攻防手の封じ手から、一気に藤井玉を攻め倒す

第42回将棋日本シリーズJTプロ公式戦(協賛・日本たばこ産業株式会社)の決勝、▲豊島将之JT杯覇者―△藤井聡太竜王戦が11月21日に千葉県千葉市の「幕張メッセ」で行われました。結果は95手で豊島JT杯覇者が勝ち、昨年に続く2連覇を達成しました。

本局は豊島JT杯覇者の先手番で角換わりに。早指しの公開対局ではありますが、お互いがテンポよく指し進め、早い段階で戦いが始まります。将棋日本シリーズには封じ手がありますが、豊島JT杯覇者が53手目を封じました。藤井竜王の決断よい踏み込みに対して、先手がどのような順で応じるかという局面です。

■攻防の封じ手

開封された封じ手は▲6五角。先手陣を直射する後手の飛車を牽制しつつ、後手陣にもにらみを利かせる攻防手です。以下△7一飛▲7二歩と豊島JT杯覇者は後手の飛車を押さえ込みにかかりました。対して△同飛は▲8三角成と味よく角を成り込めます。藤井竜王は△3一飛と逃がしました。単に飛車をかわすだけではなく、角ににらまれている3二の金を補強する一手です。代えて△2一飛と2筋を守るように逃がす順も局後に両者の間で検討されましたが、比較は難しいようです。

■厳しい取り込みでペースを握る

手番を握った豊島JT杯覇者は攻め続けます。藤井竜王の反撃手である△8八歩を見向きもしない▲4四歩が厳しい取り込みで、ここで藤井竜王は自身の劣勢を意識しました。△8九歩成と、と金を作ることには成功しましたが、まだ先手玉にはそれほどの響きがなく、▲4三銀と玉の直上から一気に攻め込まれる順が激痛です。豊島JT杯覇者は75手目▲3三竜の局面を「後手玉が詰めろなので、ここで読み抜けがなければ勝ちと思いました」と振り返っています。

■一矢報いる優勝

こうなれば藤井竜王は先手玉を詰ますしかありません。豊富な持ち駒に物を言わせて先手玉へ王手王手の連続で迫ります。藤井竜王の王手ラッシュを正しくかわせる人間がどれだけいるか。いや、正しくかわしてもひょっとしたら詰まされるかもしれません。しかしさすがは豊島JT杯覇者、きちんと自玉の安全を見切って逃げ切りました。豊島JT杯覇者は2連覇達成。通算では3度目の日本シリーズ優勝です。今年は叡王戦、王位戦、竜王戦と藤井竜王を相手の苦闘が連続しましたが、ここで一矢報いた格好です。「藤井竜王との差を埋めるためにも、実力をつけていかねばいけない。いい形で終わることが出来たので、今後につなげていければ思います。あきらめない姿勢を示すことが出来たのはよかったです」と終局後の記者会見で語りました。

2021年における両者の対戦はこれで最後となります。1年を通してトータルでは17局ありました。来年は果たしてどれだけ両者の対戦が行われるのでしょうか。

相崎修司(将棋情報局)

公開対局の壇上で雌雄を決する豊島JT杯覇者(左)と藤井竜王(写真:相崎修司)
公開対局の壇上で雌雄を決する豊島JT杯覇者(左)と藤井竜王(写真:相崎修司)