ライトウエイトFRスポーツカーが今、再び脚光を浴びている。2021年夏にはスバル/トヨタ自動車の「BRZ/GR86」がモデルチェンジ。年末にはマツダが「ロードスター」の商品改良を実施し、印象的な特別仕様車をラインアップに追加した。このタイミングで国産軽量スポーツカーの魅力を再考し、BRZとロードスターを比較してみたい。
まずはスペック比較から
2シーターオープンと2+2クーペという違いはあれど、価格帯も近く、手ごろなサイズとパワーを持つFRのスポーツカーという点で共通するBRZとロードスター。今回は、両車の魅力をあらためて検証してみよう。なお、ご存知のとおりBRZはGR86と同じ工場で生産される姉妹車だが、本稿ではスバルのBRZを主に取り上げる。
ボディサイズはロードスターが3,915mm×1,735mm×1,235mm(電動ハードトップを備えたリトラクタブル ファストバックを意味するRFは1,245mm)、BRZが4,265mm×1,775mm×1,310mm。走りに深く影響するホイールベースは2,310mmと2,575mmで、やはり後席のあるBRZがだいぶ大きい。全高はBRZも低いが、ロードスターはもっと低い。
エンジンは自然吸気の4気筒である点こそ共通するものの、直列と水平対向という大きな違いがある。排気量もロードスターはソフトトップが1.5リッター、RFが2.0リッター、 BRZが2.4リッターと、これまたBRZが大きい。いずれも6速MTと6速ATが用意されている。
エンジンスペックはロードスターのソフトトップが最高出力132ps/7,000rpm、最大トルク152Nm/4,500rpm、RFが184ps/7,000rpm、205Nm/4,000rpm、BRZが235ps/7,000rpm、250Nm/3,700rpm。車両重量はソフトトップが990~1,060kg、RFが1,100~1,130kg、BRZが1,260~1,290kgだ。動力性能に直結するパワーウエイトレシオを計算すると、ロードスターのソフトトップが約7.8kg/ps、RFが約6.1kg/ps、BRZが約5.4kg/psと、やはりBRZがずっと上回る。
次に量販グレードの体系および価格帯を見てみる。ロードスターはバリエーションが豊富で、ソフトトップが262.35万円~335.61万円、RFが346.1万円~392.26万円と幅が広い。BRZは「R」と「S」のシンプルな2モデル展開で、価格は308万円~343.2万円となる。なお、いずれもAT車の価格が同じグレードのMT車に対して高く設定されており、ロードスターのソフトトップが11.55万円、RFが2.75万円、BRZは16.5万円の増額となる。
また、どちらのクルマにもモータースポーツ向け車両の設定がある。ロードスターの「NR-A」は277.75万円、BRZの「カップカー・ベーシック」は333.85万円だ。
ロードスター(ソフトトップ) | ロードスターRF | BRZ | |
ボディサイズ(全長/全幅/全高) | 3,915mm/1,735mm/1,235mm | 3,915mm/1,735mm/1,245mm | 4,265mm/1,775mm/1,310mm |
ホイールベース(前輪と後輪の間の幅) | 2,310mm | 2,310mm | 2,575mm |
車両重量 | 990~1,060kg | 1,100~1,130kg | 1,260~1,290kg |
パワーウエイトレシオ | 約7.8kg/ps | 約6.1kg/ps | 約5.4kg/ps |
価格 | 262.35~335.61万円 | 346.1~392.26万円 | 308~343.2万円 |
個性の違いを要素ごとにチェック
実用性はBRZのほうが高いことはいうまでもないが、特筆すべきはトランクのつくり。ハッチバックではなくキャビンと独立しており、さらにはサーキット走行会などでタイヤを履き替えることを想定し、リアシートを倒すと17インチタイヤ4本が積めるように設計されているのがポイントだ。後席は広くはなく、乗り降りも容易ではないが、小柄な乗員ならなんとかなる。
かたやロードスターも、制約の大きい中で利便性を最大限に高める努力をしている。膝前スペース確保のためグローブボックスを割り切ってなくした分、背後には収納スペースを用意。トランクも、高さのあるモノもなんとか積めるように形状を工夫している。両車とも、それぞれの置かれた状況の中で、使い勝手を高めるべく配慮していることがうかがえる。
いかにもスポーツカーらしい低いポジションのシートはどちらも共通している。ロードスターはより地面に近い位置に座る感覚で、手軽にオープンエアドライブが楽しめるのも大きな魅力。ワンタッチでハードトップを電動開閉できるRFはもちろん、ソフトトップの屋根(幌)もシートに座ったまま片手で開閉できるよう設計されているので、非日常性を日常的に味わうことができる。
エンジンフィールやシフトフィールはスポーツカーを走らせる気持ちよさに直結する。2台ともターボ付きではなく、あえて自然吸気エンジンにこだわった理由がうかがいしれる。
いまや貴重な3ペダルHパターンの6速MTを比べると、シフトフィールは現状、ロードスターのほうが節度感は高い。一方で、パワー感はスペックのとおりBRZのほうがだいぶ上。ロードスターの1.5リッターは線が細いのは否めないが、マツダとしてはロードスターの性格に相応しいと考え、あえてそのような設定にしたのだという。
かたやBRZも、豊富なターボのノウハウを持つスバルながら自然吸気にこだわった。どちらも絶対的な速さよりも、高回転までエンジンを回したときの爽快感を楽しめるように作っているというニュアンスだ。いずれも最高出力の発生回転数が7,000rpmと高いあたりにも、それが表れている。
持っているドライビングプレジャーの中身はそれぞれ。どちらもコントロール性の高さが持ち味だ。限界付近の挙動がおだやかなので、スポーツ走行をたしなむユーザーにとってもより楽しめるに違いない。その上で、BRZはFRながら操縦安定性の高さを念頭に置いていて、加減速で挙動が乱れにくい。かたやロードスターは、よりコンパクトでホイールベースが短いことも効いて、手の内で操れる感覚が高い。BRZはライトウエイトスポーツながらグランツーリスモ的な要素も感じさせる。
さらにロードスターは、そんな自身の走りの楽しさをさらに高めるべく、ふたつの新たなチャレンジを具現化した。ひとつは「KPC」(キネマティック・ポスチャー・コントロール)という新技術の採用だ。詳しい内容は公式WEBサイトなどを参考にしていただきたいが、これによりGが強めにかかるようなコーナリングでのロールを抑制し、旋回姿勢をより安定させてドライバーとクルマの一体感を高めている。
もうひとつは特別仕様車「990S」の設定だ。名称のとおり990kgの車両重量を維持しながら、軽量の鍛造ホイールの装着をはじめシャシーやエンジン、ブレーキなどを専用にセッティングしてある。走りに特化して軽さにこだわった特別仕様を用意するあたり、ロードスターを愛する人が何を求めているのか、マツダはよく理解しているに違いない。
先進運転支援装備については、BRZにはAT車のみアイサイトが、ロードスターにもほぼ同等の機能を備えたアドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポートがMT/AT車とも搭載される。
同じライトウエイトFRスポーツでも全く違うタイプのクルマであるだけでなく、登場から時間の経過とともに洗練度を深めてきたロードスターと、新しくなって間もない気鋭のBRZという違いもあるわけだが、どちらのクルマも、興味を持って選んだ人の期待に大いに応えるクルマであるという意味で共通していることは間違いない。