日本の国民病とさえいわれるなか、メンタルの健康を守るためには、正しいストレスとの向き合い方を身に付けることが必須です。

洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの所長として、多くの方のメンタルヘルスケアに携わってきた伊藤絵美さんに話をうかがいました。

■ストレスを感じている自分に気付く。それがメンタルケアの第一歩

一口に「ストレス」と言っても、原因も症状も人それぞれ。なかには、自分がストレス状態にあることに気付いていない人や、気付いていても自覚すると余計につらいので「なかったこと」にする人もいます。

でも、どんな不調も原因がわからなければ正しい対処はできません。まずは自分がストレス状態にあること、ストレスの原因は何か、どういう反応が起きているのかを知ることが、メンタルヘルスケアでは重要です。

まず、自分の心身のコンディションを知るために、「苦しい」「しあわせ」を0~100で数値化してみてください (図1参照)。心の内側を目に見える形にすることで自分を客観視しやすくします。「苦しい」の数値が高い場合は、何らかのストレスがあるはずです。あなたをつらくさせているものは何か、自分の中をチェックしていきましょう。

  • 「苦しい」の数値を下げるだけでなく、「しあわせ」の数値を高めることがメンタルケアでは大切です。

■何がストレスになるか、どんな反応が起きるかは千差万別

心理学ではストレスを「ストレッサー」と「ストレス反応」の2つに分けて捉えます。「ストレッサー」は心身にふりかかってくる外側からの刺激、「ストレス反応」はストレッサーに対する心身の反応になります。図1で「苦しい」の数値が高かった人は、図2のようにストレッサーとストレス反応を書き出していきましょう。

紙などにこのように書き出す作業のことを心理学では「外在化」と言いますが、外在化によって少しは心がスッキリするはずです。この時、気を付けてほしいのが、決して「この程度でつらいと思うなんて」とか「自分のがんばりが足りないせいだ」とか、自己否定をしたり我慢しようとしたりしないこと。「私、つらいんだな」と、自分を労わる視点を持つようにしてください。

生きていく上でストレスが無くなることは決してありません。しかも、何がストレッサーになるか、どんなストレス反応が起きるかは人によって異なり、たとえば、人前で話すのが苦手で胃が痛くなる人もいれば、好きでワクワクする人もいます。ストレスは他人から見えにくく、理解されにくいのです。

「ストレス解消」なんていう言葉もありますが、ストレスが消えてなくなるのは寿命が尽きた時。ストレスと共存せざるを得ない以上、自分で自分をケアする姿勢は生きていく上で必須です。

  • ストレッサーもストレス反応も人によってさまざま。何がストレスになっているのか他人からはわかりにくいため、自分で気付くことが大切です。

■セルフケアで大切なのは、心までひとりぼっちにしないこと

「自分で自分をケアする」と聞くと、「自分1人で自分を助けなければならないの?」と思うかもしれません。正しくは、「自分で自分の助け方を知っておく」ということ。メンタルが弱っている時、人は孤独に陥りがちですから、自分1人で何とかしようとするなんてむしろ逆効果。セルフケアのためには、自分の心までひとりぼっちにしないようにすることが大切です。

具体的な方法としては、親しい人から顔見知り程度の人まで、自分に関わる存在を書き出した「サポートネットワーク」を作成します(図3参照)。ペットでもいいし、ぬいぐるみでもいいし、実在の人物でなくてもかまいません。

たとえば、もうこの世にいないおばあちゃん、好きな漫画やアニメのキャラクター、会ったこともない憧れの有名人でも大丈夫。姿を思い浮かべたり、会話を想像してみたりするだけで、「自分はひとりぼっちじゃない」と感じられると思います。

ストレスで心身の不調と言うと、一昔前なら「そんなことで弱音を吐くな」と叱責されたかもしれません。でも、私たちはもともと弱いのです。どんな人でも些細な出来事がきっかけで心身の不調に陥る可能性があります。自分の弱さを認め、受け入れ、そういう自分を大事にして生きていく。それが、現代におけるストレスとの正しいつきあい方です。

  • サポートネットワークを持ち歩き、折に触れて眺めるようにすれば、「自分は1人じゃない」と思えるはず。相談できそうな専門家や機関も調べて書いておくと、いざという時に心強いです。