スバルは「WRX S4」のモデルチェンジに合わせて「レヴォーグ」のマイナーチェンジを実施し、高性能版の「STIスポーツR」を追加した。この「R」、世界的に見てもコストパフォーマンスの高いスポーツワゴンだと思うのだが、その理由をデータを使いながら説明したい。プロトタイプにサーキットで乗った印象もお伝えしよう。

  • スバル「レヴォーグ」

    11月25日のマイナーチェンジで追加となった「レヴォーグ」の高性能バージョン「STI Sport R」

際立つコストパフォーマンス

STIスポーツR最大の特徴は、水平対向4気筒エンジンの排気量が増加していること。既存のSTIスポーツが1.8リッターターボであるのに対し、STIスポーツRは2.4リッターターボとなっている。先代レヴォーグのエンジンは、1.6リッターターボと2リッターターボの2本立てだった。モデルチェンジに伴い、どちらも排気量がアップしたことになる。

  • スバル「レヴォーグ」

    「レヴォーグ」の「STIスポーツR」が搭載する2.4リッターの水平対向4気筒ターボエンジン

この2.4リッターエンジンは新型「WRX S4」と同じもので、最高出力202kW、最大トルク375Nmの動力性能も一緒だ。1.8リッターターボと比べると72kW/75Nmのアップになる。車両重量は1,580kgから1,630kgに増えている。

これもWRX S4と共通だが、先代が搭載していた2リッターターボの221kW/400Nmと比べると、環境性能などに配慮し、出力・トルクともに控えめになっている。

STIスポーツRの価格は438.9~477.4万円で、1.8リッターターボのSTIスポーツと比べると50万円以上高い。もう少しで500万円に手が届く上級仕様の値段を見て、「レヴォーグも高くなったなぁ」と思う人もいるだろう。ただし、同レベルの性能を持つスポーツワゴン同士で比べれば、かなりコストパフォーマンスの高い車種であることも確かである。

日本車には、そもそもレヴォーグのライバルは少ない。ステーションワゴンそのものが数えるほどしかないためで、車格で近いのは「マツダ6」のワゴンくらい。ボディサイズはマツダ6がやや大きいが、これはグローバルモデルだからだ。国内市場を念頭に置いて開発したレヴォーグとの違いが現れている。

マツダ6ワゴンのエンジンはすべて直列4気筒で、ガソリンが2リッターと2.5リッターの自然吸気および2.5リッターターボ、ディーゼルが2.2リッターターボとなる。キャラクター的に近いのは2.5リッターガソリンターボだろう。

そこで最高出力と最大トルクの数字を出すと、マツダ6は160kW/420Nmで最大トルクはレヴォーグを上回るものの、最高出力はかなり控えめだ。しかも、ガソリン車は前輪駆動のみ。レヴォーグと同じAWDはディーゼル車でなければ選べない。

感覚的な表現になってしまうが、自動車のエンジンでいうと、出力は回転を上げていく力、トルクは車体を押し出す力という違いがある。実際に乗っても、この2つのガソリンターボはキャラクターが明らかに違っている。その証拠に、最高出力の発生回転数はレヴォーグが5,600rpm、マツダ6ワゴンが4,250rpmと大きく異なる。

スポーツドライビングにふさわしいのは圧倒的にレヴォーグであり、ライバルとして比較する人は少ないのではないかと思っている。

性能はプレミアムブランドに匹敵?

欧州車で同クラスのワゴンを探すと、フォルクスワーゲンに「パサート ヴァリアント」、プジョーに「508SW」というクルマがある。どちらも前輪駆動のみであるが、パサートにはガソリン車とディーゼル車があり、508ではプラグインハイブリッド(PHEV)も選べる。

低回転大トルクが持ち味のディーゼル車はキャラクター的に違うので、ここではガソリン車で比較してみると、パサート ヴァリアントTSIが1.5リッターターボで110kW、508SW GTは1.6リッターターボで133kWと、いずれもレヴォーグなら1.8リッターのレベルだ。

  • 右が「パサート ヴァリアント」

    右が「パサート ヴァリアント」

508SWのPHEVはエンジン133kW、モーター81kWだが、他の多くのハイブリッド車同様、双方の最高出力が同時に発揮されることは制御上なく、システム最高出力は約165kWに留まるし、価格は633.6万円とかなり開きが出てきてしまう。

同じ輸入車のプレミアムブランドに目を移すと、スバルと同じくAWDの経験が長いアウディには「A4 アバント」があり、ステーションワゴンが人気のボルボでは「V60」あたりと比較できそうだ。しかし、ガソリン車で見ていくと、A4アバントの45TFSIクワトロは183kW、V60B5インスクリプションおよびRラインは184kWで、レヴォーグSTIスポーツRには及ばない。それに、価格はどちらも600万円を超えている。

  • アウディ「A4アバント」

    アウディ「A4アバント」

性能面でレヴォーグに匹敵する車種を探すと、アウディでは高性能版「S4 アバント」、ボルボV60ではリチャージプラグインハイブリッドのT6AWDになる。前者は3リッターV型6気筒ターボで260kWを発生し、後者はエンジン186kW、前モーター34kW、後モーター65kWとなっている。

ただし価格はV60が684~799万円、 S4に至っては939万円と1,000万円近くになる。とても比較の対象にはならないだろう。

しかもスバルは、初代「レガシィ・ツーリングワゴン」の時代から高性能ターボエンジンを搭載したGTモデルを設定しており、スポーツワゴンの分野で30年以上にわたる歴史を持つ。こうしたキャリアを含めて考えれば、よりコストパフォーマンスの高さが感じられるのだ。

スポーツ性を極めてもワゴンらしさは失わない

STIスポーツRのデザインは、エクステリアもインテリアも、1.8リッターターボのSTIスポーツとほとんど変わらない。STIとしての統一感を重視したものと思われる。しかし、プロトタイプにサーキットで乗ってみると、違いは明らかだった。

最初に感じたのは、やはり力の余裕。WRXの記事でも書いたように、力強いだけでなく、ターボの立ち上がりが穏やかになり、アクセルペダルに対する反応が回転数を問わずリニアになった。

「スバル・パフォーマンス・トランスミッション」(SPT)と呼ばれるスポーツ性を高めたCVTとの組み合わせで小気味よい走りが体感できるだけでなく、グランドツーリングに余裕をもたらすという面でもプラスになりそうだ。

サーキットのみでの試乗だったので、乗り心地については断定できるわけではないが、WRX S4ほど固くはなく、レヴォーグのキャラクターに沿ったチューニングだと感じた。タイヤサイズが1.8リッターのSTIスポーツと同じ225/45R18であることからも、WRX S4との方向性の違いを感じる。

  • スバル「レヴォーグ」

    「レヴォーグ」の「STIスポーツ」シリーズが装着する225/45R18のタイヤ

ハンドリングではまず、AWDシステムについて触れておきたい。ほかの現行レヴォーグがアクティブトルクスプリット式を使っているのに対し、STIスポーツRはWRX S4と同じセンターデフを採用し、前後トルク配分をリア寄りとしたVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を採用しているからだ。

実は先代レヴォーグも、1.6リッターはアクティブトルクスプリット式、2リッターはVTD式とAWDシステムを使い分けていた。スバルがレヴォーグの高性能グレードを特別な存在として考えていることが伝わってくる。

ただし、身のこなしはWRX S4より穏やかだ。トレッドやタイヤサイズの違いもあり、コーナーでの踏ん張り感は WRX S4が一枚上手だが、公道でスポーツ走行する範囲では十分以上の性能だと思った。

むしろ、全幅を1,795mmに留めるなど、日本の道での実用性に配慮し、派手な演出を抑えたワゴンボディとの組み合わせに価値があると感じた。WRX S4と同じエンジンやAWDシステムを持つレヴォーグの「R」であるが、ワゴンとしての立ち位置はしっかり堅持していた。