マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米FRBの利上げについて解説していただきます。


11月30日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が上院銀行委員会で証言を行いました。昨年来、世界を席巻している新型コロナウイルスに関する公聴会において、金融政策の対応を説明したものです。

「高インフレは一時的」ではない

とりわけ注目されたのが、足もとの物価動向に対する議長の判断でした。議長は、「需要と供給の不均衡が解消されれば、来年はインフレ率が大幅に低下すると予想される」としつつも、「サプライチェーン障害の継続期間と影響は予測が難しいが、インフレ圧力は来年に入ってもしばらく続くようにみえる」と付け加えました。そのうえで、「『一時的』との言葉を取り下げるのによい時期だ」と述べました。

「(高インフレは)一時的」は、FRBのみならず主要な中央銀行が、足もとの物価動向を表現する際に必ずと言っていいほど使っていた形容詞です。それを取り下げたということは、金融政策によるインフレ対応が必要だと語っているに等しいでしょう。

テーパリングを前倒しへ

上述の議会証言で、テーパリングの期間について質問され、パウエル議長は「(テーパリングを)数カ月早めることは適切だ」と述べました。テーパリングとは現在実施している量的緩和(国債や住宅ローン担保証券の購入)を段階的に縮小して完了させることです。FRBは11月のFOMC(連邦公開市場委員会)でテーパリングの開始を決定しました。毎月1,200億ドルの購入を毎月150億ドルずつ縮小し、順調に行けば22年半ばに完了する見通しでした。

例えば、縮小ペースを2倍(毎月300億ドルずつ)にすれば、22年3月ごろにはテーパリングが完了します。テーパリングのタイミングが重要なのは、次の段階として利上げがあるからです。そして、FRB内部ではテーパリングが完了してから利上げを開始することがコンセンサスになっているようです。

利上げには厳しい条件も

一方で、FRBは、利上げ開始には雇用や物価に関する厳しい条件をクリアする必要があり、テーパリングのタイミングと利上げは直接関係ないとの見解を表明しています。つまり、テーパリングの完了は利上げ開始の必要条件だが、十分条件ではないということでしょう。12月2日の講演で、アトランタ連銀のボスティック総裁は、「必要となった場合に備えて、利上げを前倒しできる柔軟性を確保すべきだ」として、テーパリングの前倒しを支持しました。おそらく、それがFRB内部の有力な考え方でしょう。

金融市場は利上げ予想に前のめり

リーマンショック後の量的緩和第3弾のテーパリングは14年1月に始まり、同年10月に完了しました。そして、利上げが開始されたのはそれから14カ月後の15年12月でした。2回目の利上げはさらに12カ月後でした。もっとも、当時と現在ではインフレの状況が大きく異なります。当時の金融政策の正常化は、インフレ率がFRBの目標である2%に届かないなかで実施されました。一方、足もとのインフレ率は2%を大きく上回っています。物価を押し上げかねないサプライチェーン障害や労働力不足は続いており、金融市場では利上げ観測が強まりやすい状況です。

CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のFedWatchは、政策金利先物に基づいて金融市場が織り込んでいるFRBの利上げ確率を算出するものです。FedWatchによれば、12月1日時点で、22年6月のFOMCまでに利上げが開始される確率は50%を超えています。そして、同9月のFOMCまでに2回目の利上げがある確率が50%を超えています。つまり、22年前半中に利上げが開始され、同年末までにさらに1回以上の利上げがあるとの見方が有力だということです。

  • FOMC「ドット・プロット」

  • 米FOMCの利上げ確率(12月1日時点)

注目される12月14-15日のFOMC

次回12月14-15日のFOMCでは、参加者各個人の政策金利見通し、いわゆる「ドット・プロット」が3カ月ぶりに公表されます。9月時点では、参加者18人中9人が22年中の利上げを予想し(6人が1回、3人が2回)、残り9人が据え置きを予想しました。

最新の「ドット・プロット」ではどれだけの参加者が利上げに積極的になっているでしょうか。

テーパリングの前倒しはあるか、最新の「ドット・プロット」はどう変わったか、そして利上げに関して何らかのメッセージが発信されるか。12月14—15日のFOMCはたいへん興味深いものになりそうです。