オフィス契約時に不動産オーナーに支払うことが商慣習となっている”オフィス敷金”をゼロ円にする「敷金フリーオフィス」の普及を目指す『敷金を成長資金に。プロジェクト』が14日、都内で本格始動した。日商保の取り組みに、東急不動産などが賛同している。

プロジェクト始動の背景

いま首都圏では、オフィスの賃貸契約時に家賃の半年~12カ月分のオフィス敷金が必要。これが長らくスタートアップのような小さな会社の成長の足かせとなってきた。そこで本プロジェクトでは敷金フリーオフィスを提供することで、企業の成長を促していく。

日商保 代表取締役社長の豊岡順也氏は「日本国内で『オフィス敷金』は約4~5兆円の預託があると推定されています。この眠った敷金を企業に活用してもらう方法を考えていました」と説明。本プロジェクトを通じて、スタートアップが新しい事業にチャレンジしやすい環境をつくっていけたら、と抱負を述べる。

  • 日商保 代表取締役社長の豊岡順也氏

これまで日商保では、オフィス・店舗の敷金を減額する「敷金減額保証サービス」を提供してきた。これは日商保がオフィスオーナーに対して、削減した敷金分の保証を提供する仕組み。オフィスオーナーは、万が一のことがあれば日商保から支払いを受けることができる。本プロジェクトでも、こうしたノウハウが活かされる。

  • 日商保の「敷金減額保証サービス」

岸田文雄内閣では2022年をスタートアップ創出元年と定めており、スタートアップ育成5か年計画を骨太の方針に据えている。官民挙げてのスタートアップ育成に期待が寄せられるこのタイミングをとらえ、本プロジェクトも本格始動となった。

「企業が創業時または移転時に支払ったオフィス敷金、保証金の額は平均で455万円、最高額で2億円とも言われています。そこで新しい資金調達の手段として、敷金フリーオフィスを提案します。コスト圧縮により確保できた資金は、設備投資、社員雇用、新規事業の開拓、社員へのボーナスなどに充ててもらえたら。日商保では、賛同するオフィスオーナーさんと、中小企業、スタートアップの皆さんの架け橋になります」(豊岡氏)

  • プロジェクトの概要。不動産オーナーにとっては入居の促進、不動産価値の向上が図れる

プロジェクトでは3年後(2025年)までに5,000区画の敷金フリーオフィスの整備を目標にしている。「金額ベースでは、約625億円のオフィス敷金がスタートアップの事業成長に使える、そんな環境を目指します。東京・福岡を拠点に、全国のスタートアップに向けて敷金フリーオフィスを拡大していきます」と豊岡氏。

  • プロジェクトの目標

このあとゲストとして、経済学者で明治大学教授の飯田泰之氏、および会計学の専門家で法政大学教授の川島健司氏が登壇した。

飯田氏は「これからオフィスを構えたいと考える多くの企業がスタートアップです。スタートアップは、創業時は赤字。彼らにとって、預けても何も利益を生まない、休眠資金になってしまうオフィス敷金は大きなハードルとなります。でも敷金フリーオフィスにより『敷金ロス』を改善できれば、成長機会を損ないません。一方でオフィスオーナーとしても、債務保証方式のためデメリットは抑えられる。本プロジェクトは、ほとんど損をする人がいなくて、でも大きく得をする人がいる、そんな取り組みになっていると感じます」と解説。

  • 明治大学教授の飯田泰之氏(左)、法政大学教授の川島健司氏(右)

また川島氏は「日本経済全体にとっても、非常にインパクトのある取り組みだと思いました。敷金を流動化できれば、企業は得られた資金を有効活用でき、事業成長を促すことができます。敷金の流動化はバランスシートの改善、企業価値の向上に直結する施策。これを切り口に企業は、財務政策の戦略的かつ抜本的な変革に結びつけることができるでしょう」と分析する。

このあと、本プロジェクトに賛同する東急不動産から東川健太氏が、また敷金フリーオフィスを利用しているカメラブ CFOの小林晋平氏が登壇した。

東川氏は「東急不動産では、敷金ゼロ円で入居可能なフレキシブルオフィス『QUICK』(クイック)、コンパクトビル『COERU渋谷』などを通じて、企業の多様なニーズに対応しています」と紹介。特に渋谷エリアは”聖地”と言われるほどスタートアップ企業が多いため、今後も企業の成長を最大限にサポートできる体勢を整えていく、と話した。

  • 東急不動産 都市事業ユニット都市事業本部ビル営業部の東川健太氏(左)、カメラブ 取締役CFOの小林晋平氏(右)

小林氏は「敷金フリーオフィスを利用したことで、数千万円を削減できました。その資金はソフトウェアの開発に充てています。結果としてユーザーの獲得につながり、売上が向上しました」と報告する。カメラブはリモート環境で事業を大きくした会社だが、現在はスタッフ全員とオフィスで会うことができるようになった、と小林氏。「膝を突き合わせることで、良い案も出るようになりました」と話している。

  • トークセッションの様子

最後に豊岡氏は「日本経済を活性化させるカギのひとつは、スタートアップの育成、中小企業の支援。民間でも、このような取り組みで日本経済の活性化に寄与できれば幸いです」と力を込めた。