江崎グリコは13日、社内に『タンサ(短鎖)脂肪酸プロジェクト』を立ち上げたと発表した。人の腸内で産出されるタンサ脂肪酸による抗肥満などの研究成果を広く情報発信し、また腸から健康になる生活習慣を人々に啓発していくとしている。同日、メディア向けに発表会を開催した。

  • 江崎グリコが『タンサ(短鎖)脂肪酸プロジェクト』をスタート

タンサ脂肪酸とは?

冒頭、江崎グリコ 乳業・洋生菓子マーケティング部の中川充子氏が登壇して詳細を説明した。

タンサ脂肪酸とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が食物繊維などをエサにして大腸内で生み出す成分。研究の結果、整腸作用や悪玉菌の抑制作用のほか、抗肥満作用、腸管バリアの向上、免疫力の向上、生活習慣病の予防、水やミネラル(Na・Ca・Mg)の吸収促進など、多くの機能を持つことが明らかになっている。総ビフィズス菌数を増やし、タンサ脂肪酸をより多く作ることで人の腸内には好循環が起こり、腸内環境が改善するという。

  • 江崎グリコ 乳業・洋生菓子マーケティング部の中川充子氏

中川氏は「江崎グリコでは人々の健康寿命の延伸のお役に立つため、腸、腸内細菌の研究を進めています。特に肥満と密接に結びついた様々な疾病対策の解決手段と成りうる、ビフィズス菌とタンサ脂肪酸の研究に注力しています」と説明。同社では専用のポータルサイトを立ち上げ、タンサ脂肪酸に関する最新研究、タンサ脂肪酸を増やすための食生活などの情報発信を行っていくと話した。

  • 『タンサ(短鎖)脂肪酸プロジェクト』サイトより

肥満とタンサ脂肪酸

次に、赤坂ファミリークリニック 院長の伊藤明子氏が「世界各国の肥満動向と腸内環境 ~特に短鎖脂肪酸に着目して~」と題するセミナーを実施。はじめに世界における傾向を伝えた。それによれば、いま世界中で肥満者が増えているという。「肥満は、高血圧、喫煙、大気汚染、高血糖に次ぐ死因リスクの第5位。つまり肥満になると死にやすい状況になるわけです」と伊藤氏。

  • 赤坂ファミリークリニック 院長の伊藤明子氏

コロナ禍により世界の肥満傾向はより顕著になった、と警鐘を鳴らす。日本国内では現在、人口の3割くらいが肥満の状態だが、これは世界的に見ればまだ低い水準。ちなみに海外ではBMI 30以上を肥満、日本国内ではBMI 25以上を肥満と定義しているため、海外の肥満率の高さは顕著だ。

このあと伊藤氏は肥満のメカニズムに言及。その対策としては「腸内環境を整えること」の大切さに触れる。腸内環境が改善すると、肥満症、糖尿病、脂肪肝にとどまらず、心・身・脳、全身のあらゆる疾病が改善していくと説明した。さらには腸内フローラの細菌は種類が多い(多様性がある)ことが重要で、それは食物繊維によって増やすことができる、と伊藤氏。最後に「腸内環境の改善とタンサ脂肪酸を増やすため、食物繊維を摂取し、プロバイオティクス、充分なタンパク質、ビタミン、ミネラルを摂取し、運動し、よく睡眠をとって、ストレスを管理、人との交流も大事にしましょう」とまとめた。

タンサ脂肪酸は美味しくない

そして江崎グリコ「タンサ(短鎖)脂肪酸探査チーム」から2名がプレゼンを行った。江崎グリコ 商品技術開発研究所の齋藤康雄氏は、まずビフィズス菌について説明する。小腸で働く乳酸菌は発酵食品全般に含まれ、乳酸を作るが、大腸で働くビフィズス菌はヨーグルト、サプリメントに添加して摂取できること、また乳酸、タンサ脂肪酸の両方を作れることに触れて「より広く、より多彩にヒトの健康に働きかけることができる菌」であると解説。そこで、ビフィズス菌の研究を進めていると話す。

  • 江崎グリコ 商品技術開発研究所の齋藤康雄氏

さらには「ビフィズス菌が腸内で働くためには胃酸、胆汁、ほかの腸内細菌に負けない強さが必要ですが、ビフィズス菌BifiX(ビフィックス)なら消化液に強い。またビフィズス菌BifiXには、タンサ脂肪酸の割合を高める働きもあります」と齋藤氏。以上を踏まえ、全身の受容器に作用して健康機能を発現するタンサ脂肪酸、および腸内ビフィズス菌を素早く増やしてタンサ脂肪酸の割合も増やすビフィズス菌BifiXの研究を深めていくことで、今後、未知の機能も解明していきたいと意気込む。

江崎グリコ 商品技術開発研究所の馬場悠平氏は「ビフィズス菌BifiXは腸内で増殖してタンサ脂肪酸を産出することで、抗肥満作用を発揮することがヒト試験でも確認されました」と説明する。いまタンサ脂肪酸は世界的にも研究が盛んで、論文数も急増している、と馬場氏。脳への影響、肌あれ、大腸がん、アレルギー、便秘、肥満、内臓脂肪など、様々な機能に影響を与えることが分かってきたと紹介する。

  • 江崎グリコ 商品技術開発研究所の馬場悠平氏

ただ残念なことには、タンサ脂肪酸は口から摂取しても十分に働かない。しかも匂いが強く、食べても美味しくないのだという。そこで生きて腸まで届くビフィズス菌BifiXを摂取し、また同時に水溶性食物繊維を食べることで、自身の腸内細菌にタンサ脂肪酸を作ってもらうことが大事だと説明する。「タンサ脂肪酸には大きな可能性があります。江崎グリコではタンサ脂肪酸の抗肥満、脳機能など、全身の健康への影響について研究を進め、同時に啓発活動を行うことで現代人の健康課題解決に寄与していきます」(馬場氏)とまとめた。

ちなみに質疑応答で、メディアから「タンサ脂肪酸を新商品に、どう反映させていくのか」と聞かれた中川氏は「具体的にはお答えできませんが、研究成果を皆様の健康のお役に立てるよう、必ず製品に活かしていきます」と答えるにとどまった。