福岡放送のバラエティ番組『ナンデモ特命係 発見らくちゃく!』(毎週月曜24:54~)が、放送開始10周年を記念して、テレビの企画としては一風変わった取り組みに挑んでいる。視聴者から「福岡をよくする事業企画」を募集し、ビジネスの事業化・会社設立・資金調達を支援する「あなたの想い、会社にしますSP」(5月14日・21日10:30~)というプロジェクトで、このほど行われた最終プレゼンでは、応募者たちの熱い思いが投資家たちにぶつけられた。

「視聴者の夢をかなえる」というコンセプトで、地元福岡で高い人気を誇るバラエティ番組だが、なぜこのようなプロジェクトを立ち上げたのか。担当する村上友亮プロデューサーと、石津貴彬ディレクターに話を聞くと、そこには番組が10年にわたって培ってきた姿勢が色濃く反映されていた――。

  • 「あなたの想い、会社にしますSP」一次プレゼンの様子 (C)福岡放送

    「あなたの想い、会社にしますSP」一次プレゼンの様子 (C)福岡放送

■応募があるかどうか不安も…300超のアイデアが

視聴者からの個人的な悩みなどの調査依頼を解決していく同番組だが、石津Dは「10年やってきて、毎週1人の悩みしか解決できないので、もっと多くの人を救いたいという思いが常にあったんです」という。

そこで、悩みを解決する“仕組み”を作ることが番組として目指すべきことだと考え、社会課題を解決する事業である「ソーシャルビジネス」を募集テーマに設定。「社内で話し合っていく中で、社会を支援する方法としては、もちろんボランティアなどもあると思うのですが、長く続けていくには利益が出て実行者も活動しながらちゃんと生活していける“ビジネス”という形を採るのが一番良いのではという方向に固まりました」(村上P)と、プロジェクトが動き出した。

「より多くの人を救う可能性があるビジネスという手法に、すごく魅力を感じました」という石津Dだが、「正直、最初は応募があるかどうか、不安でした」と回想。しかし、結果として300を超える事業アイデアが番組に届いた。

「1つ1つが、何時間もかけてこの文章を書いてくれたんだろうなと分かる、思いのこもった内容ばかりでした。これまで声に出す機会がなかっただけで、福岡には『世の中を良くしたい』という思いを胸に秘めている人がこんなにもいるんだと知って、なんだか誇らしくなりました」(石津D)と、予想以上の熱量があったという。

応募内容は、「ジャンルは多岐にわたっていましたが、福岡に住む人たちの暮らしを良くしたい、地元の町を盛り上げたい、ハンデを背負った人たちを助けたいなど他者を助けたい心を持ったものが多かった印象です」(村上P)とのこと。その背景には、「普段の番組が、毎週依頼者を助け続けてきたというのもあって、今回の企画趣旨を理解されて、自分だけが儲ければいいというものは少なかったです」と、10年にわたり培ってきた番組のカラーが反映されていた。

■“儲け重視ではない”選考基準

300を超えるアイデアから、一次選考を通過したのは22案。選考は番組スタッフで行ったが、どのような基準で絞ったのか。

「本人たちの熱意です。専門知識もないし、起業したこともないけど、福岡を良くしたいという思いが十分に感じられた方を中心に選ばせてもらいました」(村上P)

「儲かるかどうかや実現可能性よりも、僕らが応援したいかどうか。普段の番組と全く同じ動機です。投資家の方が選んだら、全く違う組が選ばれていたと思います」(石津D)

「事業アイデアをプレゼンし、投資家が出資するかを決める」という番組は、かつて日本テレビで放送され、海外版も多数制作されている『¥マネーの虎』が思い浮かぶが、今回のプロジェクトの特徴は、この“儲け重視ではない”という点だ。

「みなさん自分のためではなく、誰かを助けたい、街を良くしたいという前向きなエネルギーにあふれた方がいっぱいいて、そこが令和なのかなという感じがします」(村上P)

「最終プレゼンで投資家が言った『出資を受けない方が、自分のやりたいことを貫ける』というコメントが印象的でした。投資家は“福岡を良くする”という今回の企画に共感して参加を決めてくれた方々だったので、『自社が儲かるか』以上に『どうすれば夢を実現できるか』という目線に立って参加者と向き合ってくれたように感じています。残念ながら出資に至らなかった参加者も投資家から温かい激励をたくさんもらい、『絶対夢を実現させます!』と笑顔で会場をあとにしていました。そういう意味でこれまでのマネー番組とは違うのかなと」(石津D)