3月に新型コロナ感染症に対するまん延防止等重点措置が終了し、はや3カ月がすぎました。GWには観光地も賑わい、世の中は"ウィズコロナかコロナ後"になりつつあるのでしょうか。
先日、アメリカの電気自動車大手テスラのイーロン・マスク氏(CEO)が、「週に40時間会社で働かない人は辞職したとみなす」と社員たちに通達したことがニュースになりました。私のクライエントでも、2年ぶりに社員達に出社を求める会社も出てきました。毎日の出社を義務化した会社や週、月の出社回数の上限や下限を設けた会社もあります。その内容は会社によりけりで、社員達の働き方にも本当に多様性が出てきました。
久しぶりの出社で、同僚に会えて近況報告に花が咲く人、通勤が適度な運動になる人、出社しただけでなんだか在宅勤務時以上に働いた自己満足を得られる人、いろいろな人がいるようです。しかし、このような中、久しぶりの出社勤務を喜べず、不満やストレスを感じてしまうという相談も増えています。
久しぶりの出社勤務を喜べない人に必要な心構え
Aさんは勤続20年以上の50代女性でした。4月は週3日の出社勤務が、5月になり、毎日の出社勤務が社員たちに通達されました。2年間在宅勤務でできていたのに、出社しなければならない理由が納得できないと上司に訴え、上司の説明にも納得いかず、人事に回され、人事にもそのことを訴えましたが、在宅勤務の特例を認めてもらえず泣いてしまったため、産業医面談を紹介されました。
話を聞いてみると、高齢の母親と暮らすため、可能な限りコロナ感染のリスクを減らしたく、在宅勤務を望んでいるようでした。勤続が長いAさんは、業務内容は全て把握しており、出社するメリットを本人は感じることはできず、出社勤務は不満以外の何ものでもないとのことでした。
コロナ禍で数々の面談をしてきた私の経験上、御高齢者と暮らす社員はそうでない社員に比べ、外出によるコロナ感染リスクを気にすることが多いです。今回のAさんもまさにそうでした。お気持ちは理解できること、しかし、出社勤務か在宅勤務は会社に決める権利があること、また、今後はそのような働き方の違いが、就職(転職)の際に大きなポイントになること(つまり、不満であれば在宅勤務を続けられる会社に転職することが勧められること)をお伝えしました。
動物は、何か嫌なこと、危険なことが起こると、fight or flight(戦うか逃げるか)という行動を本能的にとります。私たち人間もそうですが、人間である以上、そして、大人である以上、もう1つの選択肢があると思います。
それは「受け入れる」です。
出社勤務は法的には会社に決定権があるのだから、納得して受け入れる。納得はできなくても、文句を言ってもしょうがない、会社の方針に逆らっても意味がないし、このために退職したいとは思わないから、諦めて受け入れる。納得もいかないし諦めもできないが、個人の力ではどうにもならないことはわかるので、割り切って受け入れる。様々な受け入れ方があると思います。
不満やストレスを溜めないために、ぜひ、受けいれることができるといいと思います。
上手に適応するために規則正しい生活が重要な理由
私のクライエントには、出社勤務が毎日ではなく、在宅勤務と併用されている会社もあります。いわゆるハイブリッド勤務です。その中でも、週何回は出社することなど決まっている会社もあれば、社員が自由に設定できる会社もあり、まさに多様性です。
Bさんは入社5年目の20代の男性で、彼の会社は、週に最低1日は出社すればいいという方針でした。Bさんにとって出社勤務は、ワンルームの自分の家からの脱出であり、同僚たちとのリアルな交流の場でもあり、出社勤務を喜び、春からは週3日出社していました。
Bさんは、出社勤務の後は友人たちと飲み歩き、帰宅が遅く睡眠時間も短くなっていったそうです。一方、在宅勤務日も、出勤日にみることのできなかった動画を見たり、家事をしたり、出社日の飲食店を調べることで忙しく、睡眠時間が短くなってしまいました。次第に日中の眠気に勝てなくなり、午後の会議中に居眠りしていることを数回注意されたのち、産業医面談に紹介されてきました。
面談で聞いてみると、特に仕事の量や質、出社か在宅かなど、仕事においてのストレスはないようでした。プライベートでも特に思い当たる不眠の原因はなく、彼の眠気は睡眠時間が急に短くなってきていることが原因であること以外、特に思い当たるものがありませんでした。
Bさん自身会議中に寝てしまったことを反省しており、プロとしての自覚を持つこと、そのためには、会議中は寝ないということだけではなく、生活に自己規律をもち、最低限の睡眠時間を確保することを約束してもらいました。
クライエント企業たちの出社に関するやり方を見ていると、社員たちが自分の好きに出社頻度(在宅頻度)を選べるフレキシビリティ(自由度・裁量度)こそが、ストレスの少ない働き方と言えます。しかし、このフレキシビリティ(自由)を上手に使いこなすためには、それなりの自己規律が必要なようです。
特に、在宅勤務からハイブリッド勤務、出社勤務への変化の時には、疲労を溜め込まないための自己規律が必要です。
最も大切にしたいのは「〜しない」を心がけること
人は変化にさらされた時、3種類の疲労をためます。通勤や外で過ごす時間が増えたことなどによる肉体的な疲労、他人と接する/他人に見られる時間が増えたことによる精神的な疲労、そして、生活リズムの変化に伴う生活の疲労です。
いずれも、時間の経過とともに心身が変化に慣れることで、疲労が自然に消える人が多いです。しかし、ときに、いくつかの疲労が重なってしまったり、まとまって蓄積してしまったりすると、健康を害するレベルになってしまいます。
では、どうすれば疲労をため込まないことができるのでしょうか。産業医から2つしてはいけないことを処方箋として出させていただきます。
まずは、疲労を溜め込まないために、何事もやりすぎない、頑張りすぎないことです。自分に甘くなれと言うのではありません。疲れている自分やいつもと違う自分に気がついた時は、頑張りすぎる自分を制する必要があると言うことです。
出社勤務が始まるのと同時に、何か習い事をはじめたり、資格取得の勉強をはじめたりする人たちもいます。うまくいっているのであればいいのですが、もし仮に、少しでも自分の調子が良くないと感じるのであれば、しばらくはそのような新たな頑張りはしなくてもいいのではないでしょうか。
次に、疲労を溜め込まないためには生活のリズムを一定にしておく必要があります。そのために大切なのは、睡眠習慣を崩さないことです。在宅勤務は通勤時間がかからない分、朝眠れるから夜更かししてしまう。出社勤務日は疲れるから帰宅後、一度夕寝してしまい、夜入眠しずらくなってしまう。良かれと思ってやったことでも、結果的に生活のリズムを崩してしまうこともありますので、注意が必要です。
最近の「Back To Office(出社再開)」への流れ。これはストレスではありません。あくまでも、生活(働き方)の変化です。「変化に適応したものだけが生き残る」とは、ダーウィンの言葉ですが、早く適応するための特効薬はありません。
疲労の蓄積は私たちを、あらゆる変化に適応しづらくし、ネガティブな影響を受けやすくします。Back To Officeがはじまった会社の社員は、ぜひ、しばらくは、規則正しい生活と、頑張りすぎない生活を心がけてください。そうすれば、ゆっくり適応できると思います。