歴史的な寺社仏閣や自然など、四季折々の楽しみ方ができる京都。でも混雑しがちな市内からちょっと足を伸ばしてみると、新しい京都が発見できそうです。

京都府南部の向日市(むこうし)・長岡京市・大山崎町から成る「乙訓(おとくに)」の地域は、歴史ある竹の産地です。静かな竹林を散策したり、美味しいたけのこを味わったりと楽しみ方も沢山。京都市内から電車で約10~20分とアクセスも抜群な、乙訓エリアの見どころを紹介します。

  • 向日市「竹の径」

竹を知ると京都がもっと楽しくなるかも! 竹の里・乙訓を巡ろう

京都の竹林と言えば嵯峨野や嵐山が有名ですが、京都府南西部にある乙訓もまた、竹とのつながりが深いエリアです。その歴史は今から約1200年前にさかのぼります。弘仁年間(810~823)の頃、長岡京市にある寂照院の開祖・道雄上人が唐から孟宗竹を持ち帰ったのが始まりだそう。また日本最古の物語と言われる「竹取物語」発祥の地とも言われています。

乙訓で育てられた竹は、お寺や歴史的な建築物、工芸品で使われる「京銘竹」として、また「京たけのこ」と呼ばれるブランドとして愛され続けています。

  • やわらかくておいしい京たけの子。写真は京の味処 うお寿「竹の子姿ずし」

竹林を散策して癒されて、食べて楽しんで、さらに竹細工づくりを体験して、乙訓をぐるっと巡って竹の里を満喫してみてはいかがでしょうか。

乙訓を観光する際に便利な駅は、JRでは桂川駅・向日町駅・長岡京駅、阪急京都線では洛西口駅・東向日駅・長岡天神駅と複数あります。いずれの駅もJR京都駅や阪急京都線烏丸駅から約10~20分程度。京都市内の観光と組み合わせたり、乙訓エリアに宿泊して京都南部をぐるっと観光するなど、様々な楽しみ方ができそうです。

  • JR向日町駅徒歩3分「向日市観光交流センター まちてらすMUKO

またJR向日町駅近くの「向日市観光交流センター まちてらすMUKO」や阪急洛西口駅「TauT」などレンタサイクルを行っているところも。天気の良い日はサイクリングをしながら巡ってみては?

深い緑に癒される~「竹の径&竹の資料館」

身近な植物だけど、意外と知らない竹のこと。そういえばたけのこってどうやって生えているんだっけ? 「まずは竹のことを知ってみませんか?」と案内してもらったのは向日市の「竹の径」です。

総延長1.8kmに渡って竹垣と竹林が続く「竹の径」。国土交通省「手づくり郷土賞」や日本ウオーキング協会「美しい日本の歩きたくなる道500選」ににも選ばれた観光名所です。

サラサラとした竹の葉の音や木漏れ日に癒やされるスポットですが、実はここ、京たけのこを育てている畑だそう。竹林をよく見ると、赤い土がたっぷり盛られている場所も……。

乙訓のたけのこは、白くみずみずしくてやわらかい食感が特長。この秘密は、良質な水を多く含む粘土質の土壌にあります。ずっと土の中で育つたけのこづくりにおいて、土作りはとても重要なポイント。毎年秋以降になるとたけのこ畑を覆うようにわらを敷き、赤土をかぶせて空気の層を作り、保温・保水効果を高めるそうです。

一見美しい竹林ですが、愛情込めて美味しい京たけのこが育てられているエリアなのです。

そして京都の竹は、たけのことして食べて美味しいだけでなく、柱や門、生け垣などの建材や工芸品としても使われています。なかでも京都で育てられた竹のうち、白竹、胡麻竹、亀甲竹、図面角竹の4種類は「京銘竹」と呼ばれ、伝統産業としても指定されているそう。

  • 竹の径で最も多く使われている、竹の枝を使った「竹穂垣」

竹の径の両脇にずらりと続く竹垣も、京銘竹の職人の手によるもの。竹の径では「古墳垣」「寺戸垣」「物集女垣」「かぐや垣」「来迎寺垣」「深田垣」「海道垣」と8種類の竹垣があるので、散策しながらデザインを見比べても。

  • 洛西竹林公園内「竹の資料館」

また竹のことをもっと知りたい! と思ったら、竹の径の途中にある洛西竹林公園内「竹の資料館」もオススメです。

様々な模様が特徴的な京銘竹の解説や、ちょっと珍しいものでは、何十年、何百年に一度しか咲かないという竹の花や竹の種の展示も。

和風庭園をイメージした生態園では、遊歩道を歩きながら様々な竹を鑑賞することもできます。京銘竹のことを知ると、京都の寺や建築物を見る際、「ここにも竹が使われてる!」と少し視点が変わりそうです。

竹の径
京都府向日市寺戸街芝山~物集女町長野、中海道地内
JR桂川駅からバスで8分、阪急京都線洛西口駅からバスで3分
Webサイト「京都市洛西竹林公園 竹の資料館」

京都市洛西竹林公園 竹の資料館
京都府京都市西京区大枝北福西町2-300-3
JR桂川駅・阪急洛西口駅から京都市バス「特西4系統」に乗車、「南福西町(竹林公園前)」下車、徒歩約5分
阪急桂駅西口から京都市バス「西3、西8系統」に乗車、「南福西町(竹林公園前)」下車、徒歩約5分
Webサイト「向日市観光協会 竹の径」

春が旬! 見た目も華やかな「京たけのこグルメ」

乙訓に来たら味わいたいのが「京たけのこ」。特に3月中旬~5月にかけては旬の時期。今だけしか食べられない春の味を楽しみましょう。

長岡京市の「京の味処 うお寿」は、「竹の子姿ずし」や地元の素材を使った季節の料理を手掛けるお店。創業80年近い、地元に愛される名店です。

  • 京の味処 うお寿「竹の子姿ずし」(1本1,595円、テイクアウト1,566円)

「うお寿」の名物「竹の子姿ずし」(1本1,595円、テイクアウト1,566円)は、京たけのこの美しい白さを活かした一品。醤油を使わず、酒、みりん、鰹節などでじっくり炊き込んだたけのこの歯ざわりと、木の芽や柚子の爽やかな香り、そして京都らしい甘めの酢飯を詰めた寿司です。

お酒やご飯と一緒に食べるのはもちろんのこと、京都の言葉で"むしなしやい"―小腹がちょっと空いたとき、腹の虫をなだめる程度の軽い食事としても食べられているとのこと。なお「竹の子姿ずし」は通販でも購入できるので、お取り寄せをしておうちで京都の春の味覚を楽しむこともできます。

  • 地元のたけのこをふんだんに盛り込んだ、京の味処 うお寿「松花堂」(3,630円)

また、季節ごとの食材を使った「松花堂」(3,630円)では、京たけのこをふんだんに使ったメニューも。春らしい「竹の子姿ずし」をはじめ、採れたてならではの「たけのこのお造り」や、土佐煮、たけのこ田楽、たけのこの鍬焼きといった様々なたけのこ料理が楽しめます。

京の味処 うお寿
京都府長岡京市今里2-17−8
電話:075-951-0325
JR長岡京駅よりタクシーで約10分、阪急京都線長岡天神駅よりタクシーで約5分
Webサイト「京の味処 うお寿」

プロ直伝の竹細工にチャレンジ!

乙訓の竹は工芸品としても有名ですが、竹細工を体験してみても。手触りや香りを楽しみながら、より竹に親しむことができます。

建仁寺垣・竹垣の専門店である「長岡銘竹」では、竹かご作りやマイ竹箸作りのワークショップも手掛けています。

今回、長岡銘竹の職人・真下さんに竹かごづくりを教えてもらいました。

チャレンジするのは、細く割った竹の皮と身を使って編む「四海波籠」。古くから伝わるデザインで、花かごや小物入れとして使えるサイズです。使う竹は、たけのことして食べる「孟宗竹」ではなく、「真竹」という種類だそう。

体験では全部素材を用意してくれているので、真下さんにアドバイスしてもらいながらどんどん編んでいきます。

使う工具はハサミだけ。ぐっと曲げる作業をしていると、うっかり折りそうでハラハラしますが竹は想像以上にしなやか。皮はツヤっと、身は少しザラザラした触り心地質感で、実際に竹に触れてみると様々な発見があります。

竹かご作りの体験は、およそ60分~120分程度。自分で作った竹かごは愛着たっぷり! 素敵なお土産になりそうです。

また、真下さんが所属する長岡銘竹は、寺社をはじめとした竹垣や、「竹の径」の竹垣も手掛けるそう。竹かご作りをしながら、竹にまつわる話を聞くこともできます。歴史ある京都の竹ですが、現在は管理できずに放置された竹林が問題になったり、後継者を育てるといった課題もあるそう。一方で石油の代わりにバイオエタノールとして活用されるなど、エシカルな素材としても注目を浴びているという話も。竹細工の体験をしながら、さらに竹への理解を深められそうです。

建仁寺垣・竹垣の専門店 長岡銘竹
竹かご作り体験 4,000円、要事前予約
体験場所は京都府亀岡市の長岡銘竹工房、もしくは5人以上の場合は希望の場所での体験も可能
電話:075-925-5826
Webサイト:「長岡銘竹 竹製品WorkShop」


京都と竹の歴史や関わり方を知ることで、いつもの京都観光がさらに楽しくなるかもしれません。だんだん暖かくなってくる今はまさにたけのこの旬。今年の春の京都旅行は、ぜひ竹の里・乙訓を堪能してみては?