2月に入り世界は緊張感に包まれています。ロシアのウクライナ侵攻です。そしてこの地政学リスクの高まりは、資源価格などの商品市況や株式市場にも大きな影響を与えています。ここ最近でどのような動きがあったのか、ウクライナ情勢、物価動向、株式動向の観点に分けて、詳しく見ていきます。

  • ロシアのウクライナ侵攻、経済への影響はどうなる?

    ※画像はイメージ

ロシアがウクライナ侵攻を決行、世界から非難が集まる

ウクライナ情勢について簡単に振り返ります。ロシアが本格的にウクライナ侵攻をしたのは2月24日ですが、事態が急速に動いたのはロシア軍の動きが活発化した2月3週目からでした。欧米諸国はロシアに対し、外交的手段での解決を望んでいましたが、2月18日以降はウクライナからの独立を宣言しているルガンスク人民共和国でガスパイプラインが爆発するなど軍事行動が発生。その後、米露外相会談が予定されるなど事態の好転が期待されましたが、ロシアの行動を受けアメリカ側から中止となり、緊迫感は高まりました。

そして24日にウクライナ各地で軍事侵攻が行われ、25日時点で11の空港を含むウクライナ軍の80以上の施設を攻撃したとされています。ロシア軍は制空権を確保した上で首都キエフに迫り、25日には首都の陥落が迫るなど事態は緊迫化しています。

攻撃を主導しているロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用も辞さない構えを示している中、ウクライナはNATO加盟国でないため欧米諸国の派兵はNATOに加盟する周辺地域にとどまっており、各国は両国の戦いを見守っている状況です。

このような中で、各国も制裁に動き出しています。金融面では金融機関の資産凍結や、交易面ではハイテク製品の輸出規制、エネルギー面でもドイツは新しいパイプラインの稼働の停止を発表しています。一方で、最も厳しい制裁とされる、SWIFT(国際銀行間通信協会)の国際決済ネットワークからロシアを排除する対応は見送られており、現在の制裁の影響は限定的との見方もあります。

わずか2週間の間に、第二次世界大戦以降最大の安全保障上の危機と目されるなど、多くの国を巻き込んだ騒動に発展しています。

  • 各国の対応(報道情報をもとに筆者作成)

日本においてもインフレの脅威が迫る

ロシアとウクライナの争いということで、地理的には日本から遠く、対岸の火事のような気もしますが、日本での生活にも影響がないわけではありません。それは物価の高騰です。昨年半ば頃から、世界的に新型コロナ禍からの経済正常化が進むにつれて、原油をはじめとする商品価格が高騰し、物価上昇となっていましたが、この動きが加速しそうなのです。

ロシアの攻撃がはじまった24日は商品市況も大きく変動し、NY原油が7年7か月ぶりに1バレル=100ドルを突破したほか、天然ガス、小麦などさまざまな商品が急騰しました。事態が明らかになるにつれ、価格変動は収まったものの、高騰した商品価格は中長期的に見て物価上昇として現れることが予想されます。

電気価格やガソリン価格は昨年から上昇を続けており、ガソリン価格に関しては政府の補助金による対応も行われていますが、今年に入り食品や日用品にも値上がりの波は押し寄せています。3月には冷凍食品や紙製品、食用油など多くの商品での値上げが発表されています。

ここで、企業の原材料にあたる企業物価と消費者物価を見てみましょう。2022年1月の企業物価は前年比+8.6%に対し、消費者物価は総合で前年比+0.5%と大きく乖離しています。消費者物価は携帯料金の値下がりの影響で下落圧力がかかっており、実際には上昇が始まっているものの、現状では企業の負担が消費者に転嫁されていない状態となっています。つまり、今後の原材料費の高騰が続く場合は、消費者物価の上昇も予想され、家計への更なる影響も懸念されます。

  • 日本の物価指数の推移(市場データをもとに筆者作成)

生活必需品は利用を控えるといっても限度があるため、対応策も限られますが、このように情勢の変化を把握することによって事前にリスクを想定することはできます。今後も物価上昇圧力が予想されることは頭に入れておくとよいのではないでしょうか。

株価は上下に乱高下も、短期的な変動時こそ冷静な対応を

ウクライナ問題の影響は株式市場にも打撃となりました。それぞれ振り返ってみましょう。

まずは、取引時間中にロシアによるウクライナの本格侵攻が報じられた日本市場が売りに押されました。取引時間の後場に入り下げ幅を拡大し、2020年11月以来の26,000円割れで取引を終えました。

その後、全取引の一時中断を発表したロシアの株式市場でも取引が始まりましたが、急落。ロシアの株式指数は一時50.2%まで下落し、終値でも39.4%と過去最大の下落率で約6年ぶりの安値となりました。株安の懸念は欧州株にも広がり、特にロシアとの関係がある金融株を中心に大きく売られました。

米国株も欧州と同じ流れで、取引開始時は特にハイテク株を中心とするナスダック指数は約3%を超える下落で、直近高値から20%の下落となりました。一方で、午後に入るとハイテク株は世界景気の減速の影響を受けにくいとの見方や、これまで大きく売られてきた反動から買戻しが優勢となり、終値は前日比3.3%高と大幅反発。取引開始時と終了時でまったく景色の異なる1日となりました。

  • 各国の主要指数の値動き(市場データをもとに筆者作成)

明けた25日の日本市場は反発の動きとなったものの、アジア市場で下落している指数もあり、引き続き様子見ムードが続いています。

最近の動きに加え、2022年に入ってから急変動が続いていますが、このようなときはどう投資と向き合えばよいでしょうか。長期で分散している投資をしている方は、地域や資産を分散し、更につみたて投資で時間分散効果を狙った投資をしていると思われますが、このような一気にリスクオフの方向に傾いた場合では、さまざまな資産が売られるためいくら分散をしていても評価額の減少は避けられなくなります。

しかし、今回のような地政学リスクは一時的なかく乱要因であり、事態が長期化とならない限りは、短期的な値動きと考えられます。つまり、長期投資家にとってはこのようなタイミングで狼狽して売却してしまっては、本来の資産形成の意味がなくなってしまいます。

下落時こそ買い場であると意気込んで積極的な姿勢になる必要はありませんが、せっかく続けている投資をやめることはせず、落ち着いて状況を見守ることも重要ではないかと筆者は考えます。

先述のように、昨今の市場の値動きは投資を実施している方だけでなく、日常の生活にもインフレという形で影響を及ぼしています。この機会に、世界情勢並びにマーケット動向のニュースへの関心を普段より持ってみてはいかがでしょうか。

※本記事は2月25日時点の情報をもとに執筆しています