YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第4弾は、『全力!脱力タイムズ』制作総指揮『千鳥のクセがスゴいネタGP』総合演出の名城ラリータ氏(フジクリエイティブコーポレーション)、『有吉の壁』『千鳥のクセがスゴいネタGP』『新しいカギ』などを手がける元芸人の放送作家・樅野太紀氏が登場。『新しいカギ』の総合演出を担当するモデレーターの木月洋介氏(フジテレビ)を含めた3人によるテレビ談義を、4回シリーズでお届けする。

第1回は、ラリータ氏と樅野氏が携わる『クセスゴ』がテーマ。異質のネタ番組はどのように誕生したのか。さらに、多くの芸人からも愛されるという千鳥の魅力とは――。

  • 『千鳥のクセがスゴいネタGP』MCの千鳥の大悟(左)とノブ

    『千鳥のクセがスゴいネタGP』MCの千鳥の大悟(左)とノブ

■番組相談の第一声「助けてください!」

木月:この3人でお話しするのは初めてですね。樅野さんとラリータさんは、何の番組が出会いだったんですか?

樅野:NHKの『有田P おもてなす』にラリータさんが入ってきてくれたんですよ。

木月:あれは途中から入られたんですか。

ラリータ:そうそう、『脱力タイムズ』やってて有田(哲平)さんに誘われて。

樅野:もちろん、ラリータさんの名前は知ってたんだけど、沖縄出身で「ラリータ」って名前で、勝手なイメージでめちゃくちゃ怖いパワハラタイプの怖いディレクターだと思ってたら、信じられないくらい礼儀正しい(笑)。今、『クセスゴ』の会議やってても思うんですけど、作家に対して過剰なリスペクトをしてくるんですよ。

ラリータ:会議の樅野さんと宮地(ケンスケ=ニブンノゴ!)さんのやり取りが、芸人さんだったときの先輩後輩感が出て怖いんですよ(笑)

樅野:あの頃の芸人はSNSもなくて、今みたいな仲良しこよしな感じがなかったからね。

ラリータ:ちょうど僕がADやってた頃なんですけど、当時の芸人さんの話を聞いてると面白いんですよ。東京吉本では、お世話になってた品川庄司さんと樅野さんが同期で、上に極楽とんぼさんと石原(健次)さんがいて、そこに関西の人たちが来たときの感じとかを聞いてると、「へぇ~そうだったんだ!」ってなる。

樅野:東京の越えちゃいけないところを越えていったという、本当に『愛の不時着』があったんですよ(笑)。でも、ラリータさんは作家を乗せるのが本当に上手くて、ディレクターさんはよく会議終わりで「ありがとうございました」とか「助かりました」って言ってくれるんですけど、ラリータさんはその最上級の「勉強になりました」って言うんです。

ラリータ:いや、樅野さんは勉強になるんですよ。それに、樅野さんがディレクターから人気があるのが分かるんですよね。要は見捨てないんです。「もう時間だから」って感じにならなくて、「あれ大丈夫?」「これ大丈夫?」って言ってくれるから、若手の人は一緒にやりたがるだろうなと思います。

樅野:忘れもしないけど、『クセスゴ』の特番が始まるとき、ラリータさんから電話かかってきたときの第一声が「助けてください!」でしたから(笑)

ラリータ:収録まで全然時間なくて、「ネタ番組なんですけど…」って言って、『有田P おもてなす』にいた作家さんに急きょお願いしたんです。

樅野:収録2日前くらいまで、番組タイトルも違いましたから(笑)

木月:僕は『お笑いマッドマックス』って聞いてましたよ。

ラリータ:最初は映画の『マッドマックス』の後に放送されるって聞いてたから、「いいじゃん! いいじゃん!」と思って(笑)

樅野:そしたらラリータさんから連絡があって、「『マッドマックス』のOAないみたいです!」って(笑)

木月:それで『クセスゴ』のタイトルは誰が付けたんですか?

樅野:一応、俺です。

ラリータ:それで急きょ変えるんですけど、収録当日の台本には『クセが強いGP』ってなってたんです。そしたらノブさんに「ラリータさん、僕は『クセがスゴい』って言ってるんですけど、『クセが強い』でいいってことですよね?」って遠慮がちに言われて、「ダメです!ダメです!」ということで、その場で変えたんです。

樅野:要は間違ってたということです(笑)

ラリータ:でも、それで気づいたんですよ。ノブさんにあのワードへの意識がすごくあるんだなと思って、「『クセがスゴい』を強めにスタジオで言ってもらえますか?」ってお願いしたら、こういう形になってたんです。

樅野:ちょっと見て困るようなネタもあるだろうから、そのときはなるべく「クセがスゴい」って言ってほしいって。

  • 『千鳥のクセがスゴいネタGP』(毎週木曜21:00~)11月4日の放送より (C)フジテレビ

■千鳥が見ると反応が真逆になるケースも

木月:初回の現場で言ったんですか! でもあの千鳥さんの立ち位置がすごいですよね。どんなクセがすごいネタでも全部救ってくれますから。ネタに対して千鳥さんがどんどんコメントしていくのをちゃんと使っていくあの仕組みは、最初から決めてたんですか?

ラリータ:最初はゴールをあんまり決めずに撮ったんですよ。そしたら『相席食堂』(ABCテレビ)とかもそうですけど、2人で顔見て笑い合いながらよくしゃべるんですよね。それで、もうこれをパッケージにしようと思って、編集で組み替えたんです。千鳥さんの新しい面を出すというよりは、ネタ番組の場合だとこうなりますというのを見せたほうが、本人たちも無理してないように映ると思って。

木月:そこに初回でちゃんとたどり着いてるのがすごいですね。でも、千鳥さんに思う存分コメントしてもらうために、ネタパートをVTRにしたんじゃないんですよね。

ラリータ:それもあるけど、一番の要因はコロナだったからですね。

木月:だけど、結果としてVTRだからできるんですよね。目の前でやってたらコメント挟みづらくなってしまいますもんね。

樅野:ラリータさんがすごいと思うのは、芸人のネタで本当に理解できなかったら、ちゃんと「樅野さん、僕これ全く面白さが分からないんですけど」って言ってくるんです。それで「大丈夫だよ、千鳥さんが拾ってくれるから」って伝えて。

ラリータ:難しいんですよ。千鳥さんとの関係性が見えない人で、「面白くない」っていうレッテルが貼られちゃったらどうしようってヒヤヒヤするんです。でも、結果としてもっと面白くしてくれたり、逆に全然違う感じになったりして、不勉強だったなって毎回思います。収録するたびに「お笑いって難しいなあ」ってなるんですよ。東儀秀樹さんと神奈月さんのネタがあるんですけど、あれを出すときに展開がちょっと遅かったかなあって思ってたんですけど、千鳥さんに出すと真逆だったりするから。

樅野:芸人って劇場でずっとあの感じをやってるんですよ。若手のネタをモニターで見ながら、みんなでやんよやんよツッコミを入れてるんです。

木月:元々そういう文化があるんですね。その面白さをテレビ化できていると。

樅野:そうそう。だから、あれがテレビでできてる喜びが、千鳥にあると思うんですよね。