木月:僕がやってる『新しいカギ』のセットは、賢太さんの弟子の永井(達也)くんにお願いしています。フジテレビの美術チームがすごいなと思うのは、まず演者の自由な発想を可能にする、何が起きてもどんな動きをしても大丈夫な空間をあらかじめ計算して作っている点。2つ目はどんな方向からどんなカメラサイズで狙っても見栄えのする、そして見ていて飽きない画になっている点。そしてそれなのにとんでもなく安い費用で豪華なセットを作ってくれる点ですよね。
横井:「人間カーリング」で熱湯に落ちてしまうセット、個人的にはカーリングより後ろの銭湯の番頭さんのところに注目していて(笑)。異様に作り込まれてるのが印象的でした。
木月:あんなに作り込んでるのに、全部で●●●万(※編集部にて伏せ字)しかかかってないんですよ。
横井:本当ですか! 一般的にはカーリングのゾーンだけでそれくらいかかりますね。
木月:やっぱり、もともとあるセットをうまく使っているからなんですか?
鈴木:永井くんが非常に優秀であるというのがまずあるのですが、そもそもをたどると、やっぱりフジテレビには『ドリフ大爆笑』があって、特に当時の先人たちが編み出した「和骨」と呼ばれる和風の道具がたくさん存在しているので、大邸宅のセットでも新しく作らずにこしらえることができるんです。だから、銭湯とか和に触れたものだと、部分的にそれが生かせるのが、他局さんと圧倒的に違うところかもしれないですね。ただ、物っていうのはしまっておくとお金の無駄になっちゃうので、それが常に使われて回っていることで、初めて意味を持ってくる。それくらい、フジテレビは道具がフル回転してるということだと思います。
木月:それは、ドラマでも使ってるんですか?
鈴木:常に使ってますね。
木月:だから、ドラマみたいなコントセットも安くできちゃうんですね。すごいなあと思って。新築せずにリフォームで行けてしまうという。フジテレビには生きた道具がたくさんあるから。
横井:やっぱりコントセットは圧倒的にフジテレビの印象が強いですね。確かに、賢太のセットを見ていると、ドラマ的な空気感ある飾り込みと、コントの要点をついた作り込みがミックスされてるなというのを非常に感じます。
木月:『新しいカギ』では「屋台崩し」(=セットが崩れるコント)をやったんですけど、この時の技術伝承の過程がすごかったです。最初落ちてくる屋根を重く作りすぎちゃってて。このままでは、もしかしたら操作するスタッフにケガ人が出るんじゃないかとなって収録前日のリハーサルで困り果てていたんですけど、それを聞きつけた美術や制作の先輩方が途中からアドバイスに入ってくれて、翌日の収録本番までに1日かけて修正していくんです。
鈴木:先輩方から脈々と受け継がれています。そこにお金を投じず安普請になると本当に危険だから、ああいう大がかりな仕掛けものをやるときは、ものすごい金額になってくると思います。やっぱり命がかかってるので、安全策も含めての金額なんです。想定外の方向に倒れたときのために映らないところまで素材を柔らかくしたり、ウレタンを置いたり、カメラマンさんのほうに何か飛んでいったら危ないのでアクリル板を置いたりとか、画面から見えてるもの以外に、たくさんお金がかかってくるんです。
■ぶち抜けて特殊なものを作っていた『VS嵐』
――『VS嵐』のようなセットは、なかなか他の番組と共用するのは難しいですよね。
鈴木:『VS嵐』は局の看板番組で個性が強く、ぶち抜けて特殊なものを作るようにしていたので、他に使い回せないんです。見た瞬間に「あれ、『VS嵐』のセットだよね」となりますから他に置き換えられるようなものを作ってもいけません。
木月:ジャニーズさんの番組だと、『キスマイBUSAIKU!?』(現・『キスマイ超BUSAIKU!?』)は最初、賢太さんに描いてもらいました。深夜なのにすごいセットで、今でも使っています。
鈴木:「勝ち組」と「負け組」がある中で「負け組」のほうにフォーカスを当てて、「BUSAIKU!?」という文字を背負ってるようにしたいということだったので、この文字からデザインがスタートしています。「BUSAIKU!?」という文字なんだけど、そのディテールの素材や輝きは一流という状態にしたんです。それが、演出側の表現したいことだと思ったので。
横井:「BUSAIKU!?」というのが、番組を象徴する“顔”になってますよね。
鈴木:そうやって他に使い回せないセットは予算があって初めてできることですけれどね。ちなみに僕や横井は古い人間なので、「1億使える」と言われても、平気で2億使っちゃう人間なんですけど…(笑)
横井:否定はしないです(笑)
鈴木:限られた予算の中で仕事をしていると、「1億使っていいよ」と言われたときに、500万円のものを20個並べようとしてしまってるのをよく見ます。要は、1億のスケールをイメージできなくなって、やったことのあるものを並べていってしまう。気づかないうちに自分で編み出したデザインをなぞってたり、成功体験のままになっていたりするから、同じものができてくるし、その大きさのスケールを外れたものができてこない。だから、美しくはあるんだけど面白くないものができてしまって、そうなると頑張って予算をつけた番組がちょっとかわいそうだなと思います。
次回予告…~美術クリエイター編~<4> 『Mステ』『IPPONグランプリ』に見るトータルデザインの重要性
●横井勝
1973年生まれ、京都府出身。デジタルハリウッド卒業後、97年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)入社。『ミュージックステーション』『アメトーーク!』などの番組のアートディレクションのほか、『ABEMA NEWS』クリエイティブ統括、テレビ朝日のCIデザインや「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り」から「バーチャル六本木」の展開、『世界体操・世界新体操』の国際大会演出など、最新テクノロジー企画、リアル空間、商品開発も多数手がける。
●鈴木賢太
1974年生まれ、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、97年にフジテレビジョン入社。主な担当番組は『ENGEIグランドスラム』『ネタパレ』『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』『ジャンクSPORTS』『ワイドナショー』『人志松本の酒のツマミになる話』『VS嵐』『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』『全力!脱力タイムズ』ほか。14年には『VS嵐』正月特番のセットで第41回伊藤熹朔賞協会賞を受賞。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『AKB48選抜総選挙』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『あしたの内村!!』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『バチくるオードリー』などを担当する。