ハイボールブームを皮切りに、ジンのソーダ割りなどソーダ・炭酸系のアルコール飲料の人気からコロナ禍では自宅に炭酸水を常備する家庭も増加。最近では本格焼酎のソーダ割りも注目されているという。
1980年代には缶チューハイ(焼酎の炭酸水割り)が流行し、居酒屋メニューにも浸透したが、2000年台の本格焼酎ブーム以降、消費量が減少を続けてきたという焼酎。鹿児島県酒造組合の田中完専務理事に、「本格焼酎×ソーダ割り」の魅力や焼酎を取り巻く市場環境などについて聞いた。
「焼酎王国・鹿児島」の背景
原料を発酵させて造った醸造酒をさらに蒸留させる「蒸留酒」である焼酎。鹿児島県は県民の焼酎の消費量が成人1人当たり年間22リットルを誇る、言わずと知れた焼酎王国だ。
現在2,000を超える銘柄が存在する焼酎は、蒸留方法によって「乙類/ 本格焼酎」と「甲類/ 焼酎」の2つに分けられる。鹿児島本格焼酎の場合はさらにサツマイモを原料とする薩摩焼酎と、黒糖を原料とする奄美黒糖焼酎の大きく2種類に分かれ、南北600キロにわたる鹿児島県の多様な地域性を活かした焼酎づくりが行われてきた。
「南の暖かい地域での酒造りは発酵の過程で『腐る』ことが課題で、日本酒・ワインがつくりにくい。18世紀に薩摩へサツマイモが持ち込まれ、生産が普及した鹿児島では、明治以降、米焼酎に代わってサツマイモと沖縄の泡盛で使われていた麹を使い、より環境に適した美味しい焼酎がつくられるようになりました」
国税庁長官が定める49品目の原料と麹を使用し、水以外の添加物は一切用いずに単式蒸留という方法で作られる本格焼酎は、原料の風味・豊かさや味わい深さが特徴となる。
鹿児島本格焼酎の多様性を下支えするのは、全国の焼酎蔵の約3 分の 1 が集結しているという鹿児島の焼酎メーカーの多さ。種子島、屋久島、奄美大島などの島々と、薩摩半島・大隅半島という二つの半島からなる鹿児島県には43市町村に112の焼酎の蔵元が存在している。
蒸留機の構造など蔵独自の情報は門外不出で、それぞれの技術が混ざり合うことなく各々が独自の進化を遂げてきた。そのため同じ原料を用いたとしても、蔵が違えば同じ味わいの焼酎にはならないと言われ、県内にはそれぞれに"地元の焼酎蔵"があるという。
「宴会や祝いの場などで鹿児島県民は地元の焼酎を飲むことが習慣になっています。ひと昔前は蒸留技術などがまだまだ不十分で、焼酎の独特の香りが苦手という人も少なくなかったんですが今はかなりレベルアップしており、原料も紫芋や紅芋などいろんな芋を使ったり、酵母にワイン酵母を使ったり、各メーカーがさまざまな工夫をしている。『お湯割り』『ソーダ割り』などおすすめの飲み方ごとにラインナップを展開する焼酎メーカーも多く、従来の芋焼酎などにはなかったフルーティーな焼酎なども多く生まれています」
お湯割り原理主義者も認めるソーダ割りの味わい
一方で鹿児島県全体の生産量は、平成19年の21万8,171キロリットルをピークに減少傾向が続き、直近の令和2年度の酒造生産量は9万7,673キロリットルに減少。
ライフスタイルや嗜好の多様化、人口減少などを背景とするいわゆる"アルコール離れ"に沿うかたちだが、コロナ禍での飲食店の営業状況を踏まえ、メーカーが生産量を抑制したことも影響しているという。
「ただ、県内と県外で比べると前年比97.3%と県内は減少したものの、県外への出荷量としては5万6121キロリットルで、100.6%とほぼ横ばい。これを支えたのが大都市圏における巣ごもり需要です。ボトルやラベルにもこだわったオシャレな焼酎が増え、より時代やターゲットにフィットした商品で、うまく宅飲み需要に対応できたメーカーは県内と県外で相殺するかたちで売上を維持しました」
こうした状況でこれまで焼酎に馴染みのない人にも手に取ってもらいやすい入り口の選択肢として、とくに注目されているのがソーダ割りだ。舌の上で弾ける香りと爽やかなのどごしで飲みやすいソーダ割りには、香りが立ち上るようなお湯割りの味わいなどとはまた違った魅力が楽しめるという。
「ソーダ割りに適した焼酎として、焼酎メーカーでは柑橘系をはじめバナナやライチ、マスカットなど、香りを立たせた焼酎が多く生み出されるようになっています。日本酒圏域だった首都圏以北、東北や北海道などでの市場拡大のため、組合としても一昨年くらいから積極的にソーダ割りに関するキャンペーンなどを打つようになりました。イベントやインフルエンサーを起用したPRなど、若い人たちに向けて焼酎のソーダ割の訴求に力を入れています」
「芋も黒糖も蒸留すれば糖質ゼロ」
往年の焼酎好きには6:4の比率によるお湯割りが定番だが、銘柄やシーンに合わせてたくさんの選択肢から飲み方を選べることは他のお酒にはない焼酎ならではの強みだ。
そもそも鹿児島県民はじめ焼酎好きのトラディショナルな飲み方である"お湯割り"も、大正時代に生まれた飲み方らしいが、本格的に定着したのは1970年代のお湯割りブームが契機と歴史的には比較的新しい飲み方だという。
「焼酎は割り方や比率、合わせる料理などを自分好みで調整しやすく、昨年12月のイベントで薩摩半島のお茶所である知覧の紅茶を煮出して焼酎で割るなど、実は焼酎の紅茶割りはかなり人気でした。製造過程で蒸留するので、本格焼酎は原料の黒糖や芋の糖自体はお酒に残っていないため、糖質・プリン体がゼロという意味では健康志向の時代にもマッチしたお酒でもあります。また、各地の郷土料理と一緒に食中酒として飲まれてきた背景もあり、さまざまな食事・料理とも非常に相性が良く、日本酒などに比べてアルコールが後に残りにくいことも魅力です」
独特の風味や重たさから特に食前には飲みにくいというイメージもある焼酎だが、今後は海外展開を睨みながら食前でもライトに楽しめるソーダ割りで、焼酎をより身近なお酒として浸透させたいという。
アメリカなどでの需要回復と輸送コンテナなどの物流の混乱が落ち着いたことで、2021年の日本のアルコール全体の輸出は、前年の約700億から約1,100億円へと大きく伸長した。
国内の人口減少など大きな流れとして国内市場の縮小が避けられないなか、重要性を増している海外市場だが、その内訳はウイスキーと日本酒が大半を占め、焼酎はカテゴリ全体でもわずか12億円と1%ほどに留まる。
「日本食の流れと連動して日本酒は20年以上前から地道に海外展開に取り組んできましたが、焼酎の知名度はまだまだ海外では低いのが現状です。そもそも世界には焼酎のような麹で作った蒸留酒が欧米に存在せず、欧米では食事とともに楽しむお酒はワインくらいで、食中酒の習慣自体が希薄。流通経路の構築や現地の法的な規制をクリアしながら10年、20年単位で市場を育てる必要があるのかなと思います。現在は水で希釈する前のアルコール40度ほどの焼酎の原酒をウイスキーやスピリッツのような形で普及させようとしている段階です」
鹿児島県酒造組合公式サイトではソーダ割りをはじめ、おすすめの飲み方ごとに本格焼酎を紹介しているので、ぜひ参考にしてみほしい。