京王電鉄と名古屋鉄道は、岐阜県・飛騨高山エリアへの観光PRを共同で実施している。7月15日、「中部地方インフォメーションプラザ in 京王新宿」にて共同PRイベントを開催し、「バスタ新宿」から高速バスでアクセスできる飛騨高山エリアについて、両グループ各社が今夏以降に展開予定の施策を紹介した。
イベント開催にあたり、京王電鉄戦略推進本部交通・観光企画チーム課長の嶌田智仁氏が挨拶と概要説明を行った。「中部地方インフォメーションプラザ in 京王新宿」は、新宿駅南口地下街「京王モール」内にあり、2016年7月に開設されている。新宿から飛騨高山へ向かう高速バス路線(京王バス・濃飛バス共同運行)を1998年から運行しており、同施設の開設に合わせ、高山市と連携して現地への誘客に取り組んでいる。
施設内には、高山エリアを含む岐阜県飛騨地方と中津川市、長野県の塩尻・駒ヶ根、富山県、山梨県の富士山・富士五湖のPRブースを設置。2020年7月から各地域の特産品販売も行っている。高速バスの乗車券類もここで購入可能。あわせて高尾山・京王沿線の観光案内も発信している。
一方、名鉄グループも名古屋駅発着の高速バス(名鉄バス・JR東海バス・濃飛バス共同運行)を運行しており、コロナ禍前は1日最大15往復を運行していた。現地での交通手段となる濃飛乗合自動車(濃飛バス)や、ホテル・ロープウェイを経営する奥飛観光開発も名鉄グループに属し、中京圏からのアクセスや現地での交通・観光を担っている。
京王電鉄・名鉄の両社ともに、飛騨高山エリアへの観光促進という共通の目的を持つことから、新宿と名古屋でタイアップを図り、ともに観光客を増やしていこうとの背景があるという。2021年から企画を開始し、同年10月に京王・名鉄初の共同PRイベントを名古屋駅で実施した。共同のPRポスターも作成し、鉄道広告として掲出することで、沿線からの誘客にも取り組んでいるという。
続いて高山市観光課、誘客戦略係係長の田中一樹氏が挨拶。高山市は岐阜県北部・飛騨地方の中心都市であり、JR高山本線の渚駅付近から飛騨国府駅の北側まで高山市内に位置している。人口は約8万5,000人、面積は2,177.61平方キロメートル。東京都とほぼ同じ広さで、日本で最も広い市とされる。観光業を主産業としており、コロナ禍前のピーク時は年間470万人の観光客が訪れていた。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、2021年の観光客数は194万人と、半分以下に減少した。
今回、新宿でPRを行うにあたり、従来のような名所を見て回る観光に加え、体験型の観光も注目されていると田中氏は説明。「高山市は史跡が非常に広くございまして、それに伴って豊かな自然がたくさんございます。そういった、いままで隠れていた地域資源を掘り起こして、各社様がさまざまなコンテンツを作っておられますので、今回はそういったものをご紹介させていただければ」と挨拶した。
続いて今回のPRイベントに参加している事業者から、今夏展開予定の施策が紹介された。まずは、高山市が11月30日まで行っている「第2弾 わくわく体験! 飛騨高山」について。「じゃらん 遊び・体験」特設サイトにて、体験メニューを予約するとオンラインクーポンを取得でき、高山市内のレジャー・体験企画に使用できる。
このオンラインクーポンを利用できる事例として、飛騨の民芸品「さるぼぼ」(飛騨の言葉で「猿の赤ん坊」)作り、シャワークライミング、伝統芸能ライブショー、浴衣・着物での街歩きや人力車乗車など。割引クーポンは1予約ごとに使用し、1~4名以上でそれぞれ予約合計額が一定金額に達すると発行されるしくみになっている。
11月30日までの期間中、第1~3期に分けて実施され、第1期は6月15日から8月31日まで、第2期は7月15日から8月31日まで、第3期は9月1日から11月30日まで。参加事業者に関して、第1期は35件の登録があり、第2期は59件の登録があった(7月7日時点)。体験メニューも78件以上になるという。第3期は参加事業者・体験メニューともにさらに拡大予定とのこと。
奥飛騨温泉郷にて、日本唯一の2階建てゴンドラで知られる新穂高ロープウェイを運営している奥飛観光開発もイベントを紹介。同社は夏・秋の期間限定で、夜間にもロープウェイを運行し、標高2,156mにある屋上展望台から星空を眺めるイベント「星空観賞便」を実施予定としている。標高がかなり高いだけあって空気が澄んでおり、まわりに明るい建物もないため、見渡す限りの美しい星空を楽しめる。大都市では見られない天の川もはっきり見えるという。
2022年の「星空観賞便」に関して、夏期は7月27~29日と8月24~26日、秋期は10月21~23日、10月28~30日と11月8日に実施予定となっている。
初の取組みとして、小学生向けの自由研究キットを7月16日に発売。新穂高ロープウェイ周辺の散策を楽しみつつ、北アルプスに関する山の名前、標高、周辺に生息する動物の名前など学習ノートに埋めていき、自由研究を完成させるしくみになっている。価格は1,000円(税込)。
また、ロープウェイの西穂高口駅外に広がる散策スペース、千石園地の一体的開発を2期にわたって進めており、10月19日に1期オープン予定。1期の工事では、槍ヶ岳の眺望を楽しめるブーメラン状のデッキや、自然に囲まれながら飲食を行える休憩スペースを整備した。第2期エリアは2023年10月のオープンを予定している。
高山市内で路線バスを運行している濃飛乗合自動車(濃飛バス)は、「昔懐かしいボンネットバスで行く『飛騨高山』里山巡りツアー」を開催予定。1967(昭和42)年に製造され、全国的にも珍しくなったボンネットバスに乗車し、高山市内の里山風景が見られる場所を巡る。昭和当時、夏山シーズンに乗鞍行の登山バスとして、高山駅前からボンネットバスが連なって走行する風景が風物詩だったという。
7月22~31日に国府町方面、8月19~28日に丹生川方面、9月16~25日に朝日町方面、10月14~23日に一之宮町・久々野町方面、11月4~13日に清見町方面へ向かう。いずれも午前便と午後便が設定され、午前便は9時30分、午後便は13時30分に高山濃飛バスセンター(高山駅東口)を出発する。
ウェブまたは電話で予約を受け付け、旅行代金は1,100円(大人・こども同額)。観光庁「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業」を利用した特別料金となっている。7月1~10日の期間にも運行され、バスファンや年配の参加者を中心に好評だったという。
定期観光バスによる乗鞍・上高地コースと新穂高・上高地コースの2種類で「北アルプス2大パノラマツアー」も運行。いずれも7月23日から8月28日までの毎日と、9月3日から10月16日まで(新穂高・上高地コースは9月23日まで)の土日祝日に運行予定となっている。高山濃飛バスセンターを8時20分に出発するが、乗鞍・上高地コースではほおのき平(9時10分発)から、新穂高・上高地コースでは平湯温泉(9時20分発)から途中参加もできる。
旅行代金は、高山市「産業団体等消費活性化策支援事業」を利用した特別料金として、大人6,800円・こども5,300円。ウェブまたは電話で予約を受け付けている。
2020年4月から京王グループに加入した高山グリーンホテルは、同年6月に新館となる桜凛閣が開業。本館49室、天領閣88室、桜凛閣101室、計238室(計805名収容)あり、大中小の宴会場や自家源泉の大浴場なども有している。地産地消のこだわりを持った料理も提供し、楽天トラベル「地産地消料理が人気の宿ランキング」で全国3位を受賞したこともあるという。
同ホテルは「夏休みWAKUWAKUブッフェ宿泊プラン」を8月6~20日に発売。飛騨とその周辺エリアの食材をふんだんに使った料理をブッフェ形式で提供するほか、シェフが宿泊客の目の前で料理を行うライブキッチン、こども向けメニューをそろえたキッズコーナーも用意し、家族旅行・3世帯旅行におすすめのプランとなる。和食の会席プランでは、岐阜県産の鮎の炭火焼や、定番の飛騨牛を味わうことができ、こちらも人気がある。
特産品の飛騨桃を使った「飛騨桃パフェ」は今年、8月1日から天領閣内のラウンジで販売予定とのこと。1点1,800円(税込)と決して安価なメニューではないが、地元住民とホテル宿泊客の両方に人気で、毎年楽しみにしている人も多いとのことだった。
最後に、京王電鉄バスが展開している高速バスの往復乗車券と旅行先で使えるチケットのセット券を紹介。「三つ星アルプス新宿きっぷ」では、新宿~松本間の高速バス往復乗車券と、アルプスワイドフリーパスポートの引換券がセットとなる。このパスポートで上高地、白骨温泉、乗鞍、平湯温泉、白川郷、下呂温泉などのエリア内で運行されるバスが4日間乗り放題になり、新穂高ロープウェイの往復乗車券も付いてくる。
その他、高速バスの往復乗車券、新穂高ロープウェイまでの路線バス2日間フリー乗車券、新穂高ロープウェイの往復乗車券をセットにした「奥飛騨まるごとバリューきっぷ」、高速バスの往復乗車券に加え、宿泊や食べ歩きクーポンなど付属する「新宿発! ほっこり♪ 飛騨高山」(9月30日まで)も発売している。
なお、新宿~高山エリア間の高速バス往復乗車券の提示により、「モビリティステーション奥飛騨」の小型EVレンタカーが1,000円引き、電動アシスト付きレンタサイクルが500円引きで利用できる割引キャンペーンも実施中とのこと。
「中部地方インフォメーションプラザ in 京王新宿」は11時から営業開始する。取材当日、各イベント等を紹介した事業者らが一般に向けてもPRを行った。通行する人々にリーフレットを配布し、筆者が見た範囲では、年配の人らがリーフレットを受け取っていた様子だった。それ以外にも少しずつ来場者は増え、レジ前で買い物客数人が列を成しているようだった。
入口付近に配置した高山産の新鮮野菜も目を引く。現地で採れた野菜を高速バスで東京へ輸送し、京王ストアや京王百貨店で販売しており、とくにこの時期はトマトが美味しく、寒暖差の激しい高地で育つため、糖度の高い野菜になるという。
飛騨高山エリアといえば、JR東海が特急「ひだ」に新型車両HC85系を導入し、7月1日から運行開始したことでも注目を集めていることと思う。しかし、東京駅から新幹線、名古屋駅から特急「ひだ」に乗り継いでの利用と、新宿から乗換えなしの高速バス利用で比べた場合、所要時間は新幹線・特急列車を乗り継いだほうが速いものの、交通費は圧倒的に高速バスのほうが安い。
鉄道ファンとしては、名古屋駅から特急「ひだ」の旅を満喫したいところだが、高速バスで高山へアクセスした後、同エリアを拠点に短距離で高山本線沿線を散策することも、スケジュールや予算によっては一考に値する。飛騨高山エリアで観光する際、鉄道・バスをうまく使い分けることができれば、存分に旅を楽しめるかと思う。
しかし、夏休み期間に入ろうとしている現時点で、新型コロナウイルス感染症の再拡大が連日報道されている。交通機関での移動中や、その他の密になりそうな状況への対処として、基本的な感染対策を各自行いながら旅行を楽しんでほしいと思う。