サステナブルな取り組みをさらに加速させるため、久光製薬は今年、サステナビリティ推進委員会、サステナビリティ推進部を新設した。これまでも環境問題や地域活性化に取り組んできた久光製薬だが、サステナビリティ推進委員会・推進部の設置で、その動きはますます活性化しそうだ。
前編に続き、今回はサステナビリティ推進委員会・推進部がすでに進めている取り組みや今後の展望について、久光製薬のサステナビリティ推進担当である高尾信一郎常務とサステナビリティ推進部 森崎亜紀子部長に話をお聞きした。(※高尾常務の「高」表記は「はしごだか」)
主力製品に「HELLO! eco!マーク」を導入
久光製薬は今年3月に「HELLO! eco!」マークを策定した。「HELLO! eco!」マークは、久光製薬が定めた“エコ基準”をクリアした商品に表示される。
ここでいうエコ基準とは、久光製薬の従来品などと比較して、「1.薬袋やケースなどのサイズをコンパクト化したもの」「2.環境負荷の低減に寄与する原材料(植物由来原料、再生原料など)を使ったもの」「3.商品のライフサイクルを通して環境負荷の低減を実現したもの」の3つを指す。
例えば、久光製薬の代表的な商品であるサロンパスやフェイタスなどでも「HELLO! eco!」マークが確認できるが、これは1箱あたりのサイズを縮小し、紙面積の削減を実現した証だ。もちろん、製剤自体は従来のサイズから変わっていない。
ちなみに、フェイタスシリーズはパッケージをコンパクトにしたことによって、廃棄物が年間6.9トン、生産や輸送・流通時のCO2排出量は年間3.1トンも削減できたという。
パッケージをコンパクト化することのデメリット
パッケージのコンパクト化は、SDGs的な観点からみればメリットは大きい。しかし高尾常務によると、メーカー側からすればデメリットも少なくないという。
「これまでは少しでも店頭で商品が目立つよう、各メーカーともパッケージを大きめに作っていました。パッケージをコンパクトにすれば、そのぶん目立たなくなりますし、中身も小さくなったと勘違いされてしまうリスクがあります」
そういったリスクを踏まえ、中身はそのままでエコになったことを知ってもらうためにも「HELLO! eco!」マークをつけた。
「もっとこのマークを広くお客様に周知しなければなりません。また、他社はまだ実施していない取り組みなので、久光製薬はいち早く地球環境を考えて行動したということもアピールして、業績に結びつけたいと考えています」
こうした取り組みを推進していくには、ステークホルダーの理解も必要だ。
久光製薬の貼付剤は医療現場でも役立てられているが、そこでもエコな取り組みがスムーズに進められるかというと、話はそう簡単ではない。
「医療用の貼付剤の場合は、箱ではなく、袋で1枚ごとにパッケージされています。これを例えば7枚ごとにパッケージできれば、その分、包装袋の量も減らすことができます。でもお医者さんからすれば、それだと患者さんに処方しにくいんですね。錠剤と違って小分けにできないので、10日分や30日分といった処方ができなくなってしまうのです。でも、そこで諦めるのではなく、なぜ我々がエコな取り組みをしようとしているのか、きちんと説明し、理解してもらいたいと思っています。環境への負荷を減らすために、例えば通院を毎週固定した曜日に決められませんか、それなら7枚がちょうど1週間分になってキリもいいですよね、と交渉していきたいと考えています」
2030年、2050年の未来も見据えるサステナビリティ推進委員会
久光製薬は、CO2排出削減目標として、2030年度までの中期目標を「2013年度比で30%削減」と設定している。2019年度時点で、すでに約26%の削減を実現していることからも、目標達成はほぼ確実視されている。
それは「HELLO! eco!」の取り組みだけでなく、従来からパッケージの小型化やハイブリッドな営業車の導入、省エネ設備の導入やエネルギーの効率的な運用を推進してきた結果である。
政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を掲げているが、久光製薬は現在、これの達成を見据えた新事業の展開も検討しているという。まだ30年近く先の話ではあるが、高尾常務によると、今からスタートしなければ到底間に合わないそうだ。
「例えば植樹事業なら成長した木を利用するわけですから、今から計画を進めていかなければいけません。そして単純にCO2を減らすだけでなく、我々は企業として利益に結びつけることも重要です。いくら『これは環境に優しい商品です』とアピールしても、業績が落ちていけば見放されてしまいますから。カーボンニュートラルへの取り組みをしっかり事業に結びつけていくにはどうすればいいか、今から考えなければなりません」
サステナビリティ推進委員会・推進部にとって、「HELLO! eco!」マークはまだ最初の一歩。新部署を設置し、ますますSDGsに本腰を入れて取り組み始めた久光製薬の動向に、今後も一層注目したい。