好手の突き出しから二枚の飛車を生かして寄せ切る

渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、6月から各クラスの対局が始まり、3月まで続く長丁場のリーグ戦の火蓋が落とされます。今期は藤井竜王がついにA級に参戦、どのような戦いぶりを見せるかに注目が集まります。

6月9日に、A級1回戦の永瀬拓矢王座―豊島将之九段戦が行われました。全クラスを通じて、第81期順位戦の開幕局です。先後は事前に決まっており、永瀬王座の先手です。

■順位戦らしいじっくりした戦い

本局は相掛かりから、後手の豊島九段がタテ歩取りの形に進めました。タテ歩取りは先手がその形を選ぶことが多いので、やや珍しい序盤です。お互いが手探りという感じで、夕食休憩を迎えてもまだ戦いが始まる雰囲気はありません。持ち時間6時間という、順位戦ならではの進行です。

時刻は早くも夜の9時になろうとする頃、59手目に永瀬王座が▲6五桂と跳ねたことで局面が動き出しました。以下の進行で先手は飛車と香を、後手は角と桂を手にすることになります。盤上に残る大駒は先手の飛車と後手の角となりましたが、後手の角はやや働きが悪いのが気になるところです。

80手目、豊島九段は△3三角と盤上の角を使い、次に△9九角成の香取りを見せます。先手はこれが受けづらいので、永瀬王座も▲3一飛と攻め合いを見せました。対して豊島九段は△9九角成を急がずに、一度△7四銀と力を溜めます。次の△6五銀が桂を取るだけではなく、先手の飛車取りにもなります。

■絶好のカウンター

しかし、この瞬間に生じた好手を永瀬王座は見逃しませんでした。▲7五歩と銀取りに突き出した手が相手の狙いを逆用したカウンター。後手は狙い通り△6五銀と進出するよりありませんが、▲7五歩の効果で先手の飛車の可動域が広がったため、▲9六飛と相手の角成を防ぎながら飛車成を見る絶好の位置に回ることが出来ます。これで後手は飛車の成り込みを防げません。

豊島九段は攻め合いに望みを託しますが、縦横の二枚飛車を軸とした先手の攻めの方が速く、23時20分、93手で豊島九段が投了。永瀬王座が順位戦の開幕戦を制しました。

次戦のA級順位戦は6月17日に▲佐藤天彦九段-△稲葉陽八段戦、▲斎藤慎太郎八段-△菅井竜也八段戦、▲広瀬章人八段―△糸谷哲郎八段戦の3局が行われます。9回戦に渡る長丁場のリーグ戦を制し、最後に笑うのは果たして誰でしょうか。

相崎修司(将棋情報局)

開幕戦を制した永瀬王座(写真は第69期王座戦第4局のもの 提供:日本将棋連盟)
開幕戦を制した永瀬王座(写真は第69期王座戦第4局のもの 提供:日本将棋連盟)