近年、にわかに「サステナビリティ」という言葉を聞く機会が増えた。英語で「持続可能な」という意味だが、もはや“日本語”として通じるようになりつつある。

地球社会を維持するためにサステナビリティが不可欠であるのは間違いないが、日本では「サステナビリティ」が一種の流行語になっていて、企業が発信するサステナビリティは、「外部向けのPR」としての側面があることは否めない。

そんな中、本腰を入れてサステナビリティに取り組んでいるのが、130年以上の歴史をもつ帝国ホテルだ。

2021年12月13日、帝国ホテル 東京は「食のサステナビリティフォーラム ~ラグジュアリー×サステナビリティ両立への挑戦~」を開催した。帝国ホテル 東京総支配人 金尾幸生氏の冒頭あいさつの後、東京料理長の杉本雄シェフが登壇。食の「ラグジュアリー×サステナビリティ」について語ったのち、ラグジュアリーブランドの専門家である中野香織氏との対談も行われた。

  • 帝国ホテル 東京 東京料理長の杉本雄シェフが食の「ラグジュアリー×サステナビリティ」についてプレゼンを行った

「革新」とともに歴史を育んできた帝国ホテル

帝国ホテルの初代会長・渋沢栄一の信念は「経済と道徳」。「企業は利益の追求だけでなく、社会の公益にも努めるべし」という理念を掲げ、帝国ホテルはそれに基づき、時代に合わせた新しいサービスを提案してきた。

帝国ホテルは、日本の近代化に伴い1890年に開業。日本屈指の歴史を誇るホテルだけに「伝統」のイメージが強いが、実はその歴史は「革新」でもあった。

1923年、帝国ホテル 東京の2代目本館の開業当日、関東大震災が襲う。開業を延期しながら、公共・公益の精神のもと、関東大震災の被災者を受け入れる。さらに同年、震災で寺社が破壊されたことで予定していた結婚式ができなくなった人々のために、ホテル内で挙式と披露宴をセットで行うホテルウェディングサービスを開始。これが日本におけるホテルウェディングの先駆けとなった。

ほかにも、ランドリーサービスやバイキング、ディナーショーなど、帝国ホテルには日本初の取り組みが多数存在する。

目指すは「ラグジュアリーとサステナビリティの両立」

開業以来、迎賓館としてフランス料理を中心とした食を提供してきた帝国ホテル。東京料理長の杉本シェフが、帝国ホテルの食の歩むべき道として掲げるのが「ラグジュアリーとサステナビリティの両立」だ。豪華な非日常を演出する「ラグジュアリー」と、道徳的な概念である「サステナビリティ」は、一見相反するようでもある。だが、食を通してこれらを両立させることが、いま帝国ホテルに求められている課題なのだという。

本来、フランス料理の精神とは、食材の恵みを最大限に生かし、無駄なく使いきること。フランス料理においては、肉でも魚でも、身の部分はグリルやソテーにし、副産物としての頭やスジといった部位からはブイヨンをとる。さらに、ブイヨンを凝縮してソースを作り、身とソースを一皿の中に構成していく。つまり、フランス料理は、「ひとつの食材を余すところなく使い切る」という考え方のもとに成り立っている料理なのだと杉本シェフは説く。

食を通じてラグジュアリーとサステナビリティを両立することは、こうしたフランス料理の精神を新たな段階に引き上げることにもつながるのではないだろうか。

食を通した帝国ホテルのSGDsへの取り組み

  • 小学生を対象とした食育

帝国ホテルでは、SDGsの17の項目のうち、11項目の達成を目標にしている。食の分野では「質の高い教育をみんなに」「人や国の不平等をなくそう」「つくる責任・つかう責任」という3項目にフォーカスし、小学生を対象とした食育セミナーや、レインフォレストコーヒー・フェアトレードチョコレートの導入など、さまざまな取り組みを行っている。

  • オーダーバイキングのタブレット端末

ユニークなところでは、バイキングにタブレット端末を使ったオーダー方式を導入。それによって、食品ロスを削減している。

  • ジャガイモの皮を使った「サステナブルソルト」

また、葉物野菜の外側の硬い部分や、根菜の皮などをパウダー状にして塩を混ぜ、フレーバーソルトに加工するという試みも開始している。ジャガイモの皮を使ったフレーバーソルトはすでに「サステナブルソルト」として商品化されており、売上の一部は海洋保全のために寄付しているそうだ。

「サステナビリティ×ラグジュアリー」の実現に向けた次なる挑戦

杉本シェフは語る。「いま、一歩を踏み出すことが重要。いま一歩を踏み出さなければ何年経っても二歩目はない。フランス料理を中心として営んできた帝国ホテルだからこそ、発信すべきこと・発信できることがあると思う」。

  • 余ったパン生地から作ったフレンチトースト

「サステナビリティ×ラグジュアリー」を実現するための次なる挑戦として、食べられるはずのものを廃棄せず、アレンジやテクニックを加え新しいものを生み出す「リサイクリング・エコノミー」、本来のフランス料理の考え方のようにムダや廃棄物を出さない調理法やレシピを開発するなどの「サーキュラーエコノミー」を両輪としてフランス料理を発信していくという。

杉本シェフは、「我々には、フランス料理のソースがもつ本質はぶらさずに、時代に合ったフランス料理を創り上げていく責任がある。東京だけにとどまらず、帝国ホテル全体で食を通してラグジュアリーとサステナブルの両立に努めていく」と力強く宣言した。

会場では、ジャガイモの皮をじっくりローストして、香りと味を移したゼリーに包まれたポテトサラダが振る舞われた。フライにしたジャガイモの皮がトッピングされ、スプーンの上にはジャガイモの皮から作られたサステナブルソルトが添えられている。

「サステナビリティ」は「ラクジュアリー」の一部

  • 左:帝国ホテル第14代東京料理長 杉本雄氏、右:中野香織氏

杉本シェフによるプレゼンテーションの後は、ラグジュアリーブランドの専門家である服飾史家・中野香織氏とのトークセッションも行われた。

「ラグジュアリーというのは、コストに付加価値を付けて、その付加価値にどれだけ人々が納得してお金を払うかがポイントになる」と中野氏。人間は古代からラグジュアリーを必要としており、時代によってラグジュアリーはまったく異なるものに変化してきたという。

中野氏にいわせれば、よくある「ラグジュアリー=贅沢」という発想はふた昔前の考え方なのだそうだ。いま、「ラグジュアリー」という概念は大きく変化する過渡期にある。現代において、ラグジュアリーとサステナビリティは相反する概念ではなく、むしろ「サステナビリティはラグジュアリーに含まれる」ことを前提にすべきだという。

「言ってみれば、料理の世界で評価されているラグジュアリーのあり方は、希少性や非日常性、特権性といった“カトリック的”なラグジュアリー。いまはもっと“プロテスタント的”で、もっと包摂性があり、もっと日常的な小さな幸せを求めていくものへとラクジュアリーが変化しつつある」と中野氏。

これからの時代は「想い」や「ストーリー」こそが付加価値に

料理の世界同様、「天然信仰」をはじめ、ファッション業界にもさまざまな固定概念や因習が存在してきた。一方で、新たなチャレンジが革命を起こし、新時代を拓いた例もいくらでもある。

有名なところでは、1920年代にファッション革命を起こしたココ・シャネルは、コスチュームジュエリー(本物の貴金属とアクリルのイミテーションをミックスしたもの)を打ち出すことでアクセサリーの可能性を広げた。

「そういった観点で料理を考えていくと、いままで当たり前だと思っていたフランス料理の考え方が変わっていく。おいしいとされるフランス料理の味を追求するところは変えずに、これからは生産者の想いや、食卓にのぼるまでのストーリーを含めて味わうことが付加価値になっていくのではないか」と杉本シェフ。

「ラグジュアリー」と聞くと、派手できらびやかな高級ホテルや、高級食材ばかりを使った豪華なディナーなどを想像がちだが、もはやそのような時代は終わりつつある。これからは表面的な豪華さよりも、地球環境や生産者の尊厳への配慮や、作り手の「想い」、私たちの手元に届くまでの「ストーリー」がますます重視されるようになる。

帝国ホテルと杉本シェフが私たちにどのような「想い」や「ストーリー」を届けてくれるのか、今後に期待したい。