羽生九段は大きな勝利もいまだ厳しい状況

渡辺明名人への挑戦権を争う第80期順位戦(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)、12月15日にはA級の斎藤慎太郎八段(5勝0敗)―佐藤天彦九段(3勝2敗)戦と、羽生善治九段(1勝4敗)―山崎隆之八段(1勝4敗)戦が関西将棋会館で行われました。

■斎藤八段は受けの好手順で先手の攻めを余して全勝をキープ

斎藤―佐藤戦は佐藤九段の先手番で、矢倉から斎藤八段が急戦を仕掛けました。押し引きの難しい中盤戦が続き、夜戦に突入したあたりで双方がと金を作り合います。後手のと金のほうが先手玉に近いのですが、後手には歩切れというマイナス点もあり、ここでの形勢は何とも言えません。

終盤戦に突入してからはお互いに妥協なき手順で相手玉に迫り、どちらの攻めが速いかという勝負になりました。玉頭に圧力を掛ける▲6四銀で後手玉に詰めろが掛かりましたが、△4一玉▲5三銀成△3三角と退路を確保して、ここで斎藤八段が一歩抜け出したようです。対して先手陣はまだ詰む形ではありませんが、受けが利かない形です。佐藤九段はなおも後手玉に迫りますが、最後はきっちり見切ってから反撃に出た斎藤八段が86手で勝利しました。これで斎藤八段は6連勝、残る3局で2勝すれば文句なしの挑戦で、1勝でもプレーオフ以上は決まりました。連続挑戦へ向けて大きな前進です。

■頑強な受けで虎口を脱した羽生九段が大きな白星

羽生―山崎戦は羽生九段の先手番で、こちらも矢倉模様に進みました。序盤からお互いが長考を繰り返し、一局の重みが伝わってきます。中盤で山崎八段が突いた△4五歩が面白い一着。▲同銀でタダのようですが、4筋の歩がなくなったため△4一飛と回る手が効果的になりました。対して銀を引くのは△4四銀と上がる手が好調なので、先手は▲4六歩と裏から銀を支えます。ここから△2四銀▲2五歩△3五銀▲5六金△1三角と、4六の地点を巡る攻防が続きます。この攻防を制したのは後手で、のちに△4七飛成と4筋の突破に成功し、優位に立ちました。先手の玉頭には竜の横利きの他、2枚の歩も垂れており、いかにも危険です。しかしさすが百戦錬磨の羽生九段と言うべきでしょうか。▲5七金打という頑強な受けで抵抗し、以下の順で竜と金との交換となったので逆転模様です。

最後には▲2四飛と走ったのが決め手で、△7八角成▲9八玉と土俵際に押し込まれていかにも危険ですが、後手には最後の一押しがありません。彼我の玉の危険度を見切った羽生九段が115手で勝利し、リーグ成績を2勝4敗としました。羽生九段と山崎八段以外に4敗している棋士がいないので、まだまだ厳しい状況ですが、残り3局を全部勝っての5勝4敗なら文句なしで残留が決まります。順位戦もいよいよ大詰めですが、挑戦と残留、それぞれをかけて戦う残る対局に注目です。

相崎修司(将棋情報局)

2年連続の名人挑戦に向けて大きな勝利を上げた斎藤慎太郎八段(写真は名人戦第1局のもの。提供:日本将棋連盟)
2年連続の名人挑戦に向けて大きな勝利を上げた斎藤慎太郎八段(写真は名人戦第1局のもの。提供:日本将棋連盟)