スバルがスポーツセダン「WRX S4」のモデルチェンジを実施する。発表を前にサーキットでプロトタイプの試乗会が行われたので、開発を担当したエンジニアの言葉を紹介しながら、メカニズムの解説と走りの印象をお届けしよう。
2.4リッターになった理由は
「WRX S4」といえば、スバルの走りの楽しさを象徴する車種だ。もともとは「インプレッサ」の高性能版という位置づけだったが、プラットフォームやパワートレインをスポーツワゴンの「レヴォーグ」と共用とすることで、先代から独立した車種になった。
つまり、今回がWRX S4としては初のモデルチェンジということになる。デザインについては別の記事で取り上げる予定なので、メカニズムについて解説していくとともに、プロトタイプのインプレッションをお届けしよう。
新型でまず注目したいのは、従来は2.0リッターだった水平対向4気筒ターボエンジンの排気量が2.4リッターになったこと。同時に、レヴォーグにも同じエンジンが追加されることになった。
日本市場には初登場となるこのエンジンは、北米向けでは前にあった3.6リッター水平対向6気筒の置き換えとして「レガシィ アウトバック」などに積まれていたもので、使用燃料をレギュラーからハイオクに変えるとともに、ターボのバルブを電子制御化するなどの改良を施している。
気になる最高出力は202kW、最大トルクは375Nm。先代の2.0リッターターボの221kW/400Nmと比べると、排気量が増えたにもかかわらずどちらも低下している。パワートレインの開発を担当したスバル 技術本部 車両開発統括部 主査の中島良太氏によると、環境性能など、他の性能に配慮した結果だという。
その中には軽量化も含まれる。パワーやトルクを追求すると、エンジンの強化が必要になり、重量増加につながる。燃費の悪化だけでなく、加速やハンドリングなど、走りにも影響を及ぼす。よって、性能をほどほどに抑えたとのこと。その結果、排気量は拡大しているのに、エンジン重量はわずか2kgではあるが軽くなっているそうだ。
環境性能向上ではこれ以外に、燃焼効率向上や摩擦抵抗の低減、アイドリングストップの導入なども実施している。
スポーツ性の高いAWDを採用
トランスミッションは北米向けにはMTもあるが、日本向けはCVTのみ。ただし新型では、スポーツ走行に照準を定めた設計を取り入れており、「スバル・パフォーマンス・トランスミッション」(SPT)という新しい名前を与えている。CVTという言葉から想像するリニアリティの低さを解消しているようだ。
駆動方式はもちろん全車AWDだ。といっても「インプレッサ」や「フォレスター」などが採用するアクティブトルクスプリットAWDとは異なる「VTD-AWD」(不等&可変トルク配分電子制御AWD)を使っている。
前者は前60:後40のトルク配分とした電子制御油圧多板クラッチを使うのに対し、後者はセンターデフによってトルクを前45:後55に配分するという違いがある。どちらも走行状況に合わせて配分を可変制御するが、VTD-AWDは後輪により大きなトルクを分配するという特徴がある。
悪路や雪道などで強みを発揮するアクティブトルクスプリットとは対照的に、VTDはスポーツ走行のために生み出されたシステムであり、先代に続いてWRX S4に搭載したのは納得できる。
テストコースで行われたプロトタイプの試乗会では先代との乗り比べができたので、違いがよくわかった。新型には「GT-H」と「STIスポーツR」の2グレードがあり、それぞれに装備を充実させた「EX」仕様がある。ここではSTIスポーツR EXの印象を報告しよう。
新型の運転席に収まってまず目につくのは、インパネ中央の大きな縦長ディスプレイだ。レヴォーグと基本的に同じものだが、WRX S4というスポーツセダンにこういう装備が付いたことを目の当たりにして、時代が変わったことを痛感した。
フロントのレカロシートはタイトという感じではないが、ホールド感はサーキット走行でも耐えるレベル。加えて背骨をしっかり立てた着座感は、やっぱりレカロと思わせる。
リアシートにも座ってみた。ドアの開口部はレヴォーグより小さくなるが、車内はほぼ同じスペースで、ファミリーカーとしても使えそうだ。トランクもこのクラスのセダンとして十分な広さを持っていた。
安心感の中で速さを引き出せる
エンジンは先代との違いが明確にわかった。先代の2.0リッターはターボの立ち上がりに唐突感が残り、レスポンスも回転数によって大きく異なる。取材日は雨だったので気を遣った。
それに比べると新型の2.4リッターは、ターボの立ち上がりが穏やかになり、アクセルペダルに対する反応が回転数を問わずリニアなので、安心して力を取り出せるようになった。
一般的に排気量が増えると吹け上がりが重くなるものだが、新型WRX S4の2.4リッターは軽やかだった。タコメーターのレッドゾーンを6,500rpmから6,000rpmに下げ、必要以上に上まで回さなくしたことも好印象につながっているようだ。音も滑らかで、昔の水平対向エンジンが発していた独特の響きとは別次元だった。
サスペンションはサーキットでも硬めであることがわかるが、一方で雨でペースが上がらない中でも、しなやかな動きが確認できた。モデルチェンジとともに採用した新世代プラットフォームの実力が伝わってきた。
エンジン重量が2kg軽くなっているおかげもあってか、コーナー進入で前の重さは感じない。トレッド拡大で踏ん張り感が増したためもあり、先代でコーナーに入ったときのグラッという動きは新型にはなく、ロールはしっかり抑えられている。なのにタイヤが路面に接地している感触を届けてくれるので、4輪の状況を確実に把握しながらペースを上げていける。
ドライブモードセレクトを「ノーマル」から「スポーツ」、そして「スポーツ+」に切り替えていくと、後輪にさらにトルクが配分されて旋回力が強まり、コーナリングが楽しめる。SPTはATのように段を切ってシフトアップやシフトダウンを行い、Dレンジに入れたままでも理想のギアをセレクトしてくれるので、パドルなしでもある程度は望みのギアで走ることができた。
レヴォーグ同様、EXグレードには最新スペックの「アイサイトX」も搭載しており、安全性もレベルアップしている。新型WRX S4はそれに加え、このクルマの真価を発揮するスポーツ走行の際にも、新世代プラットフォームとパワートレインの相乗効果で安心感が高まっていた。