神奈川県の湘南エリアを中心に、美容室・ヘアサロン128店舗を展開する(2021年10月時点)、ケンジグループ。
今年で創業50周年を迎え、同エリアでは知らない人が珍しい一大美容室チェーンだが、藤沢駅前のビルに入居するスタッフ3人の"町の小さな美容室"からスタートした。現在のスタッフ数は1,200名を超え、年間80万もの人々に美容サービスを提供しているという。
SDGsも積極的に取り組む
同グループが経営理念として掲げているのは、"make happy"。この合い言葉をもとに、美容を通じて地域・顧客・スタッフの関わるすべての人の幸せを創出することをミッションとしている。
ケンジグループが「持続可能な開発目標(SDGs)」に積極的に取り組む理由もその1つだ。
例えば"リネン事業"。サロンで使用したタオルを回収してクリーニング後、再配送する事業を内部で行っている。また、継続的な地域社会への支援として障がい者を積極的に雇用し、地域社会の発展・地域文化の向上も目指しているそうだ。
「毎日多くの人の髪を洗ったり、染めたりしている美容室。店舗全体で考えると、水で洗い流す量も相当な量になります。そのため、使用するシャンプーや染色剤、パーマ液といった薬剤も環境に優しい製品を選び、環境負荷に対して配慮をしています」と、ケンジ 業務部 総務課 主任の武藤勇也氏。
他にも、事業所や店舗でペットボトルのキャップを回収し、リサイクル・再資源化の促進に努めたり、サロンで販売している商品を入れる袋もプラスチックから紙袋へ変更したりなど、レジ袋削減にも積極的に取り組む。
地域に寄り添う美容室
さらに近年は、"訪問美容サービス"にも力を入れている。高齢者など美容院への来店が困難な人の自宅や介護施設などへ訪問し、美容サービスを行うと話す。
「湘南の地で創業して以来、地域の皆さまに支えられながら50周年を迎えました。その間、中には3世代、4世代にわたってご家族で利用されるお客様もいらっしゃいます。駅前の小さな美容室がスタッフ数1,000人を超える大きなグループに成長できたのも地域の皆さまのおかげ。その思いから、これまで支えていただいた地域のお客様に寄り添うサービスとして訪問美容を行っています」(武藤氏)。
他にも、「地域のお客様の一生に一度の特別な日を、素敵な思い出にしていただきたい」という思いで、着物のレンタルから、前撮り、成人式当日の着付けやヘアセットなど、ケンジグループでサポートする"成人式イベント"なども行っていると言う。
社員と縁を大切にする
また地域の利用者同様、社内のスタッフも大切にしている。「美容業界で充実した福利厚生制度を整えたのはケンジグループが先駆けだと思います」(武藤氏)と話すように、例えば社員寮も完備する。
「今年で言うと、新卒入社した約200人に対して、50人ほどが2年間利用できる寮を用意しました」と説明するのは、同じ業務部 総務課の岡崎大輝氏。
それ以外にも、ベテラン社員の独立開業に対しては「リターンFC制度」という独自の制度を用意する。
「地元で独立開業したいというスタッフと業務提携を結ぶなど、全面的にバックアップしています。彼らの活躍の場を提供し続けると同時に、学んだ技術や私たちとの縁を関東以外にも広げたい」という思いがあるそうだ。
美容業界にデジタル化の波をもたらす
そして近年は、従業員の働き方改革、業務改善への取り組みにも着手する。一般的にはアナログなイメージが強い美容業界でありながら、ICTの導入・利活用にも積極的だ。
バックオフィス部門では、サイボウズのグループウェアを導入。経営層や役職者のスケジュール管理や社内稟議などに利用されているという。さらに、特に社内スタッフのコミュニケーションツールとして「LINEWORKS」も活用している。
「サイボウズもよいシステムですが、1,000人を超えるスタッフが個別でコミュニケーションを取る場合、LINEWORKSのほうが向いているので双方を使い分けています。スタッフの年齢が平均30歳前後と若く、LINEに慣れ親しんでいる世代でもあるので、LINEと同じ操作性で私用と社用を分けられる、LINEWORKSが最適ですね。導入して1年足らずですが、スタッフの間では想像していた以上に浸透しています。場所に囚われずに使えるというのもメリットですね」(武藤氏)。
コロナ禍で「人との接触への自粛」が求められる中、ZOOMも積極的に活用する。従来は市民会館などで行っていた入社式や社内表彰、オーナー会、店長会といったイベントをはじめ、技術講習やセミナー、教育動画配信、採用面接などもウェブ形式で実施しているという。
「地方からの志願者も多数いますので、オンラインで採用面接ができるようになり、とても助かっています。今まで対面で行っていたものをオンラインに切り替えるのは、毎回手探りで容易ではありませんが、削減できた移動時間を、検討する時間に割り充てることができるので、仕事が増えたという実感はありません。むしろ選択肢が増えたという感じで前向きに捉えています」。
テレワーク導入でオフィスを改善
2021年6月末からは、オフィスの通信環境の改善も実施した。従来は各デスクに設置されていた固定電話をフロアに1台のみにして撤廃し、スマホを活用した内線環境を構築した。
「本部業務は現場へのヘルプデスク的な役割も担っているため、自宅で電話が受けられないことは、テレワーク導入の課題でした。加えて、それまで導入していたPBXがパーツも含めて生産終了したことで入れ替えを検討していました。同時期にオフィスを改装する計画があり、Wi-Fi環境も整備したこともあり、配線を減らしたいと、『AGEPhone(エイジフォン)』の導入に踏み切りました」。
AGEphoneは高音質なIP電話の発信・応答を可能にするソフトフォン。PCやスマホにインストールして簡単な設定をするだけで、IP電話の発着信が可能になる。NTT東日本が提供するソリューションの1つとして導入した。
NTT東日本に相談をしたのは導入の1ケ月ほど前。ケンジグループからの要件は、「置き型電話機ではなく、スマートフォンの利用」、「電話配線が不要」、「通信が取れる環境さえあれば利用が可能である」の3点だったそうだ。
「弊社の要望に対して他社さんではできないさまざまな提案を、実際に端末を用いたデモンストレーションなど丁寧にしていただきました。最終的には技術的な面が一番の決め手となってNTT東日本さんにお願いしました」と岡崎氏。
担当した、NTT東日本 神奈川事業部 神奈川西支店 ビジネスイノベーション部の岸遥香氏は「50人規模というのは初めてでした。しかも、1台も使わないとかなり振り切ったご相談で(笑)」と明かす。
「各フロアに1台ずつ電話端末は残してありますが、まったく使っていないですね」と武藤氏。導入にあたって苦労した点について次のように続けた。
「従来のビジネスフォンとの操作感の違いですね。画面での操作が必要なため、ある程度は慣れが必要でした。あとは個人のスマートフォンとの相性です。NTTさん側の問題ではないそうした導入後の困りごとについても迅速に対応いただき感謝しています。導入後は配線が減ったため、デスクや足元がスッキリしてオフィス環境が快適になりました」。
社員の働き方改革が利用者の手間も解消する
NTT東日本側が提案したソリューションの1つには、「モバイル内線アダプタMB500」との接続が挙げられる。これにより、スマートフォンをビジネスホンの内線電話機としても利用が可能になり、外出先・在宅勤務時でもオフィスの電話のようにスマートフォンが利用できるようになった。
「以前はオフィスにかかってきた電話を内線で転送していたのが、モバイル内線アダプターによって、特定の従業員に対してダイレクトへの通話が可能になり、時間の短縮にもなっています」と岡崎氏。
また、新型コロナウイルスの流行により、同社でも業務継続に少なからず影響を受けたという。武藤氏は次のように振り返るとともに、期待を語った。
「本部に限定した話ですが、テレワーク環境は以前から整えてはいたものの、万全ではありませんでした。保育園・幼稚園などが急遽休園になり、出社できなくなる女性スタッフが大勢いて、弊社も少なからず影響を受けています。近々、本部全体でテレワーク環境が整う予定ですが、内外線が利用できるようになったことで、本格開始後はさらに恩恵を実感できると思っています」。
ケンジグループでは、給与明細もウェブで確認ができるなど、オフィス業務のIT化も進んでいる。しかし、武藤氏は語気を強めて次のように話した。
「過剰にシステムを増やし過ぎることよりも、大切なのは全スタッフにどう浸透させていくかだと思っています。とはいえ、予約システムもウェブ上から行えるように、お客様のカルテの管理や会計などもタブレットでできるようになれば理想ですね。お客様の手間を減らすことは、従業員の手間を減らすことにもなり、働き方改革につながっていくと考えています」。
地域とともに50年もの歩みを続ける、ケンジグループ。"make happy"の経営理念のもと、これからの50年も先進的な取り組みを採り入れながら、美容を通じた幸福と発展を地域にもたらし続けてくれるだろう。