女優の今田美桜が主演する日本テレビ系ドラマ『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(毎週水曜22:00~)。主人公・田中麻理鈴が部署を転々とする中で、出会う社員とぶつかりながら出世を目指していく物語だが、30年前にも石田ひかり主演ドラマ化され、読売テレビ・日本テレビ系で放送されたことで知られている。

当時、読売テレビのプロデューサーとしてこのドラマ化の企画を立ち上げたのが、山本和夫氏。現在も制作会社・ドラマデザイン社の代表として制作現場に立つが、令和版をどのように見ているのか。さらに、テレビドラマを巡る現状や、時代を経て起きた演出面の変化なども聞いた――。

  • 『悪女(わる)』平成版主演の石田ひかり(左)と令和版主演の今田美桜 (C)深見じゅん/講談社 脚本:神山由美子 (C)NTV

    『悪女(わる)』平成版主演の石田ひかり(左)と令和版主演の今田美桜 
    (C)深見じゅん/講談社 脚本:神山由美子 (C)NTV

■女性の心をつかむのではと直感

30年前の平成版『悪女(わる)』が放送された92年は、前年にフジテレビが月9で『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』を大ヒットさせ、“トレンディドラマ”が勢いづいていた時代。その流れを受け、読売テレビも土曜10時に若者向けのドラマ枠を新設することになった。

ただ当時、2時間ドラマ枠『木曜ゴールデンドラマ』を制作していた同局のドラマスタッフは、ベテラン勢ばかり。そこに、ドラマ志望で東京支社に来たものの、「なかなか企画が採用されずにもがいていた」という若手プロデューサーだった山本氏に白羽の矢が立った。

ラブストーリーでヒットを飛ばしていた月9に対し、山本氏の目に留まった『悪女(わる)』は、今で言う“お仕事ドラマ”。まだジャンルとして確立されていなかったが、「若い女の子のルサンチマンというか、鬱屈した気持ちが捉えられていたので、女性の心をつかんでくれるのではないか。それと、当時流行していたテレビゲームのように、部署を異動して1つずつステージをクリアしていくような感覚が面白いと思ったんです」(山本氏、以下同)と直感した。

青年女性向けのレディースコミック作品をドラマ化するのは、当時ほとんど例がなかったそうだが、「会社も『とにかくやってみよう』と言ってくれて」と企画を通し、ドラマ化へ動き出した。

だが、駆けだしの新人プロデューサーにとって、売れっ子俳優や脚本家をブッキングするのは困難だったため、フレッシュなメンバーで臨む方針に。連ドラ初主演の石田ひかり、連ドラ初脚本の神山由美子氏、山本氏だけでなく、制作会社のプロデューサーも初めての連ドラプロデュースだった。令和版も、今田美桜が連ドラ初主演、日テレの諸田景子プロデューサーは初めてのGP帯プロデュースと、いくつか共通項があるのも興味深い。

■見たことのない右肩上がりの視聴率

山本氏いわく、平成版は「本当に新人だらけで作ったので、日本テレビもほとんど期待してなくて、東京での番宣がほとんどなかったんですよ。予告編のVTR作ったのに、全然流してくれなくて(笑)」と、知名度の低い状態で放送に突入。

しかし、「初回で(世帯視聴率)14%とか、すごい数字が出たんです。毎分のグラフを見ると、最初は7%くらいだったんですけど、それが右肩上がりでずっと伸びて、最後は20%を超えるんです。それ以降いっぱい連ドラやりましたけど、あんな毎分グラフは見たことなかったですね」と一度見た視聴者が離れなくなり、「翌日には『あのドラマ見た?』という声を、街でリアルに聞くということもありました」と、見事結果を残した。

■撮影初日から「ほぼ完璧」だった石田ひかり

平成版主演の石田には、撮影初日から女優としての素質に驚かされたという。

「初めから役のつかみ方がほぼ完璧で、“これが麻理鈴”というのを出していたんです。ぎこちないというのも一切なく、安心して見ていました。(峰岸役の)倍賞美津子さんも『すごい』と言っていたのを覚えています。それから、世間が彼女の素晴らしさにあっという間に気がついたという感じでしたね」

石田は、『悪女(わる)』の放送が終わった3カ月後に、NHK連続テレビ小説『ひらり』(92年10月~93年4月)がスタートし、翌年には『あすなろ白書』(フジ)が放送。一気にスターの階段を駆け上がるのだった。

  • 令和版に出演した石田ひかり (C)NTV

そんな石田は、令和版に人事部の夏目課長役として特別出演(4月20日放送、第2話)。撮影現場へ陣中見舞いに訪れたという山本氏は「当時と全然変わってないし、“何で麻理鈴役やってないの?”っていう感じ(笑)。夏目さんを演じているのが不思議で、そこだけ時が止まっているような感覚でした」と印象を語った。