キリンビールは、2022年のビール事業戦略発表会を3月14日に開催、「一番搾り」「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の事業戦略を説明した。本記事ではその様子をレポートする。

  • 写真左 キリンビール 代表取締役社長 堀口英樹氏、右 同社 常務執行役員マーケティング部長 山形光晴氏

キリンビール、2022年「2つの全体戦略」

発表会の冒頭で、キリンビール 代表取締役社長 堀口英樹氏より同社のビール事業の説明と、今後の戦略の発表が行われた。2021年はコロナ禍による在宅時間の増加や在宅生活の充実、健康意識の高まり、そして酒税改正を受けたビール回帰といった影響があったという。

そういった状況の中、2022年のビール事業戦略として2つの全体戦略が挙げられた。ひとつは一番搾りブランドを中心にした「強固なブランド体系の構築」、もうひとつは「SPRING VALLEY 豊潤<496>」など「新たな成長エンジンの育成」だ。

この戦略のカギとなるのは、「本流ビールの美味しさ」「ビールの新しい美味しさ」という2つの価値だという。

まず主力商品の「キリン一番搾り」「一番搾り糖質ゼロ」の2021年販売実績はともに好調で、「一番搾り」ブランド缶全体で前年比122%増と伸びを見せている。昨年4月に2年半ぶりのリニューアルを行った「一番搾り」は、このリニューアルで既存のビールユーザはもちろんのこと、ビールを購入していなかったユーザーも獲得。ビール市場の拡大に貢献できたという。

そしてもうひとつの注力商品である「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は、「一番搾り」「本麒麟」に続くビールカテゴリの第三の柱として"成長エンジン"と位置付けて昨年登場した新商品だ。同商品が発売された2021年の国産クラフトビール販売規模は2020年と比べて191%と大きく伸長、国産クラフトビールの市場拡大の牽引の原動力にもなったと自信を見せる。

この事業戦略に基づき、22年には1,000万人の引用体験を創出し、ビールのおいしさを伝えていく。また10万人以上の会員を抱える家庭用ビールサーバー「ホームタップ」のニーズ拡大や業務用ニーズの回復に備え、約36億円の投資を行いPET製品の本格稼働も行う。「SPRING VALLEY 豊潤<496>」については、クラフトビール市場の拡大を見据えて製造工場を追加、クラフトビールの魅力を伝えていくという。

ビール類市場全体を見るとここ17年縮小傾向にあるが、2022年の販売計画は、「一番搾り」缶は前年比9.8%増、「一番搾り糖質ゼロ」は前年比+20.5%、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は前年比+52.9と大きな目標を立てている。「今年もビールカテゴリに注力し、ビール類市場全体の活性化につなげたいと考えています。今、ビール類は転換点を迎えています。ビールが持続して愛されるために、ビールの魅力化に務めることでキリンビールは『第二創業期』とします」と意気込みを見せた。

「一番搾り」の戦略は?

続いて同社 常務執行役員マーケティング部長 山形光晴氏より、同社のビール事業における注力ブランド「一番搾り」「SPRING VALLEY 豊潤<496>」の事業戦略発表が行われた。

まずフラッグシップブランドの「一番搾り」は、「一番搾り」「一番搾り 糖質0」を中心に、ブランドの本質的価値「味わいのあるおいしさ」をより一層追求し、ユーザーの満足度を充足、ビールカテゴリーの拡大と市場活性化を狙っていく。

1990年に発売した「一番搾り」は、同社のビールカテゴリーでは最多の通算6回のフルリニューアル、味覚テストは2021年までに15万回以上を行っているという。定番の商品だが、なぜここまでリニューアルを重ねるのだろうか。

「ビールの美味しさは時代によって変化してきました。元々喉の渇きをいやすというニーズがありましたら、満足感や味わいを楽しめるニーズも高まっています。2021年のフルリニューアルでもさらなる美味しさを実現、中盤の"麦のうまみ"や、済んだ味わい、雑味のない後味など高い評価を得ています」。実際にこのリニューアルでは、過去10年で最多の新規ユーザーも獲得しているという。

また2020年に発売した新商品「一番搾り 糖質ゼロ」も、累計販売数は2.5億本を突破。これは同社のビール新商品では、過去10年で最速の達成だと自信を見せる。

リニューアルする「SPRING VALLEY 豊潤<496>」

同社が"成長エンジン"と位置付ける「SPRING VALLEY 豊潤<496>」では、ブランドの戦略とリニューアルについてが発表された。

ブルワリーとして国内外のビアコンペティションで69個もメダルを獲得しているスプリングバレーブランドだが、山形氏は、同商品の成長を通して今後多くのステークホルダーに価値を提供していきたいと語る。高価格帯の商品であるため、流通では客単価の向上やビール売り場の魅力化、ユーザーにはクラフトビールで新しい価値を発見してもらうこと、またクラフトビールの間口を広げることで、クラフトブルワリーの売上向上にも繋げるなど、ビール市場の魅力化・クラフトビール市場の活性化を進めたいという。

また、コロナ禍を受けユーザーのビールへのニーズが変化したという。コロナ禍後、同社の調査によると約3人に1人がビールに「おいしさ」「質」を求めるようになったそうだ。家飲みが増えることで、より価値があるものを飲みたい、という傾向は増え続けている。「SPRING VALLEY 豊潤<496>」では、このニーズに応えるためにさらなる美味しさを追求、今回のリニューアルに至った。

100年後もビール市場が魅力的であるために、同商品では現在ビールを飲んでいないユーザーも含め「感動体験」を提供するマーケティング活動を実施していくという。「第二創業期の成長エンジンである『SPRING VALLEY 豊潤<496>』はキリンビール史上最大規模である年間500万人の飲用体験、そして生産体制の強化でさらなるブランドの育成を図ります」と山形氏は今後について述べた。

続いてキリンビールのマスターブリュワーを務める田山智広氏から「SPRING VALLEY 豊潤<496>」リニューアルに関する解説が行われた。

「SPRING VALLEY 豊潤<496>」は3つの特徴があると田山氏。「ひとつめは、1.5倍の麦芽、5種類のホップを贅沢に使用していること。ふたつめはホップを7日間漬け込み、ホップの美味しい所だけ引き出す『ディップホップ製法』、3つめは構想に10年、試験製造は250回と手加減をしていないことです。去年から数十回試験醸造を加え、今回のリニューアルに至りました」。

今回のリニューアルでは、ホップの種類を従来の4種類から日本産ホップ「IBUKI」を含めた5種類に変更し、印象の強さはそのままにより落ち着きが増す味わいになったという。また、仕込工程の一部を変更して酸味を抑えることにより「飲み飽きない味わい」を実現。満足感がありながらも、飲み飽きない味わいに仕上げている。

「1年経ち、美味しさを高みに上げた『SPRING VALLEY 豊潤<496>』を、ぜひ多くの人に飲んで欲しいですし、このブランドでビール市場を活性化して、ワクワクするような状況に変えていきたいなと考えています。今後のスプリングバレーのブランド展開にご期待ください」と田山氏は締めくくった。