コロナ禍でリモート生活を余儀なくされる中、事務所を持たないベンチャーや自ら起業する学生、YouTuberなどにも注目が集まっている。では学生の大手志向は低下したのか? かつてAIで多くの職業がなくなると言われたが実際はどうなのか?
これからの会社選び、仕事選びについて雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんに聞いた。
■これからのキャリア形成において資格は武器にならない
……「AIで仕事の半分がなくなる」といった話がありましたが、仕事や会社を選ぶ際にもそういう見極めが必要ですか?
その必要はないと思います。AIでなくなる仕事はあまりないと考えたほうがいいです。AIで仕事がなくなる論って、2011年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授(当時)が書いたんですが、この論文が各方面で使われて、日本の大手シンクタンクが2014年に同じ手法で日本でも調査して15年に発表したわけです。
そこで10年以内に47%の仕事がなくなると発表した。それが衝撃的だったのでマスコミも騒いだ。それからもう7年経つんですが、ほとんどの仕事はなくなってない。嘘八百なんです。
僕が見る限り2040年ぐらいまでは仕事の種類はさほど変わりません。その後に急激に変わる可能性はありますが、その頃には第二次ベビーブーマー世代がみんな引退するので、おそらく労働人口が急減して仕事が減るよりも人が減るほうが大きいから、就職は安泰だと思います。
……会社をクビになってもいいように、資格を取っておけという人もいますが?
逆ですね。例えば事務職でも給与計算とか貿易事務のような専門性が高くてAIに置き換えられるような仕事のほうが、なくなる可能性が高いです。また、いわゆる「士業」は壊滅的になります。
今でも税理士はだいぶ年収ダウンしていますが、今後、バックヤードの事務処理は、自動で全部帳票読み込んで、あとはAIがやってくれるようにどんどんなっていきます。
一番なくなる可能性が高いのは、薬局で調剤している薬剤師です。これはほぼロボット化されます。弁護士も離婚訴訟やC型肝炎訴訟など8割がたの訴訟の仕事はなくなります。つまり世間的に今尊敬されていて儲かってる仕事がなくなります。
資格があれば安泰と昔は言っていましたが、今後はそこが一番危ない。簡単な仕事や単純労働がなくなるっていうのはAI論の主張ですけど、逆にケーキ屋さんのレジなどの一見単純そうで実は複合的な労働こそ残るはずです。
ところが学生もビジネスマンもこれからは普通の単純労働がなくなるから難しい資格取らなきゃ、みたいに思ってるじゃないですか。それ、あなたが考えてることが一番危険ですよって話なんですよね。
■3年目で転職、優秀な人ほど起業する、のウソ
……最近は就職しても3年くらいで辞める人が増えてるとか、もう1つの会社にこだわる時代じゃないとかって言われてますが?
いや、むしろ転職者は減ってますね、どんどん。この30年間微増に過ぎず、ここ15年は微減です。とくに男性の転職者は減ってますね。一見、増えてるように見えますけど、転職者って平成の初頭が250万人ぐらいで、今330万人ぐらいで80万人しか増えてません。
そのうちの3分の2が非正規なので、正社員の転職って100万人から130万人ぐらいに増えた程度です。それでも1.3倍になってますが、実は女性が増えたので、男性に関してはほとんど変わってなくてむしろ若干減りつつある状況です。
日本は転職しない社会なんです。130万人としても正社員全体で3500万人ぐらいいるからせいぜい4%前後です。世の中の流動性が高まっているというムードがありますが、全然実態は異なります。
非正規がすごく多くなっているから、そういう意味ではそこそこの流動性になっていますが。実際はみんな正社員のまま、できれば長く働きたいっていうのが本音だと思います。
……起業したいという人も、そんなに増えていない?
昔よりは増えてるかもしれませんが、元々起業する人が年間数十万人しかいないとして、働く人全体の100分の1ぐらいだったと。それが100分の2に増えても圧倒的少数だってことは変わりませんよね。
だから、いずれ転職するからとか、自分で起業するからとか、ムードに流されて安直な判断するのはやめた方がいいです。
■どんな企業選びもあり。ただし欲張りはNG
……「ラクな仕事がしたい」が会社選びの軸ではダメですか?
そういう考え方自体を私は全否定しません。令和時代のいま、昭和のモーレツな価値観で学生を斬り捨てるのは違うと思っています。ただし、面接で正面切ってそのように言っては通るはずがありません。あとは自分勝手で欲張りなのもやはり通用しません。
つまり、勤務地は問いません、社風も問いません、給与も問いません、昇進も問いません、だから楽な仕事をお願いしますというならあり、ということです。ちゃんと諦めることが大事で、欲張りじゃなければ僕はどんな企業選びでもいいと思います。
実際に私がこういう相談を受けた学生がいて、彼は結局、公的な機関に入社しました。確かに仕事は忙しくなく、給与カーブもゆるいけれど、いわゆる年功序列で楽に上がっていく組織です。ただ40になったとき、こんな生き方で良かったのかと後悔しないかどうかは予め想定しておいたほうがいい、と助言はしました。
……改めて学生に一言アドバイスするとしたら?
まず、「企業は良い人(成績、性格、見た目、根性など)を欲しがっている」という誤解を捨て去ることです。自分を盛って身の丈以上の会社を選んでも、後で困るだけです。もしも、「素の自分」をさらけ出すことができたのに、その会社を落ちたなら、相思相愛でなかっただけなので、次の出会いを求めればいいだけです。
面接が不得意で「素の自分」が出せない、という人も、多くの場合場数を踏むことで変われるはずです。面接に場慣れして、肩の力が抜けるのは10社目あたりからです。その頃には面接担当に聞かれることや、相手に響きやすいエピソードも見当がつくようになります。だから、まずは10社と面接することをお勧めします。
一番言いたいことは、リモート面接でこう自分を演出したらうまくいくとかではなくて、無理していい会社に入ろうという考えは捨てましょうということです。素のあなたを愛してくれる、あなたにぴったりな会社を選びましょう。それがすべてです。