筆者は3月末、2代目「伊予灘ものがたり」の試乗会に参加するため、新神戸駅から岡山駅まで山陽新幹線「のぞみ」、岡山駅から松山駅まで特急「しおかぜ」に乗車した。今年は山陽新幹線新大阪~岡山間開業、特急「しおかぜ」デビューから50年という節目の年にあたる。

  • 8000系「アンパンマン列車」で運転される特急「しおかぜ」「いしづち」

■山陽新幹線新大阪~岡山間、50年で列車が大幅に増加

東海道新幹線は1964(昭和39)年、東京~新大阪間が一気に開業。一方、山陽新幹線は1972(昭和47)年に新大阪~岡山間、1975(昭和50)年に岡山~博多間が開業した。山陽新幹線岡山開業が実現した1972年は、日本の鉄道開業100周年を迎えた年でもある。国鉄は「ひかりは西へ」のキャッチフレーズで岡山開業を大々的に宣伝し、鉄道新時代を印象づけようとした。

新大阪~岡山間では、途中駅として新神戸駅、西明石駅、姫路駅、相生駅を設けた。岡山開業にともない山陽・九州方面の特急列車も大きく様変わりし、岡山~博多間の「つばめ」、岡山~西鹿児島(現・鹿児島中央)間の「月光」などの列車を新設。岡山駅での接続を意識したダイヤにした。伯備線経由の特急「やくも」も、山陽新幹線岡山開業に合わせて登場した特急列車のひとつ。「やくも」も今年、伯備線での運転開始から50周年を迎えた。

  • 東海道・山陽新幹線「のぞみ」に使用されるN700系

筆者は今回、新神戸駅10時27分発の下り「のぞみ81号」(広島行)に乗車した。現在、新神戸駅を10時台に発車する下り列車は「のぞみ」4本と「ひかり」「さくら」「こだま」が1本ずつ、計7本だが、山陽新幹線が岡山駅まで開業した1972年当時、新神戸駅を10時台に発車する下り列車は、途中の姫路駅に停車する「ひかり」1本、新大阪~岡山間の各駅に停車する「ひかり」1本、計2本のみだった。当時と今の時刻表を比較するだけでも、50年間の成長ぶりをうかがい知れる。

「のぞみ81号」は新神戸駅を発車すると、姫路駅、岡山駅の順に停車する。ところで、山陽新幹線が通る兵庫県には新神戸駅、西明石駅、姫路駅、相生駅の計4駅あり、鉄道ファンらの間で話題になることも多い。これだけ駅が多い理由として、四国新幹線や夜行新幹線への準備といったさまざまな説があるという。いずれにしても、興味深い事実ではある。

近年、山陽新幹線は兵庫県西部から東京方面の輸送にも力を入れている。今年3月のダイヤ改正で、姫路駅から東京駅へ8時台に到着することが可能になった。西明石駅は日中時間帯、新大阪~岡山間各駅停車の「ひかり」しか停車しないが、早朝時間帯には西明石駅始発、東京行の上り「のぞみ」が存在する。

姫路駅には10時40分頃に到着。春休みということもあり、ビジネスマンよりこども連れの家族が目立った印象だった。その後、相生駅を通過し、300km/h近くのスピードで山陽路を疾走。岡山駅に11時2分に到着すると、多くの利用者が降車した。

■四国初の特急列車「しおかぜ」に乗って

岡山駅からは、同駅11時35分発の下り「しおかぜ9号」に乗り換え、松山駅をめざす。使用車両がJR四国の8000系「アンパンマン列車」ということもあり、先頭車付近で記念撮影を行う家族の姿が目立った。

  • 岡山駅で発車を待つ8000系「アンパンマン列車」

特急「しおかぜ」も山陽新幹線岡山開業と同じ1972年にデビュー。今年で50周年を迎えた。デビュー当時、もちろん瀬戸大橋はなく、「しおかぜ」は高松~松山・宇和島間で運行された。当時の四国は急行列車が長距離輸送を担っており、松山・宇和島方面の「しおかぜ」は、高知方面の「南風」と並び、四国の特急列車のパイオニアとなった。当時の車両はキハ181系であり、平成初期まで「しおかぜ」のみならず四国内の各特急列車で活躍した。

「しおかぜ9号」は岡山駅を発車してから約30分後、12時頃に瀬戸大橋を渡った。1988(昭和63)年に瀬戸大橋が開通したことで、四国の鉄道事情は大きく変化した。特急「しおかぜ」「南風」は高松駅発着から岡山駅発着に変わり、山陽新幹線との接続を重視したダイヤに。「しおかぜ」「南風」とは別に高松駅発着の特急列車が設定され、このうち松山・宇和島方面の列車は四国最高峰の山である石鎚山にちなみ、「いしづち」と命名された。

瀬戸大橋を渡り終えた「しおかぜ9号」は12時7分、宇多津駅に到着。ここで高松駅から来た「いしづち9号」を連結する。宇多津駅から先は予讃線となり、松山駅をめざす。

予讃線は高松駅から伊予市駅まで直流電化されている。伊予市駅までの電化完了は1993(平成5)年であり、「しおかぜ」「いしづち」は四国初の電車特急となった。一方、大半が非電化区間の松山~宇和島間では、気動車の特急「宇和海」が運転されている。

JR四国の特急形電車8000系は1992(平成4)年、「しおかぜ」「いしづち」の専用車両としてデビュー。オールステンレス製、遠心力を利用した制御付自然振り子型車両で、カーブにさしかかると車体が傾き、スピードを落とすことなく走行する。2004(平成16)年からリニューアルが行われ、現在も主役級の活躍を続けている。

  • 特急「しおかぜ」「いしづち」の車両として、8000系の他に8600系も活躍している

  • 8600系の普通車。各座席にコンセントも設置(2014年の車両展示会取材にて、編集部撮影)

2014年以降、新たな特急形電車として8600系も導入された。こちらは振り子型車両ではなく、空気ばねの伸縮を利用して車体を傾ける空気ばね式車体傾斜機構を採用している。

■沿線住民の足も担う四国の特急列車

「しおかぜ9号」は宇多津駅から先、丸亀駅、多度津駅、観音寺駅、川之江駅、伊予三島駅、新居浜駅、伊予西条駅、壬生川駅、今治駅の順に、予讃線の主要駅にこまめに停車する。特急「しおかぜ」は国鉄時代の1986(昭和61)年、急行「いよ」の大半を格上げする形で大幅に増発した経緯があり、都市間輸送だけでなく沿線住民の足としての役割も担う。

四国内を走る特急列車の性格は、特急料金を確認するとよくわかる。JR四国の自由席特急料金は、営業キロ25kmまで330円、50kmまで530円と安めに設定され、特急列車を利用しやすい環境となっている。特急列車用定期券「快てーき」も販売し、特急列車の利用促進に努めている。実際に車内を見渡すと、学生や女性の短距離利用が多いことに気づく。

ラッシュ時の「しおかぜ」は、前出の停車駅に加え、詫間駅、高瀬駅、伊予北条駅にも停車する。そのため、今治駅に停車した際、車掌が伊予北条駅には停まらないことを伝えていた。終点の松山駅には14時13分に到着。駅舎に直結した1番線ホームに停車し、同じく1番線の宇和島方に停車している下り「宇和海17号」へ、階段を上り下りすることなく乗り換えられた。ちなみに、「宇和海17号」も「アンパンマン列車」で運転。「アンパンマン列車」同士、同一ホームでの対面となった。

  • 特急「宇和海」も一部列車を「アンパンマン列車」で運転

  • JR松山駅。駅前に高速バスのりばもある

山陽新幹線から特急「しおかぜ」に乗り継ぐルートは、本州から松山市を中心とした愛媛県内各地へ向かう重要なルートといえる。ただし、東京から行く場合は飛行機のほうが便利だし、京阪神から行く場合も高速バスと競合している。実際、乗換案内で神戸市内から松山駅まで検索すると、三宮バスターミナルから松山駅・松山市駅へ向かう高速バスも候補に挙がった。列車と比べて時間はかかるものの、乗換えがなく、料金も安い。別の候補として、福山駅で高速バスに乗り換え、瀬戸内しまなみ海道を渡り、今治駅から松山駅まで列車を利用するルートも挙がった。

特急「しおかぜ」の所要時間が岡山~松山間で3時間弱という点も気にかかる。別の日に松山駅から岡山駅まで「しおかぜ」に乗った人の話によると、松山駅を発車した後、今治駅で降りる人が多く、伊予西条駅や新居浜駅あたりから再び乗客が増え始めたという。「しおかぜ」は愛媛県東部の各都市まで本四連絡の役割を維持しているものの、今治駅や松山駅まで来ると沿線住民の足としての役割のほうが強いのかもしれない。他の交通機関との競争にさらされる中、「しおかぜ」のがどのように変化していくか。今回の乗車を通じて、「しおかぜ」の今後に興味を持った。