ビオフェルミン製薬はこのほど、ビフィズス菌などの善玉菌が作り出す「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」のスーパーパワーに注目したリポートを公表した。
腸内環境は私たちの健康のキーポイント。腸内には約1,000種100兆個もの腸内細菌が生息し、善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスが大切であることはよく知られているが、最近話題を呼んでいるのが腸でビフィズス菌などの腸内細菌が作り出す「短鎖脂肪酸」だ。
同社 学術情報グループ 薬剤師 山下明子氏は、「『短鎖脂肪酸』は、悪玉菌の増殖を防ぎ、腸のバリア機能、エネルギー消費を高めるほか、脂肪の蓄積を抑制する作用を持つ場合もあるため、『ダイエットにも良い?』と注目されています」とコメントしている。
■「短鎖脂肪酸」って何?
「短鎖脂肪酸」とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が、食物繊維やオリゴ糖などをエサとして食べることで産生する代謝産物の一つ。「短鎖脂肪酸」にはいくつかの種類があり、代表的なものに酢酸(さくさん)やプロピオン酸、酪酸(らくさん)などがある。私たちの健康にとってさまざまな良い働きをすることが近年報告されており、中でも効果を期待されているのが"酢酸"と"酪酸"となる。
酢酸は、体内の余分な脂肪を蓄えている細胞「白色脂肪細胞」で作用する。白色脂肪細胞には酢酸を感知するセンサーがあり、血液によって運ばれた酢酸をこのセンサーが感知すると、脂肪細胞に過剰なエネルギーが取り込まれるのをブロックし、脂肪の蓄積を抑制する。他にも、大腸の運動を刺激する作用やバリア機能を強固にする作用、炎症を抑える作用も報告されている。
酪酸は、活動している時に働く自律神経である「交感神経」に作用。交感神経のセンサーは血中の酪酸を感知すると心拍数や体温を上昇させ、エネルギー消費を高める。
■そんな大事な「短鎖脂肪酸」を増やすためには
(1)善玉菌(ビフィズス菌など)を摂る
短鎖脂肪酸は善玉菌などの腸内細菌によって産生されるため、まずその善玉菌を増やすことが大切となる。善玉菌の中で代表格といわれているのは乳酸菌とビフィズス菌だが、ビフィズス菌は短鎖脂肪酸の中でも“酢酸"と“乳酸"の2種類を作りだしてくれる。
(2)食物繊維を摂る
食物繊維は大きく、「水溶性」と「不溶性」の2種類に分けられる。どちらも腸内環境を整える働きがあるが、善玉菌が特に好むのが水溶性食物繊維。具体的には、根菜類やきのこ類、海藻類などを、普段の食事に1品追加するのがおすすめとなる。
「短鎖脂肪酸」に関する研究が進む中で、どんな食物繊維を摂取するかによって、「短鎖脂肪酸」の種類が変わってくることがわかってきた。目的に応じた食物繊維を選ぶことも有効。ビフィズス菌には、オリゴ糖を含むものをエサにすると酢酸がより多く産生される。 オリゴ糖を含む食品としては、玉ねぎ、ごぼう、大豆などが挙げられる。
■「短鎖脂肪酸」の産生に食物繊維がいいのはなぜ?
たんぱく質や脂質、炭水化物などは、消化管の中で消化酵素によって分解、小腸から体内に吸収されるため、善玉菌のエサになりにくい傾向にある。
一方、食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されている。消化されずに大腸まで届くことでビフィズス菌などの腸内細菌のエサになり、人体に良い影響を与える「短鎖脂肪酸」を産生する。
■現代人に不足しがちな食物繊維
野菜、海藻などに含まれる食物繊維は"第6の栄養素"といわれるほど健康によいとされている。「日本人の食事摂取基準」によると1日当たりの目標摂取量は成人(18歳〜64歳)男性21g以上、女性18g以上とされている。しかし、現代の日本人は高齢者層以外で摂取量が不足しており、達成できていない。
■食物繊維と合わせてビフィズス菌も摂取しよう
ビフィズス菌とは、主に大腸にすみつく腸内細菌の1種。腸内で有害な菌の繁殖を抑えたり、腸の働きを良くしたりする、善玉菌の代表格。赤ちゃんのときは腸内に多く存在しているが、加齢に伴いその割合が減少するといわれている。
ビフィズス菌が作り出す「短鎖脂肪酸(酢酸など)」は、悪玉菌の増殖を抑制し乱れた腸内環境を正常に近い状態へ改善し、腸内環境を整える。ビフィズス菌はヨーグルトなどの発酵食品、サプリメント、整腸剤などに含まれているが、腸内環境は人それぞれ異なるため、自分に合った商品を選ぶことが大切だ。
「短鎖脂肪酸」は脂肪の蓄積抑制作用などから、糖尿病などの生活習慣病の予防も期待されている。短鎖脂肪酸を増やす“ビフィズス菌などの善玉菌"や“食物繊維"は継続して摂取することが大切だ。山下明子氏は、「無理のない方法で習慣化し、腸から健康になりましょう」と呼びかけている。
<参考>
・厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査「日本人の食事摂取基準(2020年版)
・腸内細菌学雑誌 16:35-42,2002