アニメ『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』を手がけた荒木哲郎監督を中心に、脚本に『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄氏、キャラクターデザイン原案に『DEATH NOTE』『バクマン。』の小畑健氏、音楽に澤野弘之氏、企画・プロデュースに川村元気氏、制作をWIT STUDIOが担当するなど、日本のトップクリエイターが勢ぞろいしたオリジナルアニメーション作品『バブル』が、現在劇場公開されている。

  • 荒木哲郎監督 撮影:大塚素久(SYASYA)

ドリームチームともいえる製作陣は『バブル』で何を目指したのか。チームを率いて創作にあたった荒木監督に訊いた。

――『バブル』の企画自体はいつごろから動き始めたのでしょうか?

話し始めたのは2017年くらいですね。2017、2018年に企画を立てていて、より多くのお客さんに届けられる作品を目指して川村元気さんと構想のラリーをしていました。今回は青春ラブストーリーを描く、という案が早い段階からテーマとして挙がっていたんです。私たちのチームが今までに手掛けた作品はバイオレンスアクションが多く、その印象が強いと思うのですが、青春ラブストーリーの中で自分たちの長所であるアクションをやってみようということになりました。

我々から出そうにない企画をやることがフックになるのではないかという狙いと、青春ラブストーリーの方向で案を詰めていき、私から「都会の廃墟にたたずむ人魚姫」という企画を出して、これでいきましょうという話になりました。

――脚本の虚淵さんたちはどのようにして製作に加わっていったのでしょうか。

まだこの最初の段階では虚淵さんたちは参加していません。企画ができて、あらすじが少しできた段階で持って行って、整理していただきました。その段階ではもう少し架空の世界のお話だったのですが、現実の東京、新宿・渋谷あたりを舞台にしたものにすることと、シャボン玉の地球外生命体とのファーストコンタクトものというアイデアが虚淵さんによって加えられました。そこでいただいたプロットが、おおよそ今の映画の姿になっているという感じです。

――キャラデザイン原案の小畑さんにはどのようなリクエストをされたのでしょうか?

小畑さんとは『DEATH NOTE』でご一緒させていただきました。『DEATH NOTE』はダークでニヒル、リアルでハードな面ももつ作品でしたが、今回はもう少し一般層に向けて作ろうと思っていますという話をしました。少し漫画っぽい方向で、小畑さんの作品歴の中では、『バクマン。』のゾーンが今回はほしいですと。もう一つは、複数のパルクールチームが抗争している世界観なので、実際の発注にあたっては、志尊淳さんも出ていた「HiGH&LOW」シリーズのようにチームごとに特色を出したいということをお願いしました。

――作品の重要な要素になっているパルクールですが、監督自身どのような経緯で興味を持たれていたのでしょうか。

『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』をやっているときから、アクションの参考としてパルクールの映像を見ていました。どのアニメでも、アクションでパルクール的な要素を使うことはよくあると思います。ですが、我々が『進撃の巨人』で立体起動を描いたやり方でパルクールを描けば、もう一段おもしろい画ができるなと思っていたんです。

リアルにパルクールをしている様子を撮影した映像自体はネットでも見つけることができます。パルクールをしている本人が頭にカメラを装着して撮っているのもあります。その迫力にアニメはどうすれば勝てるんだろうなと思っていたんです。それに対する回答は、「カメラも縦横無尽に動く」でした。実際のカメラマンは空を飛ぶことはできませんから、それはなかったねと。アニメはカメラの自由度を出すことはできますから。だから、リアルの映像よりもアニメにすることでさらにすごい映像にできるはずだなと思って、今回題材としてピックアップしました。

あとは、ラブストーリーを意外なものと掛け合わせたかったというのもあります。映画が成立するためには、ラブストーリー+「何か」が必要です。そこにパルクールをもってくることで、新しいラブストーリーの映画の姿ができたらいいなと思っていました。

――パルクールの場面は、アクションとバブルの質感、それに舞台となる水とも合わさり、作画的にかなり大変だったのではないでしょうか。

意外にそんなことはなくて、実際には朝ごはんを食べているシーンなんかがはるかに大変だったりするんです。とはいえ、作品のメインになるパルクールの場面にカロリーを割いたほうがいいので、そこに作画の主戦力を固めて投入していたことは確かです。そういうところはうまい人がやっていますから、こちらが苦労するということはないんです。作品作りで大変なのはどういうときかというと、うまいアニメーターさんが捕まらなかったり、スケジュールが合わなくてやってもらえなかったりで、監督が無理矢理自分でなんとかしなくちゃいけないみたいな状況がきついのであって、そういうのはテレビシリーズではあるんですけど、映画なこともあって、そういう苦労はなかったですね。

――作品では音の奥行にもびっくりしたのですが、音の面でのこだわりは?

大部分は今までやってきたことの積み上げだと思います。音響監督の三間雅文さん、音響効果の倉橋静男さん、山谷尚人さんたちは、ここ十年ずっと一緒に仕事をしてきた方々で、僕が言わずとも作り上げてくれた音の厚みが効いているんだと思います。

そのうえで、今回今までになかった演出で意識したことがあります。シャボン玉が弾むとき、キャラクターがシャボン玉にポーンと跳ねたときに、ちょっと人の息を使った効果を入れているんです。吐息を変形させたものですね。

なぜそうしたかというと、シャボン玉というものが、じつは単にシャボン玉なんじゃなくて、生き物なんだよというのを感覚的に納得してもらうための仕掛けとして採用しました。こういうのは川村さんと話していてたどり着いた描写なんですけど、この作品特有の音とか、この作品にしかない音っていうものが作品の中に存在したほうがいいという川村さんのオーダーがあって、それを受けて考えたものでした。

今回の映画作りを通して、映像でもいろいろ発見があったんですけど、音楽でもお客さんがすぐに持ち帰れるわかりやすいフックみたいなものがあったほうがいいんだなということは思いました。