鮮烈な桂の放り込み

藤井聡太竜王への挑戦権を争う第35期竜王戦(主催:読売新聞社)のランキング戦6組決勝、伊藤匠五段―高田明浩四段戦が5月19日に行われました。両者はともに19歳、現役最年少の伊藤五段と3番目の年少である高田四段の対決は、本局が初手合いとなります。

本局は先手の高田四段が三間飛車の作戦を採りました。四間飛車は直近の対局でも指していますが、高田四段が公式戦で三間に振るのは初です。高田四段の高美濃対、伊藤五段の居飛車穴熊という構図になりました。中盤で「(局面が)収まるとまずいと思った」という高田四段が先攻しますが、伊藤五段がうまくカウンターを決めて、形勢をリードします。そして迎えた83手目は直前に後手の伊藤五段が△4三銀と立ち、先手の5二の成銀に当てた局面です。

ここで高田四段は▲6一飛成と成り込みました。竜を作っただけでなく、当たりになっている成銀にひもをつける一石二鳥の手に見えます。ですがこの瞬間に生じたスキを伊藤五段は見逃しませんでした。△4七歩成▲同銀と形を乱してからの△2七桂が鮮烈とも言える桂の放り込みです。対して▲同玉は△2九飛が激痛で後手勝勢。またこの桂打ちを放置するのは△1九桂成▲同玉△1七金で受けなしとなります。▲1八香とひねった受けも考えられますが、これは△5二銀と成銀を取った手が、次に△1九銀からの寄せを見つつ、6一の竜取りにもなり、抜群の味です。実戦は△2七桂に▲3八玉の早逃げで対応しましたが、△1九桂成以下、伊藤五段が寄せ切って6組優勝を決めました。

伊藤五段は初の竜王戦決勝トーナメント進出です。これまで6組優勝者で挑戦を果たした棋士はおらず、旧制度の第7期竜王戦で行方尚史四段(当時)が挑戦者決定戦進出を果たしたのが6組優勝者の最高記録です。システムが現行の制度となった第19期以降では、第29期の青嶋未来五段(当時)が準々決勝まで勝ち進んでいます。伊藤五段にはまだまだ長い道のりですが、同世代の王者と相対する竜王戦ドリームを実現できるでしょうか。

相崎修司(将棋情報局)

竜王戦6組優勝を果たした伊藤五段(左)(撮影:相崎修司)
竜王戦6組優勝を果たした伊藤五段(左)(撮影:相崎修司)