多くの感動を生んだ東京2020オリンピックが幕を閉じてから約一ヶ月。激闘を終えた選手たちはそれぞれ、早くも次のステージへと歩を進めている。

女子バレーボール日本代表の石井優希選手もまた、気持ちを新たにVリーグの開幕戦を迎えようとしていた。

久光スプリングスに所属するアタッカーで、2大会連続でオリンピックに出場した石井選手。彼女は今、次なる目標をどこに定めているのか。東京オリンピックの舞台裏や今シーズンに賭ける思いについて、石井選手に話をうかがった。

「若い選手に、伝えられることは伝えようとした」

――まずは東京オリンピック、お疲れ様でした。石井選手にとって、今回のオリンピックはどんな大会でしたか?

リオオリンピックが終わってからは、東京オリンピックにすべてを賭けてきました。しかし、チームとしても個人としても、悔しい結果に終わってしまいましたね。やはり、オリンピックに合わせてベストな状態が作れなかったという悔しさはあります。

でも、どんな状況でも金メダルを目指し、最大限にパフォーマンスも発揮しようしたので、そういう意味ではやりきったという思いもあります。

――やはりコロナ禍の影響は、パフォーマンスにも大きく響いたのでしょうか?

響きましたね。開催が1年間延期されたのが大きかったです。モチベーションを維持することが難しく、30歳という年齢で1年のロスはすごく苦しく感じました。1歳でも若いほうがプレーの勢いもあったと思いますし、実際に去年のほうがパフォーマンスもよかったので、できることならその勢いのままオリンピックを迎えたかったですね。

――とは言え、2大会連続のオリンピック出場は、石井選手が優れた選手であることの証拠です。大舞台に立つことで、得たものも大きかったのでは?

メダリストとは比べられませんが、限られた人数しか出られないオリンピックに二度も選出していただいたことで、自分の価値もある程度は実感できました。

期待してもらった分、もっと上に行きたかったという葛藤もありますが、それでも代表に選出されたことや、いろんな人に「代表入りおめでとう」と声をかけてもらったことは励みになりました。やっぱりオリンピックは特別な大会なんだなと思います。

――オリンピックに連続出場したことで、自分の中の変化などもあったのでは?

あったと思います。年齢を重ねて立場も変わりましたし、仕事も増えました(笑)。今回のメンバーでリオを経験している選手は4人だけ。今回のメンバーには若い選手も多かったので、私が伝えられることは、少しでもたくさん伝えようしました。

正直、自信を持って「仕事を果たせた」とは言えないかもしれません。でも、例えば代表の中田(久美)監督とは久光スプリングス時代からの長い付き合いだったので、選手と監督の橋渡しのような仕事はできたと思っています。

――オリンピックが自国開催ということで、何か特別な想いやプレッシャーはあったのでしょうか?

実際に戦ってみて、そんなにリオと変わらないというのが本音です。でも、リオオリンピックが終わってからは、“次は東京でオリンピックができる”という特別感、ワクワク感は感じていたし、だからこそより強い想いで日々の試合や練習を頑張ってこれました。

「代表引退」報道は誤報だった!「引退はまだ考えていません」

――オリンピック中、チーム内はどんな雰囲気だったんですか?

5月にイタリアで開催されたネーションズリーグではベスト4に入って、チームとしては自信を持ってオリンピックに臨みました。でも、大会本番では独特の緊張感や、アクシデントもあって、力を出し切れなかった部分はあったように感じます。

チームスポーツでは、チームがまとまらないと結果は出せません。もちろん、選手もスタッフも勝とうとする気持ちはありましたが、うまく噛み合わなかったのだと思います。

――東京オリンピックで感銘を受けた他国の選手やチームはありましたか?

アメリカのジョーダン・ラーソン選手は、34歳という年齢でも最後まで安定的にチームの軸として活躍していました。ずっと憧れの選手でしたが、やっぱり凄かったです。

あとは韓国のキム・ヨンギョン選手も印象的でした。キム選手は日韓戦にいつも力を入れてくる選手で、年々調子を落としている印象だったのですが、ここ一番では力を発揮してきました。やはり超一流のスター選手だと改めて感じさせられましたね。

――石井選手は東京五輪を最後に、日本代表から引退するといった報道がありましたが……

そういう報道が出ましたが、私はそんなこと言っていないんです(笑)。この大会が集大成という気持ちで臨んだし、オリンピックが終わってすぐには“次はパリオリンピックだ!”というふうに切り替えられなかったので、「一旦ゆっくり考えたい」と発言したんです。

そうしたら翌朝、「涙の代表引退」という記事が出ていて……ビックリしましたね(笑)。その影響で周りの方々からもたくさん連絡がきましたし、本当にご迷惑をおかけしました(苦笑)。私の伝え方が悪かったのかもしれませんが、引退は考えていません。

石井選手が語る次の目標「まずはVリーグで優勝すること」

――そうだったんですね! ホッとしました。では、今後の目標をお聞かせください。

3年後のパリオリンピックよりもまず、目先の目標をひとつずつ立てていきたいと思っています。日本代表だけがすべてではないですし、今はVリーグで久光スプリングスが優勝することを一番に考えたいですね。

――今シーズンの久光スプリングスはどんなチームでしょう?

久光スプリングスは、私がオリンピックで抜けている間もチーム力を積み上げてきました。世代交代も進んでいて、若い選手たちの発言力も大きくなってきていますし、昨シーズンとまた違った力があると感じています。

――世代交代でチームがいい方向に変わっていると?

そうですね。これまで岩坂(名奈)選手や座安(琴希)選手がチームをまとめてくれていましたが、彼女たちが引退して、私の世代が最年長としてチームをまとめる立場になりました。

私たちは久光スプリングスが優勝していた時代も知っている世代でもあるので、締めるときは締めて、うまく良いチーム作りができたらいいなと思います。

――それでは最後に、ファンや読者にメッセージをお願いします。

Vリーグの開幕戦(10月16日、17日)は、久光スプリングスの本拠地がある佐賀県で、翌週(10月23日、24日)は練習拠点のある神戸市でホームゲームを迎えられるので、ぜひ、ファンの皆さんと一緒に戦っていきたいと思います。そして、バレーボールがもう一度盛り上がるよう、この今シーズンをしっかり戦い抜きます。

観客の収納人数は会場の50%という制限がありますが、ぜひ会場に足を運んでもらいたいですし、会場に来られなくても、放送や中継を通して応援してくれたら嬉しいです。どうかご声援をよろしくお願いします!