ホンダの新型「シビック タイプR」を見て、「これまでに比べると、デザインはおとなしくなったかな?」とお感じの方は多いかもしれないが、じっくり見ていくと、またドアを開けてみると印象が変わるはずだ。デザインのポイントを担当者に聞いてきたので、あわせてお伝えしたい。
ピュアエンジンTYPE Rの集大成
1964年のF1参戦表明から続くホンダのチャレンジングスピリットとレーシングカーテクノロジーを注ぎ込み、速さとドライビングプレジャーを追求してきたブランド「タイプR」(TYPE R)。1992年の「NSXタイプR」登場から数えると、その歴史は30年に及ぶ。ホンダによれば、快適性を犠牲にしてまで速さと運動性能を追求していた頃が「第1世代 タイプR」だとすれば、速さを進化させつつも、快適性と環境適合性はベース車と遜色ないレベルでキープしているのが現在の「第2世代 タイプR」だという。
新型シビック タイプRは「ピュアエンジンタイプRの集大成」(開発責任者の柿沼秀樹さん)という位置づけ。エクステリアデザインを担当した原大さんは「高性能マシンとしての質感と純度を高め、官能美を目指した」と語る。
確かに大人っぽい雰囲気になった新型だが、最近のシビック タイプRと比べると派手さ、いかめしさ、メカメカしさが抑え気味なようにも見える。そのあたりについて原さんに聞いてみた。
デザイン担当を直撃!
マイナビニュース編集部:これまでに比べると、大人っぽい雰囲気ですね?
エクステリアデザイン担当の原大さん;先代のポイントが「アグレッシブ」「強さ」「存在感」だったとすれば、今回は「色気」「艶」「上質さ」を大切にしました。年齢層を挙げるつもりはないのですが、車格を上げたいという考えです。
前のモデルは、すごく好きな人もいれば「自分にはちょっと……」という人もいて、けっこう「ラブアンドヘイト」がありました。今回のモデルは、今までタイプRに興味がなかった人にも響くようなデザインになっていると思います。「万人受け」を狙ったつもりは全くないのですが、より多くの人にカッコいいと思っていただけるのではないでしょうか。
編集部:なぜ、そうしたデザインが可能となったんですか?
原さん:タイプR専用のパーツが先代より増えました。これまではベースのシビックを流用し、ワイドボディ化するにあたり後付けでオーバーフェンダーをくっつけたりしていたんですが、それだとどうしても、ベース車を強化していくようなプロセスになってしまいます。今回はリアドアやリアフェンダーなど、タイプR専用に一体で作った部分が多く、ベースがそのまま残っているのはルーフ、テールゲート、フロントドアくらいです。タイプRのために生まれた形がより増えたことで全体の一体感が増し、ガチャガチャした印象は取れて、タイプRとしての本質的な迫力を出せたかなと思っています。
先代と同じ手法で作る方法もあったんですが、それだと作る意味がないといいますか、ベースのシビックが新しくなっただけで、タイプRとしての新しさが出せません。柿沼さんとも議論して、次の次元に挑戦しようという話になりました。もちろん、デザイン側でやりたいといっただけではできないのですが、初期から開発チームとも共有して、「集大成、完成形というからには、これくらいやらないとね」といっていただけました。
編集部:タイプRは美しさのために速さを犠牲にできないクルマでしょうから、デザインは大変なんでしょうね。
原さん:「FF(前輪駆動)最速のクルマ」というキャラクターが確立されてきていますから、速いのは当たり前になってきているのですが、速いことを言い訳にせず、美しさや品質にもこだわりました。
編集部:まさに第2世代のタイプRになっていますね。
原さん:第2世代のタイプRは、すごく懐の広いクルマです。サーキットはもちろん、街中でも乗っていただけるのですが、それにしては、エクステリアが少しとがりすぎていたかもしれません。新型はクルマとしての素性とデザインの印象が、よりマッチしたのではないかと思います。本当にやりたかったことができました。
ぱっと見は今までと違いますが、ひとつひとつのパーツを見ていただくと、先代以上に研ぎ澄まされていることがわかってもらえるはずです。単純に「要素が減っておとなしくなったタイプR」ではないということも、理解していただけると思います。