「指南」は日常会話ではあまり使われない言葉ですが、ビジネスシーンではよく登場する言葉の一つです。この記事では、「指南」の意味や使い方、「指導」との違い、なぜ「南」が使われているかなどを解説します。
ビジネスシーンで使える例文や言い換え表現も紹介しているので、ぜひ活用してください。
【結論】「指南」とは「教え導くこと」、本来は武術・芸術分野で使われる言葉
「指南」とは、「教え導くこと」「方向や進路を指し示すこと」という意味の言葉です。本来は、武術・芸術・芸能の分野で「教え示すこと」という意味で使用する言葉ですが、現代ではビジネスシーンでも使用されています。
以下で詳しく確認していきましょう。
「指南」とは? 意味・語源を紹介
指南とは「人を教え導く」意味の言葉です。ここでは、意味やよく使われる場面、言葉の由来について解説します。
「指南」の意味
指南には
- 方向、進路などをさし示すこと
- (特に武術や芸能などで)人を教え導くこと
- 教え導く者や役
などの意味があります。文脈に応じて判断し、使い分けていきましょう。
なぜ「南」? 「指南」の語源・由来
なぜ教え導くのに、南なのでしょうか。これは指南という言葉が、もともとは「指南車」(しなんしゃ)という車から生まれた言葉であることに由来しています。
「指南車」とは、馬に引かせる車で、その車の上に取り付けられた人形が常に南を指すように仕掛けられた車を指します。どうして南を向くのかというと、車を引く棒と歯車の組み合わせによって常に一定の方向を向くように設計されていたからです。
現代で言うところの方位磁針にあたる指南車は、道に迷わないよう常に一定の方向を示すことから、指南は「教え導くこと」を意味するようになりました。このような理由から、人に方向性を示したり、教え導いたりする言葉に指南車の「南」が取り入れられるようになりました。
「指南」と「指導」の違いは?
「指南」も「指導」も、どちらも「教え導くこと」という意味ですが、教える内容に違いがあります。「指導」は勉強や仕事、芸術やスポーツなど、広い分野で使用されるのに対し、「指南」は本来、武術・芸術・芸能の分野で使用される言葉です。
現代では、「指南」は「指導」と同じような意味でビジネスシーンでも使用されていますが、本来は使うシーンが異なるということを覚えておきましょう。
「指南」の使い方・例文
先述したように、「指南」は本来、武術・芸術・芸能の分野で使用される言葉でしたが、今ではビジネスシーンでも「指導」と同じ意味で使用されています。
ここでは、「指南」の使い方について例文を挙げてご紹介します。実際に使うイメージをして、正しく使えるようになりましょう。
「ご指南ください」
ご指南は名詞である指南に接頭辞である「ご」が付いた言葉です。尊敬語や丁寧語として用いれます。このご指南という動作に対してお願いをする表現が「ご指南ください」です。
・私に茶道の作法をご指南ください
・企画書の作り方についてご指南ください
「ご指南ありがとう」
相手の方から受けた指南に対してお礼を伝える際に使える表現です。
・これまで8年間のご指南ありがとうございました
「ご指南賜り」
よく見られる表現ですが、これは「ご指南」に「賜り」という謙譲語がついた言葉です。「賜り」は恩恵を得るという意味でよく使われるので、「ご指南」とも組み合わせられることが多いです。
・今後とも変わらぬご指南を賜りますようお願い申し上げます
・長きにわたりご指南賜りまことにありがとうございました
「指南」が使われる言葉
方向、進路などを指し示すことや人を教え導くことなどの意味を持つ指南ですが、日本語にはこの言葉を使った単語がいくつか存在します。言葉の意味とともに、指南が使われる言葉をご紹介します。
指南車
上述のように、指南車は指南の語源になったものです。車の上に人形が置かれていて、車が移動しても人形の手はいつも南の方向を指すように作られたもののことを指南車と呼びます。
指南役
物事を指南する人を指南役と呼びます。教師や先生、師匠、師範などと言い換えられますが、指南が武術や芸能で使われるケースが多いため、師匠、師範のイメージがあります。
指南書
指南書とは、何かの技術を指導する教科書や参考書、手引書を指します。古代でも現代でも「〇〇指南」という名前の指南書が多く作られています。さまざまな分野で教科書や参考書にあたるものを、指南書と名付けて出版されることがあります。
「指南」の類語・言い換え表現
ここでは指南の類義語を、それぞれ指南と似ている点および違う点も含めて解説します。
似たような意味でも、ニュアンスの違いから場面によっては不適切になりえますので実際に使用できる場面も含めて覚えましょう。
指導
指導の意味は「ある目的・方向に向かって教え導くこと」です。指南も教え導くことを指しますが、指南が主に武術や芸能を対象としているのに対し、指導はより広い分野で使用できます。どちらを使うか迷ったら、指導を使うと間違いがないでしょう。
助言
助言の意味は「助けになるような意見や言葉をそばから言ってやること。また、その言葉」です。指南と教える意味では似ていますが、「助」という字が入っているため、単に教えるより「助ける」意味が含まれます。
手ほどき
手ほどきは「学問や技術などの初歩を教えること」を意味します。漢字で「手解き」と書きます。
指南は主に武術や芸能などについて教えることを指しますが、「手ほどき」は初歩の状態のときに教えるという意味で異なります。手ほどきを使用する際は「初歩の場合に使われる」という点を覚えておきましょう。
アドバイス
アドバイスは「忠告や助言をすること。また、その言葉」という意味の言葉です。特に分野や状態を問わず使うことができ、「先輩からアドバイスを受ける」のように使います。
なお、advise(adviceの動詞形)の語源となるラテン語-viseでは、注意深く何度も見る、というイメージがあります。「見る」ということから直接相手に会って忠告するイメージとなります。
「指南」の英語表現
ここでは指南の英語表現をご紹介します。英語でも意味や語源によってニュアンスが異なるので、正しく理解して使えるようになりましょう。
orientation
「orientation」は「方向性」や「方向性を示すこと」という意味で使われます。成り立ちから考えると指南と近いです。よく使われる言葉には、大学の新入生などへの説明会を意味する「オリエンテーション」があります。
lesson
「lesson」には名詞で「(授業で学ぶ内容の)学課、課業」「授業をすること、教授」の意味、動詞で「教える」という意味があります。主に学業において指導することを指し、また教訓の意味も含まれます。
「教え諭すための懲らしめ」「叱責」というニュアンスも含まれる言葉なので、使い方には注意しましょう。
coach
coachには名詞で「コーチ、指導者、家庭教師、指南役」、動詞で「稽古をつける、指導する、家庭教師をする」の意味があります。スポーツで使う機会が多いです。稽古の意味では、指南に近いと言えるでしょう。
teach
teachには「(知識・方法などを)教える、指導する、教示する」という意味があります。また、「思い知らせる」「教訓を持たせる」という意味もあるため、知識や経験を身につけさせることを表したいときに使えます。
指南は知識・方法を身につけさせる意味があるので、近い意味だと言えます。
「指南」を正しく使いましょう
指南は特に武術や芸能を対象としているため、使う場面を選びます。気軽に使うと硬い印象を持たれる傾向にあります。
言葉はニュアンスも含めて正しく使うことが大切なので、判断に迷った場合は、「指導」などより広い場面で使える類義語を使えないか検討しましょう。逆に、武術や芸術の場面で正しく理解し、使うことができると一目置かれるかもしれません。
言葉を正しく使い、適切なコミュニケーションを目指しましょう。