12月29日深夜放送の『JKからやり直すシルバープラン』(テレビ東京系)を最後に2021年の連ドラがすべて終了した。

視聴率では、1月期『天国と地獄 ~サイコな2人』、4月期『ドラゴン桜』、7月期『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』、10月期『日本沈没 -希望のひと-』を放送したTBS日曜劇場の圧勝に終わるなど、ドラマ業界をけん引したのは間違いない。

しかし、録画はもちろん配信視聴も一般化し、営業指標も多様になり、視聴率、とりわけ世帯視聴率の占める重要度はかなり下がっている。今年ドラマ業界で何が起きて、どんな影響が出て、来年につながっていくのか。朝ドラから夜ドラ、深夜ドラマまで、全国放送の連ドラを全て視聴しているドラマ解説者の木村隆志が一年を振り返るべく、“2021年のドラマ業界10大ニュース”を選び、最後に“個人的な年間TOP10”を挙げていく。

10位 深夜ドラマがまさかの停滞、テレ東にも陰りが……

『八月は夜のバッティングセンターで。』出演の仲村トオル

長年ゴールデン・プライム帯の作品が「世帯視聴率の獲得」という使命にとらわれて、刑事・医療・法律の一話完結モノばかりになっていた中、深夜ドラマが自由な作風で名作を連発していた。

その先頭に立っていたのがテレビ東京の「ドラマ24」であり、『勇者ヨシヒコシリーズ』『モテキ』『なぞの転校生』『アオイホノオ』などが誕生。「深夜ドラマと言えばテレ東」というイメージでドラマフリークたちの信頼をつかんだ。

民放他局に加えてNHKも、視聴率、表現の幅、スポンサー配慮などの点で自由度の高い深夜ドラマに注力。深夜ドラマ枠を増やして意欲作を放送してきたが、どうも昨年あたりから雲行きがあやしくなってきた。

その理由は、深夜ドラマに「配信視聴数を稼ぐ」「系列の動画配信サービスに誘客する」という目標が課せられたから。これによってファンたちの視聴で数字が見込めるアイドル俳優を起用した作品が増え、ベタなラブコメや過激なだけの物語が選ばれるケースが目立っている。

もはや「深夜ドラマは面白い」というイメージは風前の灯火だが、唯一気を吐いていたのが、昨年新設されたテレビ東京の「水ドラ25」。『八月は夜のバッティングセンターで。』『東京放置食堂』という独創的な作品を放送して希望を灯している。

9位 コロナ禍をくぐり抜けたドラマ班 “超速”の月9撮影

『ミステリと言う勿れ』出演の菅田将暉

振り返ると昨年はドラマ業界にとって他ジャンルの番組以上に悪夢の一年だった。撮影が中断されて再開の目途が立たず、局を挙げた対策が宙に浮いた状態に。再放送でしのいだが、当然ながら収益は大幅に下がってしまう。

撮影再開後も、徹底的なコロナ感染対策を余儀なくされ、撮影ガイドラインやスケジュールの都合から、クオリティを妥協せざるを得ない作品も。なかには出演者にコロナ感染者が発生して撮影が止まった作品もあり、あの『半沢直樹』(TBS系)も1週分間に合わず緊急生放送で乗り切った。

その点、今年は撮影中断がほとんどなく、「スケジュール的な乱れは少なかった」と言っていいのではないか。コロナ禍は2年目だけに感染予防対策が進み、何より前倒し撮影が積極的に行われるようになったことが大きい。

とりわけフジテレビの月9ドラマは、2~3クール先の作品まで撮影するなど、前倒し撮影を徹底。もちろん俳優のスケジュールなど他の理由もあるが、昨年の反省が生かされていることは確かだ。たとえば来年1月から放送される菅田将暉主演作『ミステリと言う勿れ』は、今春に撮影終了していた。

主要キャストが感染して撮影が止まり、放送中断……だけは避けなければいけないだけに、コロナ禍が終息するまでは、来年もこの傾向は続くだろう。

8位 批判はあっても増える一方 “秋元康ドラマ”の強み

『真犯人フラグ』出演の西島秀俊

秋元康が企画・原作などで関わるドラマはこれまで、2017年の『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系)、2019年の『あなたの番です』(日テレ系)、2020年の単発ドラマ『リモートで殺される』(日テレ系)、『共演NG』(テレ東系)などが放送された。かつてはAKB48グループや坂道グループ絡みのドラマばかりだったが、明らかに作品の幅を広げている。

今年も秋元は、『漂着者』(テレ朝系)、『この初恋はフィクションです』(TBS系)、『じゃない方の彼女』(テレ東系)、『真犯人フラグ』(日テレ系)の企画・原案などを手がけた。そのコンセプトも、ネットバズ、深夜の帯ドラマ、不倫コメディ、2クールミステリーと多彩で、尽きることのないアイディアマンぶりは健在。賛否両論を巻き起こしながら、ネット上の反響を狙った仕掛けを続けている。

ただ、気がかりなのは日テレと組んだときの仕上がり。これまで「二重人格者」「サイコパス」「同性愛のもつれ」などの禁じ手に近い結末や、「続きはHuluで」の営業戦略で不満の声が秋元に向かっていただけに、年末年始をまたいで放送される『真犯人フラグ』の行方が気がかりだ。

2022年もいきなり1月期に『ユーチューバーに娘はやらん!』(テレ東系)、『もしも、イケメンだけの高校があったら』(テレ朝系)の2作を仕掛けるなど、しばらくは深夜帯を中心にその企画力を発揮し、ネット上をにぎわせるだろう。

7位 『ドクターX』『緊取』『ラジハ』『朝顔』続編モノに勢いなし

『ドクターX~外科医・大門未知子~』出演の米倉涼子

2年ぶりに放送された『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレ朝系)は世帯視聴率こそ獲得したが、話題性とコア視聴率(13~49歳)の点では今一歩。とりわけ人気と愛着のバロメーターであるネット上の反響は少なく、ネットニュースの本数は秋ドラマで10番手前後に留まった。

つまり、リアルタイムでサラッと見るにはいいが、「毎週楽しみに見る」「録画してじっくり見る」というコンテンツではないのだろう。もちろんそれでも存在意義は十分あるのだが、連ドラというより『相棒』『科捜研の女』(テレ朝系)などと同じラインの作品群に吸収された感は否めない。

それは『緊急取調室』(テレビ朝日系)、『ラジエーションハウス ~放射線科の診断レポート~』『監察医 朝顔』(フジ系)にも該当する。いずれも世帯視聴率こそ2ケタ超えで安定していたが、年齢・嗜好など視聴者層の属性という点では「合格点」とはいかないようだ。

やはり刑事・医療のジャンルは、よほど革新的なコンセプトにしない限り、スポンサーを喜ばせる視聴者層を引きつけることは難しい。いまだにネットメディアの多くは世帯視聴率を掲げて「好調」「低迷」などと決めつけ、「三冠争い」の行方を報じているが、ここで挙げた作品の立ち位置がその危うさを物語っている。

6位 ラブコメブームは続行、癒し狙いのピュア路線が加速か

『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』出演の杉咲花

昨年の下半期は視聴率調査のリニューアルを受けて、若年層狙いのラブコメが大増殖。1年前の秋ドラマでは、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日テレ系)、『この恋あたためますか』(TBS系)、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系)、『恋する母たち』(TBS系)、『ルパンの娘』(フジ系)、『共演NG』の5作が放送された。

今年もその流れは続き、プライム帯だけで『オー!マイ・ボス! 恋は別冊で』(TBS系)、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日テレ系)、『知ってるワイフ』(フジ系)、『着飾る恋には理由があって』(TBS系)、『恋はDeepに』(日テレ系)、『レンアイ漫画家』(フジ系)、『リコカツ』(TBS系)、『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジ系)、『プロミス・シンデレラ』(TBS系)、『推しの王子様』(フジ系)、『ボクの殺意が恋をした』(日テレ系)、『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)、『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』(日テレ系)が放送。

そのほぼすべてがハッピーエンドであり、「ヒロインの幸せな姿を見届けたい」「悲しい結末だけはやめてほしい」という視聴者の声に応える形が徹底されていた。そのシンボルと言えるのが秋に放送された『恋です!』。登場人物はどこまでもピュアでほほえましく、相手を思い合い一歩一歩距離を縮めていく姿は、コロナ禍の重苦しいムードを引きずる人々を癒した。

ラブコメが各クール3作以上放送されるのが当たり前になり、来年も『恋です!』の成功を受けてピュアなラブストーリーが支持を集めるのではないか。ただ、だからこそ刺激的な大人のラブストーリーや衝撃の結末などが、希少性の高さから大きな評価を得るチャンスとも言えるだろう。