自身の妹をある事件から守れなかったことに大きな後悔を抱える刑事・奈良健市に扮してWOWOW「連続ドラマW」枠で初主演を果たすムロツヨシに、役者としてのやりがいや今後自身が目指すもの、本作の舞台裏について語ってもらった。
――先日、WOWOW連続ドラマW『眼の壁』に主演された小泉孝太郎さんにも取材したのですが、「親友のムロツヨシさんにこういった形でバトンを繋げるのは感慨深い」とおっしゃっていました。
そうですか(笑)。ちょうど2週間後くらいに孝太郎と会う予定なので(※取材時)、きっとそういう話になるんでしょうね。孝太郎とは二人きりで会ってお互いの近況報告をし合う間柄で、月に2~3回は会っていたんです。近年はありがたいことに僕も孝太郎も仕事が忙しくなってきて、連絡は取り合っていますけど、会うのは1カ月に1回になり、今は季節に1回くらい。でもたとえどんなに忙しくなっても、年始は必ず会うと思います(笑)。ライバルというよりは、一緒に戦ってきた同志として、直接会って、会って、会って、前に進んでいる感覚があったけど、今は少し離れて、自分たちなりに道を進んでいる気がします。
――ムロさんの著書『ムロ本、』(ワニブックス刊)のインタビューに「"しっかり一流ではなく超一流を目指して下さい"と自分に言い聞かせています」という記述があったのですが、芸歴20年で、映画やドラマで主演作が続く状況となると、一流までは上り詰めましたよね。
いやいや、全然一流じゃない。この文章、恥ずかしいから取り上げないで(笑)!
――え~! とても素敵な文章ですよ。
いや、まぁ。もう恥じらってる場合じゃないから、全然いいけど(笑)。
――ムロさんの定義だとまだ違うのかもしれませんが、一般的には一流の役者さんであるムロさんの目指す超一流とは?
う~む……。でもこの1年、映画の世界では『マイ・ダディ』、深夜ドラマでは『全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの』で主演をやらせてもらって、WOWOWさんでも今回こうしてやらせていただけることになりましたけど、あくまで「作品を背負う立場」という意味で"一流の役者"と定義してもいいとするならば、僕が目指す"超一流"というのは、「結果を出せる役者かどうか」ということになるんでしょうね。「自分が出演した作品に対する評価」と言ったらいいのかな。1人でも多くの方に「面白い」と思ってもらえること。
――ムロさんの中では「面白い」が一番ですか?
僕は単純に「面白い」が一番だと思います。「あれ、面白そうだから見たいわー」「見たけど面白かったわー」っていう。知的な人たちだけではなく、専門的な分野だけでもなく。たとえばテレビだったら、何気なくスイッチを入れて、料理を作りながら、料理を食べながら、朝着替えながら見るものであって、そこに面白みがなければ誰も見ないわけです。だから、「(心が)えぐられた」とか、そこだけで語ってはいけないものでもあると思っていて。
――WOWOWのドラマで初主演するという意味では、いわゆるテレビとも違いますよね?
たしかに、WOWOWさんは地上波のチャンネルとはまた違いますよね。ペイチャンネルであり、意思を持ってチャンネルを合わせて下さった人たちが観て下さるドラマだからね。 「面白い」とはまた別の基準があるとすれば、「2日経っても、3日経っても、1年経っても忘れられない」っていうのがありますよね。「面白い」という言葉ではとても言い表わせはしないけど、心に深く引っかかるシーンや、セリフ、表情というのもあるような気がします。
――たとえそれが嫌な記憶を呼び起こすようなものであったとしても?
そう。イヤ~な気持ちになったり、トラウマや過去のイヤな体験と重なってしまって忘れられなかったり、とかっていうのはあるかもしれない。
――役者としては「そういう作品に出たい」「そういう作品を残したい」という気持ちもある、ということですか?
それこそ「ムロツヨシを皆様に知ってもらう週間」をセルフプロデュースしていた頃は、「喜劇に出て笑わせたい」というのがもっとも短いスパンで伝えられるメッセージではあったけど、役者としての"本心の本心"は、やっぱり「ムロツヨシのいろんな面を見ていただきたい」ということですよね。
――なるほど。
いわゆる世界的な映画祭で賞を獲るような作品には、家族の悲しい物語とか、現代の貧富の差を描いた家族の物語が多いですけど、現実にいろんな形の家族を経験してきた者からすれば、「わざわざそんなものを映画で描く必要はないだろう」という考えもあるんです。別に自分の家族が不幸だとは思わないけれども、「いろんな形の家族の話をそんなに観たいかい?」「そういう経験をしてきた僕はハッピーエンドが観たいんだよ!」って思うんだけど、「自分が観たい欲」よりも「役者としての表現欲」を優先するとするならば、やっぱり「いろんな作品に出て、自分に出来るお芝居をしてみたい」という欲はありますよね。
――となると、今回のようなシリアスなドラマで陰のある人物像を演じることは、ムロさんにとっては絶好のチャンスでもあったというわけですね。
そうそう。パブリックイメージとは違う役をいただいて、自分でもビックリしました。だって、何度台本を読んでみても、笑いの要素を求められる場面は一切ないですからね(笑)。
――ムロさんの新たな一面を見せていただける、というわけですね。
視聴者の皆様にはなかなか信じてもらえないかもしれないですが、「喜劇」のなかでもシリアスなお芝居をする瞬間はあって。今回は自分のなかのそういった面を見ていただく良い機会なのかなと思いました。撮っている最中はとても辛かったけど、役者としてのやりがいはとてつもなく大きかったです。作品を撮り終えた後に自分が演じた役や表現方法を振り返る時間は、僕たちにとってはとても充実した日々なので。
――役者としては、笑い以外の要素も求められるようになってきた、と。
これからは"職業ムロツヨシ"の要素をどんどん薄めていって、「いよいよ"役者ムロツヨシ"を見てもらう週間がやって参りました!」という感じがしています。だからそろそろ昔の自分とは違うことを言うし、昔の自分が嘘だったことも報告しますし(笑)。さらには「これから言うことも嘘かもしれません」ってことも、きっと言っていくでしょう。「どれが嘘でどれが本当のムロツヨシなのか、見抜いてください」というような言い方で、皆様を上手くかわしながら、本心を隠していくかもしれないですね(笑)。