皆さんは、ご自身が将来受け取る退職金や年金、老後のお金について考えたことがありますか?

企業にお勤めの方は「退職金や年金がもらえるのはまだ何十年も先だし、考えたこともない」「貯金しているから大丈夫なのでは……」「年金と合わせて、退職金もたくさんもらえるから大丈夫」なんて思っている人も多いのではないでしょうか。

今回はそんな方々にも分かりやすく老後のお金について若いうちからどう向き合っていくべきか、退職金に関するセミナーの講師を数多く行っているJapan Asset Managementの恒次が徹底解説していきます!

■退職金運用の現状

【だいたいいくらもらえるのか】

一般的に受け取る退職金の金額がどのくらいなのか、皆さんはご存知ですか。退職金をいくらにするかは、法律では定められていないので、会社ごとに退職金の有無や計算方法が異なります。

企業の規模や、勤続年数などによっても変わってきますが、大学・大学院卒で定年退職した人(勤続20年以上かつ45歳以上)の退職金の平均額は全体で約2,000万円、勤め先が大企業だと約2,500万円、中小企業だと約1,100万円と言われています。

【退職理由で退職金の額は大きく異なる】

その他にも、実は退職理由によっても受け取る金額は異なってきます。近年は早期優遇退職(または希望退職)と呼ばれる退職も増えていて、これらを募集する企業は2020年の新型コロナ流行をきっかけに非常に増加しています。早期退職の場合、「退職金の上乗せ」をされることが多いので、他の退職理由の金額と比較して高いのが特徴です。

  • 図1「退職理由ごとの平均額」
    (出典)総務省統計局 平成30年就労条件総合調査「退職給付(一時金・年金)の支給実態」

【一般的な退職金の使い道とは】

まとまった金額がもらえる退職金ですが、実際に受け取った後どのように使われているか、考えたことはありますか。身近な友人や家族、会社の同僚に普段の会話で「退職金いくらもらったの?」「何に使うの?」なんてあまり踏み込んだ質問はしないことが多いですよね。

  • 図2「一般的な退職金の使い道」
    (出典)投資信託協会 60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査報告書-2021年(令和3年)

実は受け取った退職金を「預貯金として大切に保管しておく」という方が最も多く、その次に「生活費や趣味の資金として充てている」という結果となりました。

さらに、「資産運用」という回答は第5位となっており、全体の2割程度にとどまっていて、「貯蓄から投資へ」のスローガンが掲げられるようになってしばらく経ちますが、まだ、退職金の運用は広まっていないということが分かりますね。でも、実は退職金に限らず資産運用をすることは皆さんの老後の生活のために、とても重要なのです。

■なぜ資産運用が必要なのか

【インフレに負ける?】

そもそも資産運用が必要な理由は何でしょうか。

一つ目の理由は、インフレに負けるからです。慣れ親しんだお菓子から高速道路料金に至るまで、最近身の回りで相次いで値上げのニュースを耳にします。買い物をする際に、値段が上がったと感じる人も多いのではないでしょうか。このように物価が上がる現象のことをインフレ(インフレーション)と呼びます。

  • 図3「70年間の年収、消費者物価の推移」
    (出典)総務省統計局 小売物価統計調査、内閣府 年次経済財政報告、日本銀行 ホームページ

1950年からの過去70年の物価は上昇の一途をたどっています。その分、サラリーマンの年収も33倍に増えてはいますが、大卒の初任給はここ20年横ばいが続いていて、物価上昇のスピードに追いついていない状態です。欲しいもの、やりたいことが尽きない若い世代にとっては、少ない給料でやりくりしながら、貯金もする、なんてことはなかなか苦難を強いられる時代であることが分かりますね。

  • 図4「インフレによる物の価値と預金に回したお金の価値の比較」

また、ここで注目して頂きたいのが「物価が上がる(=物の価値が高まる)ということは、その一方でお金の価値が徐々に下がっている」という点です。つまり、いくら若いうちからコツコツ資産を蓄えていても、知らない間に現金の価値が減少していたなんてことが起こりうるのです。そのため、“資産を増やす”だけでなく“資産を守っていく”ために運用を行う意識を持つことが大切です。

【日本は世界トップの長寿国】

二つ目の理由は、日本が世界でもトップクラスの長寿国だからです。

  • 図5「日本の平均寿命チャート」
    (出典)国立社会保障・人口問題研究所 「日本版志望データベース」(2020年までの実績値)、「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(2021年以降推定値)

2020年時点で日本の女性の平均寿命は87.7歳、男性であれば81.5歳と言われており、日本の平均寿命は今後も、徐々に延びていくと考えられています。そうすると60~65歳で退職した場合、年金以外の収入がない中で20〜30年と生きていかなければならないという状況が待っているのです。

■本当に貯金だけだと足りなくなるのか?

【運用をした場合としない場合のシミュレーション】

では、どうして寿命が伸びると資産運用が必要になるのでしょうか。皆さんは退職金を現金のまま預貯金に回す場合と、運用に回していった場合とでは、将来的にどのくらいの差になるか知っていますか。

  • 図6「60歳時点で2,500万円あった金融資産を毎月10万円ずつ取り崩す場合のシミュレーション」
    (出典)楽天Life Plan Innovationより

こちらは、退職金2,500万円を60歳時点で受け取った方が、毎月生活費を10万円ずつ取り崩していく場合のシミュレーションです。

◆全く運用しない場合(グレー)
→約20年後に資産が底をつきてしまいました。つまりなんと、80歳以上長生きする場合、途中でお金が足りなくなってしまうのです……
◆年3%で運用した場合(青)
→運用をしない場合と比べて、資産の寿命を10年ほど延ばすことができました!
◆年5%で運用した場合(オレンジ)
→なんと、100歳を超えてもお金が枯渇しないという結果になりました!

今回は10万円としていますが、「もう少し趣味や旅行で贅沢したい」さらには「夫婦2人暮らし」といったケースもありますよね。そうすると、取り崩す額がこれより増える場合も大いに考えられます。

したがって、ご自身の思い描く将来に向けて、若いうちから老後のお金といった資産を賢く運用していくすべを身に付けておく必要があるのです。

■でも投資って怖い

【米国では当たり前?】

資産運用の必要性はわかったけど、「難しそう」「ギャンブルみたいで怖い」という印象を持っている方も多いのではないでしょうか。

日本人の資産運用に対する認識の低さは、実際に世界の国々と比べてみた際に顕著に現れています。

  • 図7「家計の金融資産構成(日米比較)」
    (出典)日本銀行調査統計局 資金循環の日米欧比較(2021年8月21日)

一方、金融リテラシーが高い米国では、家計の金融資産に占める「現金・預金」の比率が日本の4分の1ほどしかなく、逆に「株式等」が4倍近くもあります。日本と比べると家計の金融資産構成に実際これだけの差が生まれています。また、米国では子供に金融教育を学ばせるのは当然という考え方が主流なので、一部の人に限らず当たり前に資産運用を行う習慣が幼少期から身についているのですね。

日本では“増やすこと”だけに焦点があたり、損するリスクが強調されて資産運用に「怖い」という印象を受けがちですが、投資手法次第では、“資産を守っていく”という考え方もできます。たとえば、安定した収入が毎年得られて資金計画が立てやすい「債券」を資産の一部に組み入れるなど……。実際、弊社でもお客様に退職金運用をご提案する際、「守りの資産」として債券での運用をお勧めするケースも多いです。

さて、ここまで退職金を中心にお話をしてきました。次回は、退職金がそもそも貰えない・本当に支給されるかわからない人のために、老後のためにいくら必要なのか?を解説していきます。