北海道新聞電子版は5月9日、「第2青函トンネル建設へ調査会設立 自民道連が調整」と報じた。自民道連が調査会設立について検討中とする内容で、背景に道内経済界の待望論があり、事業化を後押しするねらいだという。

  • JAPIC「津軽海峡トンネル」案。道路は自動運転前提となっている。一般車、一般トラックも自動運転で乗り入れ可能。自動運転未対応車はトレーラーで運ぶ(JAPIC提供)

ただし、5月25日の時点で設立されたとの報道はなく、自民道連の公式サイトやFacebookにも記載されていない。参加者の議員・元議員の公式サイトを調べると、参議院議員の高橋はるみ氏、元衆議院議員の船橋利実氏、衆議院議員の和田義明氏が政策紹介で第2青函トンネルを記載している。道議会議員の公式サイトには記載なし。根室地域選出の中司哲雄氏が、2019年9月のブログで青函トンネルでの鉄道貨物の重要性について触れている程度だった。設立と活動方針について続報を待ちたい。

道内経済界の待望論を裏づけるように、5月18日にシンポジウム「津軽海峡経済圏を創る第二青函トンネル構想」が開催された。主催は道経連(北海道経済連合会)、共催はJAPIC(一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会)。JAPICは「民間諸産業による業際的協力と産官学民の交流を通じて叡智を結集し、国家的諸課題の解決に寄与し、日本の明るい未来を創生する」という趣旨の団体で、建設、エネルギー、金融関連企業が会員となっている。

シンポジウムの基調講演は2本。ひとつは北海道経済連合会の青函物流プロジェクト座長を務める石井吉治春氏の「青函物流問題の解決に向けて」。もうひとつはJAPICの国土未来プロジェクト研究会委員であり、戸田建設常務執行役員の神尾哲也氏による「JAPIC 津軽海峡トンネルプロジェクト」。後者が第2青函トンネルのJAPIC案となる。

基調講演の後、パネルディスカッションが行われた。前出の石井氏のほか、パシフィックコンサルタンツの石崎昌子氏、津軽海峡マグロ女子会北海道側とりまとめ役の工藤夏子氏、一般社団法人北海道建設業協会の栗田悟氏が出席した。

シンポジウムの様子はオンライン配信も行われた。しかし、筆者が報道で知ったときには終わってしまった。後日、道経連にたネット配信されるとのことで、公開を待ちたい。

■トラック物流、食糧自給の観点で気運を高める

JAPICは今年3月9日、都内の経団連会館で「国土・未来プロジェクト研究会シンポジウム『国土造りプロジェクト構想』」を主催しており、その中でプロジェクトの趣旨、仕様、事業の枠組みを紹介していた。こちらはすでにYouTubeで公開されている。JAPICはこのシンポジウムで12個のプロジェクトを発表し、今後の予定として4月以降、全国各地でシンポジウムを開催するという。「JAPIC 津軽海峡トンネルプロジェクト」もそのひとつ。2カ月ほどしか経過していないので、内容はほぼ同じとみて良さそうだ。

プレゼンテーションは神尾哲也氏が行い、冒頭で北海道の課題として本州との分断を挙げた。北海道対本州は青函トンネル1本のみ。これに対し、四国対本州は道路2本と道路鉄道共用1本の3ルートがある。九州対本州は鉄道が在来線と新幹線の2本、道路がトンネルと鉄橋の2本、計4本ある。北海道と本州をつなぐ道路がない状況が、北海道の成長を妨げている。

北海道の農業はさらなる成長が必要だ。G7参加国の中で、2020年度の日本の食糧自給率は最も低い37%だった。上位3カ国は100%を超えており、カナダが266%、米国が132%、フランスが125%となっている。世界の人口は増加傾向であり、世界的な食糧不足のおそれもある。コロナ禍による物流停滞、食糧安全保障の観点から、国内食糧自給率を上げる必要がある。講演では触れられていなかったが、2月24日にロシアがウクライナに侵攻した直後のタイミングだった。ウクライナはヨーロッパの穀倉地帯と言われており、世界的な食糧危機は始まっている。

1977年から2017年までの40年間で、日本国内の農業産出額は13%も減少した。しかし、北海道は同期間で51%増加している。国内農産物のうち北海道のシェアは8%から14%に上昇した。ところが、出荷ルートがボトルネックとなっているため、北海道はこれ以上の生産能力を発揮できない。広大で地価の安い土地が生かされず、本州の物流コストは高い。10トンあたりのトラック輸送コストを比較すると、札幌・東京間は21万5,000円。ほぼ等距離の福岡・東京間は16万円で、5万5,000円の差がある。輸送コストは34%も多い。

そこで、JAPICが提案する「津軽海峡トンネル」は、トラック輸送を主眼としたプロジェクトを立案した。内径15mのシールドトンネルで、上層は片側1車線の自動運転車専用道路、下層は中央に単線の鉄道貨物線路、その両側に歩行者避難通路を配置する。

ここまで「北海道新幹線高速化」「青函トンネルの貨物列車分離」の話は出てこない。JAPICのプロジェクトは道路とトラック輸送を第一に検討しており、鉄道についてはおまけ程度の扱い。断面図やプロジェクト概要は、2020年11月に札幌で北海道経済連合会が発表し、同年12月に国土交通大臣に手渡した内容とほとんど変わらない。当時の発表内容は、鉄道の有識者から疑問と問題点が提示されたが、今回で解決策が示されたようには見えない。つまり、札幌で発表した内容を1年半経って函館でなぞっただけだった。

JAPIC案は道路の問題を解決できるかもしれないが、鉄道の問題を解決できない。

■「単線貨物線」は収支の帳尻を合わせるため?

筆者は2021年、JAPICと元青函トンネル工事関係者に取材した。JAPIC案の単線貨物線について、現状では断面図レベルの情報しかない。本州から北海道まで線路を敷いただけで、途中に交換設備はない。これでは24時間稼働させても、青函トンネルと同じ貨物列車の運行本数を確保できない。保守点検作業を考えると、24時間稼働はそもそもできない。

また、最急勾配は25パーミルとなっている。トンネルの長さを短くするため、海峡最深部に向けて急勾配を作るからだが、25パーミルといえば山陽本線の名所「セノハチ」(瀬野~八本松間)の22.6パーミルより大きい。「セノハチ」では、現在も最大1,300トン級の貨物列車の後部に補機を連結している。ちなみに、青函トンネルは12パーミル以下だ。

  • 「津軽海峡トンネル」は海底の地下浅いところに大口径シールドトンネルを作る(JAPIC提供)

元青函トンネル工事関係者の話によれば、JAPIC案には保線設備の設置場所がないことも問題だという。全長30km以上のトンネル区間となれば、夜間の保守作業のため、保守用車両の待機場所や資材置き場が2カ所必要になる。信号関係の設備、変電設備も数カ所必要。そうなると、シールド内径をもっと大きくしなければならない。

世界最大のシールドマシンは、日立造船が製造した口径17.45mタイプで、シアトルの道路トンネルに使われた。しかし工事中、固い地中物に引っかかって停止。カッターヘッドを修理するため、2年かけて立坑を掘ったという。津軽海峡でそんなことはできない。前出の青函トンネル関係者によると、海底は海水の水圧が大きく、厚さ25cmの鋼材がぐにゃりと曲がる。JAPIC案は浅すぎて水圧の影響を受けるはずで、耐えられるシールドトンネルを作れるか。従来の山岳工法のように、地盤にトンネル半径の3倍くらいの注入剤で固めてから掘ったほうがいい。

JAPIC案は鉄道技術に関して脇が甘い。それでも鉄道を組み込みたい事情がある。それは建設の枠組みにPFI・BTO方式を採用するため。PFIは公共事業体が民間事業者に発注する公共サービスで、BTOは公共事業体がトンネルを建設、保有し、トンネル事業会社がトンネル使用料を購入した上で、利用者からサービス料を得るしくみ。つまり、トンネル事業会社としては、利用料金を払う顧客を増やしたい。道路の通行料金、海底電力ケーブルなどの利用料金、そしてJR貨物からの線路使用料だろう。

JAPIC案のひとつ前の構想では、貨物列車の線路がなく、緊急車両用の1車線通路だった。これを線路に差し替えて使用料を増やし、建設費償還モデルを組み直したようだ。しかしJR貨物や鉄道・運輸機構に意見聴取した気配がない。

公開されている「津軽海峡トンネルプロジェクト」の検討者名簿を見ると、建設会社と建設コンサルタント3社のみ。鉄道と運用の専門家がいない。中途半端に鉄道を組み入れられても、JR貨物も荷主も受け入れられないだろう。

■貨物鉄道トンネルは「鉄道路線強化検討会」案を深度化してほしい

2021年に筆者が行ったJAPICへの取材で、「鉄道部は今後の検討課題」と言われたが、1年以上も経って、まったく変わっていないことにがっかりした。北海道新聞の記事によると、自民道連は複数の案を検討するという。JAPIC案は最有力だが、この案では青函トンネルの貨客分離、北海道新幹線の高速化が解決されないという認識は持ってほしい。

筆者は第2青函トンネルについて、鉄建公団OBや建設業界有志を中心にコンサルタントも参加した「鉄道路線強化検討会」案を推したい。2017年の発表で、単線の貨物線トンネルまでは同じだが、山岳トンネル工法(NATM)を採用しており、必要な場所で拡幅できる。途中で7カ所のすれ違い設備を作り、保守時間を確保しつつ、現在の貨物列車の運行本数を維持できるという。本坑と作業坑を兼ねるため、建設費も安くなる。2017年当時で総工費は3,900億円、工期は15年。これに対し、JAPIC案の総工費は7,200億円、工期は15年となっている。

  • 鉄道路線強化検討会の「第2青函トンネル」は単線の線路のみ。複線化し、鉄道貨物輸送とトラックの貨車輸送を実施すれば、既存の技術で運用できる(鉄道路線強化検討会提供)

JAPIC案では、旅客輸送として高速バスによる安価なサービスも想定している。JAPIC案は道路に絞り、「鉄道路線強化検討会」の鉄道トンネルもあわせて建設してほしい。これもできれば単線ではなく、複線が望ましい。

ともあれ、第2青函トンネルに「新幹線高速化」だけでなく「食糧自給率」「食糧安全保障」からも建設気運が高まった。建設気運を盛り上げる良い機会だろうし、さらに検討を進めてほしい。関門海峡にはトンネル3本、橋1本に加え、第2関門橋こと「下関北九州道路」計画もある。青函間にトンネル3本は決して贅沢な設備ではない。