東京が猛暑に包まれた先週末、沖縄には台風4号が接近、大荒れの天候となった。7・2沖縄アリーナ『RIZIN.36』も荒れに荒れた。メインエベントに出場予定だった前RIZINバンタム級王者・朝倉海(トライフォース赤坂)が古傷のある右拳を傷め欠場。

  • 平本蓮が、大荒れの沖縄でRIZIN初勝利! ようやく体現できた「迷いなき闘い方」と「今後の可能性」─。

    打撃中心の攻めでRIZIN初勝利を得た平本蓮(右)。鈴木博昭に右ストレートを見舞う(写真:RIZIN FF)

これによりPPV(ペイ・パー・ビュー)は無料配信に。そしてメインエベントには、平本蓮(ルーファスポーツ)vs.鈴木博昭(BELLWOOD FIGHT TEAM)が昇格。この一戦、「打撃だけで闘い勝つ!」と宣言していた平本蓮が、ついにRIZIN初勝利を収めた。"美しきドブネズミ"の「勝因」と「今後の可能性」─。

■テイクダウンを許さなかった

「今日はプラン通りに3ラウンドを通してコントロールできました。勝ったからこそ見えてくる景色がある。負けても得られるものもあるけど、今日の勝ちで得たものは大きい。早い時期に次の試合もして勝ち癖をつけたい」
「チンピラ萩原京平をぶっ飛ばしたい。次でもいいし、次の次でもいい。(再戦を)ごねてきたら、次に強い奴を倒して『やろうぜ』と迫りますよ」

試合後にインタビュースペースに現れた平本蓮は、MMA(総合格闘技)初勝利にご機嫌だった。
メディアとの受け答えの中で「ホッとしました」とも口にした。本音だろう。
朝倉海の負傷欠場によりメインエベントを任された。未勝利選手でありながら、話題性がある男ゆえの抜擢。試合内容は決して派手ではなかったが、自分のペースで試合を進め勝利を掴むことはできた。

試合は、キックボクシングを観ているような打撃戦に終始した。これは平本の作戦通りの展開だったであろう。逆に鈴木は作戦を遂行できなかった。
1ラウンド、平本が打撃の攻防でアドバンテージを得る。
オーソドックスに構える平本の右ストレートが、サウスポーの鈴木の顔面にヒット。鈴木はテイクダウンを狙い組みつくも平本は倒れない。中盤に倒されるシーンもあったが体幹力とバランスコントロールですぐに起き上がった。

  • 1ラウンドに幾度もタックルを仕掛けた鈴木博昭(右)。だが、平本はテイクダウンを許さず(写真:RIZIN FF)

「ひっ倒して、上になってボコボコに殴るつもりでした。でも(平本の)テイクダウンディフェンスが思ったより強かった」
試合後に鈴木はそう話している。
テイクダウンを許さなかったことが勝敗のポイントとなった。

■平本蓮の闘いの「軸」

今回の平本は、ファイトプランに迷いがなかった。
得意の打撃で勝負することを貫いたのだ。それは、過去2戦を反省しての選択、決意だったであろう。
総合格闘技デビュー戦は、萩原京平(SMOKER GYM)にグラウンドの展開に持ち込まれ何もできずに敗れた。前回の鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)戦も組みつかれた後の対処ができず、戸惑い続け判定負けを喫している。平本は、これまでMMAを迷いながら闘っていた。自分が何者であるかを見失っていたのだ。

平本は何者か?
ストライカーである。その強みを活かさない手はない。弱点である組み(レスリング)を少しずつ強化しながら、長所で勝負をする。今回の試合で彼は、このプランを迷いなく遂行できた。

  • フルラウンドを闘い終え、判定を待つ両雄。ジャッジ2者が平本を支持した(写真:RIZIN FF)

勝利は判定で、2-1のスプリット。KOで勝ったわけではない。
それでも、鈴木戦で自らの闘い方の「軸」を得たことは平本にとって大きな収穫だった。今後の練習プランも、さらに明確化されたはずだ。
<グラウンド展開は、ディフェンスを中心に練習するが、試合では基本として捨てる>
<テイクダウンディフェンスは、さらに強化し試合で活かす。そのうえで得意な打撃に磨きをかけていく>
トレーニング、試合を続ける中で、闘い方の引き出しも増えていこう。
このシンプルなやり方こそが平本の魅力を、飛躍的に引き出していくのではないか。
K-1ファイターから『PRIDE』ヘビー級3強の一角へと上り詰めたミルコ・クロコップ(クロアチア)と同様のやり方だ。

「俺は絶対にUFCでチャンピオンになるし、RIZINでもチャンピオンになれる」
まだMMAで初勝利を飾ったばかりだが、平本のビッグマウスは変わらない。
「僕はいま、24(歳)で、40(歳)まで格闘技を続けたいと思っている。まだ16年あるんですよ、全然これからです」

  • 「天心vs.武尊が終わって、朝倉兄弟が終わって、これから平本蓮の時代です!」。勝利が告げられた直後、リング上でそう話す平本蓮(写真:RIZIN FF)

まずは、長所を活かす闘いを貫く。壁にぶちあたる日も来よう。それでもプランは変えず質の向上に粘り強く努めれば「開花」の可能性は十分にある素材のように思う。
単なるビッグマウスに終わるのか、稀代の格闘家に昇華するのか、長い目でしかと見届けたい。
おそらく彼は、年内に2度闘いの舞台に上がるだろう。秋と大晦日。
対戦相手は誰になるのか?
萩原京平との再戦はあるのか?

大晦日のリング、実力の違いは承知の上で朝倉未来(トライフォース赤坂)との対峙を観たいとも思う。朝倉にとっては不要だが、平本には将来の糧となる闘いになろう。SNS上での舌戦もあり「朝倉が引退する前に…」と期待する向きもある。話題性も重視するRIZINのリングなら、そして地上波のテレビ中継ではなく有料配信になるのなら、あり得ないマッチメイクでもない。

文/近藤隆夫