鉄道博物館(さいたま市)の収蔵資料展「鉄道写真家・南 正時作品展 ~蒸気機関車のある風景 西日本編~」が、3月5日から6月13日まで本館2階「スペシャルギャラリー1」にて開催される。これに先立ち、3月4日に内覧会が行われた。
2020年10月から2021年1月まで開催された「鉄道写真家・南 正時作品展 ~蒸気機関車のある風景~」に続く第2弾となる今回の作品展では、南氏が鉄道博物館へ寄贈した作品のうち、西日本各地で撮影した写真を中心に、1,000点以上の中から代表作約70点を展示。自然豊かな日本の風景を走る蒸気機関車をメインに、南氏の作品世界を紹介する。
南氏は1967(昭和42)年にアニメーション制作会社「Aプロダクション」(現・シンエイ動画)へ入社した後、写真家・中村由信氏の推薦で月刊「フォトコンテスト」の招待作家として鉄道写真を発表。テレビアニメ『ルパン三世』制作時、作画監督だった故・大塚康生氏の推薦で「週刊漫画アクション」編集者と知り合い、同誌の口絵「SLを追って」の連載を開始した経歴を持つ。1971(昭和46)年にフリーカメラマンとして独立し、写真家生活は約半世紀にも及ぶ。
1975(昭和50)年、勁文社の大百科シリーズ『機関車電車大百科』で初の著書を刊行。このシリーズが大ヒットし、以後20冊を刊行したという。1970~1980年代に少年時代を過ごした鉄道ファンで、「ケイブンシャの大百科シリーズ」がきっかけで鉄道に興味を持ち、南氏の名前を記憶している人も多いかもしれない。
国鉄路線上から蒸気機関車が姿を消して行った1970年代、南氏は全国を巡り、蒸気機関車など撮影していた。前回の作品展では、北海道、東北、中部、北陸の各線で撮影した約70点を展示。今回は西日本編として、関西、山陰、九州を中心に、各線で撮影した約70点を展示している。日本海に沈む夕日をバックに山陰本線を走る列車や、満開の桜の中を行く列車など、日本の原風景とも言うべき美しい風景の中、力強く走る蒸気機関車の姿をとらえており、見る者の郷愁を誘う。
高森線(現・南阿蘇鉄道)立野~長陽間の第一白川橋梁を渡る列車の写真も感慨深い。全長166.3m、高さ60mの鉄橋で、同線最大の見所ともいえたが、2016(平成28)年4月の熊本地震で被災。崩落は免れたものの、橋脚の変形や破断があり、耐力が大きく低下しているとの見解から架け替えが決定し、昨年4月末に旧橋梁が撤去された。南氏の写真は、国鉄時代の高森線と蒸気機関車C12形、第一白川橋梁の姿を現代に伝える貴重な1枚となった。
今回の作品展では、「門デフ」と呼ばれる独特の除煙板(デフレクター)を取り付けた九州地区の蒸気機関車や、急勾配用重装備の蒸気機関車など、当時のバラエティ豊かな蒸気機関車を紹介するコーナーも設けられた。今年、大井川鐵道への譲渡で話題となったC56形135号機の現役時代の写真もあり、赤ナンバーを掲げ、肥薩線で活躍する姿が写し出されている。同機はお召し列車予備機にも指定されていたという。
作品展の開催前日に行われた内覧会では、南氏も会場を訪れ、展示作品について説明を行った。蒸気機関車の撮影に関して、「形式写真(車両の全体像をバランスよく鮮明に撮影した写真)をしっかり撮ろうという気持ちはあまりなかった」と話す南氏だが、当時活躍した九州地区の蒸気機関車を高く評価している様子で、「シゴゴ(C55形)、シゴナナ(C57形)など、きれいな機関車がいっぱいあったんですよ。コールタールを塗って黒光りするのではなく、鉄本来の輝きというのがあって、九州の蒸気機関車はみんな輝いて見えるんです。形式写真とまではいかないものの、門デフとかヘッドライトとかの形を意識しながら撮っていました」と振り返った。
今回の展示作品はいずれもカラーフィルムをデジタル化しており、劣化による退色が見られるフィルムは南氏自らスキャニング作業・レタッチ作業を行い、当時の記憶を頼りに色彩を再現したという。カラーフィルムのデジタル化について、「10年かかってリマスターしていますが、まだ全体の3分の1くらいしかできていない。残り3分の2が終われば、今度はモノクロフィルムのリマスターもしなければならない。時間との勝負になっていますが、また新しくリマスターして、皆さんに見ていただけたらと思っています」と南氏が話す場面も。フィルムのデジタル化とその技術を紹介するコーナーも設けられた。
その他、今年の鉄道開業150周年にちなみ、50年前の1972(昭和47)年、旧新橋停車場(当時は汐留駅)で行われた「鉄道百年記念式典」を取材したときの写真や、その頃まで残っていた明治期以来の鉄道施設について紹介するコーナーもある。南氏が撮影した作品に加え、戦前に作られたという蒸気機関車3両の模型も展示された。
「鉄道写真家・南 正時作品展 ~蒸気機関車のある風景 西日本編~」は、鉄道博物館の主催、JR東日本・さいたま市の後援で、3月5日から6月13日まで本館2階「スペシャルギャラリー1」にて開催。作品展の入場料は無料で、鉄道博物館の入館料(一般の前売料金1,230円、当日料金1,330円)のみで見学できる。会場内は撮影・飲食禁止とされている。
特別イベントとして、開催期間中の3月19・20日、本館2階「てっぱくシアター」で南氏のトークショーを行う予定。各日2回(13~14時、15~16時)開催され、南氏による展示作品の解説をはじめ、写真作品保存への取組みについてトークするという。