岸田総理は6月の記者会見で出産育児一時金の増額を表明しました。このような施策を打ち出す背景には、深刻な少子化があります。子育てしやすい環境の整備、金銭面での支援など、少子化対策は重要な課題となっています。現在でも、出産、育児に関する制度はさまざまあります。ただ、育児に追われて、肝心の制度を利用できていないケースもあるでしょう。そこで、出産・育児関連の制度をここでまとめてご紹介します。

  • 出産育児一時金が増額へ、申請しないと利用できない出産・育児関連制度はこんなにある

■出産育児一時金の増額はいつから?

岸田総理が表明した「出産育児一時金」の増額はいつから実施されるのでしょうか。 6月15日の総理の増額発言を受けて、松野博一官房長官は17日の記者会見で「政府として年末の予算編成過程において結論を出し、23年度から実施したい」と述べています。早ければ2023年度からの実施となるようです。

現行では、出産育児一時金は子ども1人につき42万円支給されます。ただ、出産費用は増加傾向にあり、全国平均で一時金を上回っている状況です。そのため、政府は出産費用の実態を分析して、厚生労働省の審議会で具体的な上げ幅などを議論するとのことです。

出産育児一時金は出産に関する費用負担の軽減のために、公的医療保険から出産時に一定の金額が支給される制度です。この他にも出産に関する制度、育児に関する制度はいろいろあります。それぞれ見ていきましょう。

■出産に関する制度

ニュース報道では、円安によって輸入品が高くなるなど、円安が悪いこととして捉えられていますが、円安にはメリットとデメリットの両方があります。

*出産育児一時金

健康保険の被保険者またはその配偶者が出産した場合に、一児につき42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は40万4,000円)が支給されます。 原則として、医療機関に直接支払う仕組みとなっており、42万円以上の場合は差額を医療機関の窓口で支払い、42万円に満たない場合は差額が健康保険組合から被保険者に支給されます。

*出産手当金

社会保険の被保険者が出産のために会社を休み、給料の支払いを受けなかった場合に支給されます。支給額は、標準報酬日額の3分の2相当額が、原則出産前42日間(多胎妊娠は98日間)、出産後56日間の合計98日間支給されます。出産日が予定より遅れた場合は遅れた日数分も支給されます。

*妊婦健康診査費用の助成

正常な妊娠は病気ではないため、健診費用は健康保険の対象とはなりません。その代わり、住んでいる自治体が費用の助成を行っています。市区町村に妊娠届を提出すると、妊婦健康診査の受診票が交付されます。それを医療機関の受付に提出することで健診を受けられます。妊婦健診の回数は妊婦の身体状況、胎児の発育状況によって異なりますが、妊娠期間中に概ね14回あります。

■育児に関する制度

*育児休業給付

雇用保険の被保険者が育児休業を取り、給料が支払われなくなった場合に支給されます。原則1歳(パパママ育休プラス制度※を利用する場合は1歳2カ月、保育所等に入れなかった場合は最大2歳)未満の子どもを養育するために育児休業を取得することが条件となっています。支給額は休業前の賃金の50%、ただし、休業開始から180日目までは67%となります。

※パパママ育休プラス制度は、両親がともに育児休業を取得する場合に、育児休業の対象となる子の年齢が、1歳2カ月まで延長される制度です。1人当たりの育休取得可能最大日数(産後休業含め1年間)は変わりません。

*小児医療費助成制度

健康保険の自己負担分(小学校入学前は2割、小学校入学以後70歳未満は3割)の一部または全額を自治体が助成する制度です。各自治体によって名称はさまざまで、助成対象の年齢や制度の内容も異なります。

東京都では未就学児には医療費の自己負担分の半額、小中学生には自己負担分から200円を引いた額の半額を補助し、区市町村が残りの部分を負担して、結果的に中学生までの医療費が無料となっています。2023年度から高校生まで医療費の無料化を拡大する方針を固めています。千代田区や武蔵野市などは独自に高校生まで無料となっています。

*幼児教育・保育の無償化

幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳児クラスの子どもの利用料、 住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子どもの利用料が無料になります。 (通園送迎費、食材料費、行事費などは、保護者の負担になります。)

幼稚園の預かり保育は、市区町村から「保育の必要性の認定」を受けると、利用日数に応じて、月額1.13万円までの範囲で預かり保育の利用料が無償となります。

■出産・育児による不利益をなくす制度

*健康保険料・厚生年金保険料の免除制度

育児休業期間中や産休中は、健康保険料や厚生年金保険料の支払いが被保険者と事業主ともに免除されます。この免除された期間は、将来の年金額を計算するときに、休業直前の月給に基づいた保険料を納めたものとして扱われます。

これまで国民年金加入者にはこうした制度はありませんでしたが、2019年から「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」が始まりました。出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間(多胎妊娠の場合は3カ月前から6カ月間)の国民年金保険料が免除されます。この免除制度を利用するには住民登録をしている市区町村の国民年金窓口への届出が必要です。なお、国民健康保険料の免除はありません。

*育児休業終了時の報酬月額変更

育児休業を終えて仕事復帰をする際、時短勤務を希望する人は多いと思います。その場合、休業前よりも給料は減っているのに、社会保険料の計算のもとになるのは休業前の給料なので、割高な保険料を支払うことになります。そこで、被保険者から事業主を通して、日本年金機構に届出を行うと、育児休業終了後3カ月間の給料の平均額に基づき、4カ月目の標準報酬月額から改定することができます。これによって給料に見合った保険料を納めることができます。

*養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置

上記の「育児休業終了時の報酬月額変更」によって、支払う保険料が少なくなると、将来もらえる年金額も減ってしまいます。そこで、養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう、子どもを養育する前の標準報酬月額を養育期間中の標準報酬月額とみなして年金額を計算します。これによって、出産・育児をしたことによって年金額が減少するという不利益をなくすことができます。この特例は、子どもが3歳までの間、時短勤務などの措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合に、被保険者が申請することで受けることができます。

出産・育児に関する制度はさまざまありますが、申請をしないと受けられない制度が多く、制度自体を知らないために利用していないケースが多々あるように思います。こうした制度を知って、出産・育児が不利益にならないよう大いに活用してほしいと思います。