本やインターネットを見ていると、「泣いて馬謖を斬る」という言葉を見かけることがあります。普段の会話の中でよく使われるような表現ではないため、「馬謖ってなに? 」「どういう意味? 」と思っている人も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、泣いて馬謖を斬るの意味や由来について紹介していきます。

また、泣いて馬謖を斬るの類語や対義語にあたる言葉についても解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

  • 泣いて馬謖を斬るとは

    「泣いて馬謖を斬る」の意味や由来などを紹介します

泣いて馬謖を斬るとは

「泣いて馬謖を斬る」とは、「大切な人であっても、決まりを破った者は厳しく処分する」という意味の言葉です。馬謖は人の名前で、中国の三国時代のできごとに由来しています。

読み方は、「ないてばしょくをきる」です。

泣いて馬謖を斬るの意味

仮に違反者が大切な人であったとしても、規律を保つために私情を捨てて厳しく処分することを、泣いて馬謖を斬ると表現します。私情とは、個人的な感情のことです。

違反者とはいえ、自分にとって大切な人であれば罰するのは辛いもの。処罰を軽くしたり、処罰をなしにしたり、といった行動に出たくもなります。しかし、そうすることで和が乱れる恐れがあれば、厳しい決断を下す場合もあるでしょう。このように、個人の感情を持ち込まず、規律を保つことを優先して正当に処分をすることを、泣いて馬謖を斬ると表現できます。

泣いて馬謖を斬るは故事成語

泣いて馬謖を斬るは、三国時代のできごとが元になっている故事成語です。故事成語は、主に中国の昔の話に由来して作られた慣用句やことわざのことを指します。

  • 泣いて馬謖を斬るとは

    「泣いて馬謖を斬る」は、違反者が大切な人であっても私情を挟まずに厳しく処分するという意味です

泣いて馬謖を斬るの由来

泣いて馬謖を斬るという言葉の由来になったできごとについてくわしく紹介していきます。

諸葛孔明と馬謖

泣いて馬謖を斬るは、中国の三国時代に起こったできごとが由来です。

魏・呉・蜀という三国が互いに争っていた三国時代、蜀には優れた才能を持った軍師・諸葛孔明という人物がいました。諸葛亮(しょかつりょう)とも呼ばれる人物です。

そして、この諸葛孔明の部下であったのが「馬謖」という人物。馬謖は、諸葛孔明にその才能を高く買われ、重用されていました。しかし、馬謖は先陣として挑んだ「街亭の戦い」において諸葛孔明の指示に背き、蜀軍は大敗してしまいます。

諸葛孔明にとって馬謖は右腕のような存在でしたが、軍の規律を保つために馬謖を斬る、つまり斬首刑で死刑にするという厳しい処分を下したのです。このできごとが、馬謖を斬るの由来となっています。

馬謖が命令に背いた理由

馬謖が諸葛孔明の命令に背いた理由は謎のままと言われています。

当時、馬謖は実戦経験が少ない若手の参謀でしたが、諸葛孔明は街亭の戦いにおいて重要な司令官というポストに任命。このことからも、諸葛孔明が馬謖を信頼していたことは窺えます。

しかし、馬謖は諸葛孔明からの指示を無視し、山の上に陣営を構えてしまうのです。その結果、敵軍の魏軍に山を包囲され、蜀軍は敗北します。

馬謖がなぜ命令に背いたのかは明らかになっていませんが、馬謖が自身の兄であり周囲からの評価も高い優秀な人物であった馬良を越えるために手柄を立てようとした、などさまざまな説が考えられています。

  • 泣いて馬謖を斬るの由来

    泣いて馬謖を斬るは、命令に背いた馬謖を諸葛孔明が私情を捨てて処分したことに由来しています

泣いて馬謖を斬るの原文

泣いて馬謖を斬るの由来となったできごとは、複数の史書や小説などに書かれています。ここでは原文とされているものや、有名なものを紹介します。

三国志

「三国志」の蜀書(しょくしょ)・馬謖伝に「謖下レ獄物故。亮為レ之流涕。」という文があり、これが「泣いて馬謖を斬る」の原文とされています。

日本語に訳すと「馬謖は牢屋に入れられて亡くなった。諸葛孔明は馬謖のために涙を流した」という意味です。この原文の前には、諸葛孔明が馬謖を信頼していたことや参謀に抜擢したこと、馬謖に戦で重要なポジションを任せたが、失敗してしまったとことなどが書かれています。

三国志演義

上述のとおり原文とされる三国志では、泣いて馬謖を斬るという表現にはなっていません。 一方、三国志をもとにしたフィクションである「三国志演義」にもこのできことが登場し、そこには「孔明涙を揮(ふる)いて馬謖を斬る」と書かれています。こちらの方が現在のかたちに近いことから、これが変形して「泣いて馬謖を斬る」と言われるようになったと考えられているようです。

十八史略

そのほか、「十八史略」という中国の史書にも、このできことが登場します。ここでは「及敗軍流涕斬之」という一文で書かれており、「軍が負けて、諸葛孔明は泣いて馬謖を斬った」という意味になっています。

  • 泣いて馬謖を斬るの 原文

    「泣いて馬謖を斬る」のもとになったできごとは、多くの書物に登場します

泣いて馬謖を斬るの使い方

泣いて馬謖を斬るの使い方を、例文で紹介していきます。

  • 課長はあの部下のことを息子のようにかわいがっていたのは知っているけど、今回の規則違反に関しては泣いて馬謖を斬るべきところだと思う
  • 全体の秩序を保つため、泣いて馬謖を斬る思いで部下の処分を決めた
  • 泣いて馬謖を斬るの使い方

    上記を参考に泣いて馬謖を斬るという表現を使ってみましょう

泣いて馬謖を斬るの類語

泣いて馬謖を斬るという言葉の意味に近い表現としては、「手加減しない」「情けをかけない」などが挙げられるでしょう。

「手加減」とは、相手の状態などによって扱いを厳しくしないようにすること。「手加減をしない」とすることで、相手の状態などにかかわらず、厳しい扱いをするという意味になり、泣いて馬謖を斬るに近い意味を持つと言えるでしょう。

また、あわれみをかけて助けたり、情を含んだ言葉がけをしたり、可愛がることを「情けをかける」と表現します。その逆である「情けをかけない」は、相手に対する情を持たずに接するという意味です。泣いて馬謖を斬るの言い換え表現としても使えるでしょう。

  • 泣いて馬謖を斬るの類語

    言い換え表現としても使える類語を覚えておきましょう

泣いて馬謖を斬るの対義語

泣いて馬謖を斬るの反対の意味を持つ表現としては、上述の「手加減する」「情けをかける」のほかに「大目に見る」などが挙げられます。大目に見るは、人の失敗や悪いところについて厳しく対処せず、寛大に扱うことです。いずれも、泣いて馬謖を斬るの対義語といえるでしょう。

泣いて馬謖を斬るは中国由来の故事成語

「泣いて馬謖を斬る」は、大切な人であっても私情を挟むことなく、規律通りに処分をするという意味の言葉です。

三国時代の諸葛孔明と馬謖のエピソードをもとにした故事成語のため、歴史好きの人であれば知っている人も多いかもしれませんが、そうでない人にとっては聞き慣れない言葉だったのではないでしょうか。

「三国志」など三国時代の歴史やエピソードについてはファンも多く、関連書籍も多数出版されています。これまで知らなかったけれど本記事で興味を持ったという人は、ぜひ三国時代や諸葛孔明などの歴史についても調べてみてはいかがでしょうか。