22日に『和田家の男たち』(テレビ朝日系)がスタートし、2021年の秋ドラマがほぼ出そろった。東京オリンピックの影響で安全策の目立った夏ドラマの直後であり、一年を締めくくる秋ドラマには、どんな作品がそろい、どんな特徴があるのか。
主要ドラマが出そろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2021年秋ドラマ22作の傾向とおすすめ5作を挙げていく。
2021年夏ドラマの主な傾向は、[1]強力原作+オリジナルで勝負 [2]「○○とは」本質に迫る物語の2つ。
傾向[1]強力原作+オリジナルで勝負
今秋は民放各局が今年4クール目にして、最高ランクの力作をそろえた。
日テレは、人気漫画の『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』、『二月の勝者―絶対合格の教室―』と、2クールぶち抜きのオリジナルミステリー『真犯人フラグ』。
TBSは、何度も実写化されている名作小説『日本沈没―希望のひと―』、人気漫画の『婚姻届に判を捺しただけですが』と、湊かなえ作を彷彿させるオリジナルミステリー『最愛』。
フジテレビは、2度目のドラマ化となる医療漫画の『ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート』と、ベンチャー企業と女社長の浮き沈みを描いた『SUPER RICH』、謎だらけの痛快作『アバランチ』(カンテレ)。
いつも通りシリーズ作をそろえ、わが道をゆくテレビ朝日はさておき、民放各局が「強力原作で手堅く数字を押さえたつつ、思い切ったオリジナルに挑んでいる」という戦略であることがわかるだろう。言わば「慎重かつ大胆に」という戦略を選んでいる理由は、やはり収入面にある。
もちろんコア層(13~49歳)を中心にした個人視聴率は手堅く獲っていきたいし、ネット配信や海外番販でも収益をあげていきたい。また、先の展開が読めず、結末もわからないオリジナルはネット上の反応がよく、大ヒットの可能性を秘めている。その上、「スピンオフが制作しやすい」「コラボ商品やイベントなどの展開もしやすい」などのメリットも多い。
傾向[2]「○○とは」本質に迫る物語
今秋の傾向を探るべく、各局のラインナップを書き出したとき、本質に迫るような物語の多さに気づかされた。
わかりやすいところから順にあげていくと……『SUPER RICH』は金、『婚姻届に判を捺しただけですが』は結婚、『和田家の男たち』はマスコミ、『日本沈没』は非常時とリーダー、『二月の勝者』は中学受験、『恋です!』は恋、『アバランチ』は正義。それぞれのテーマを深掘りし、視聴者に問いかけるような脚本・演出が見られる。
また、「最愛」「真犯人フラグ」も、令和のミステリーに求められる本質を作り手たちが追求。どちらも2010年代には「難しい」と言われ、回避されがちだった長編ミステリーに挑み、しかもオリジナルであることがそれを物語っている。
平成のころから秋は1年の締めくくりにふさわしい見応えのある作品がそろう傾向があった。しかし、2010年代に入ると視聴率の低下を止めるべく、ジワジワと増えていったのが、単純明快な一話完結型の作品。刑事、医療、法律を扱う物語が大半を占めていたが、令和に入ったころから変化の兆しが見られ、昨春の視聴率調査リニューアルによって風向きが変わった。
今秋のラインナップは、作り手たちが「本質を深掘りしても見てもらえない」という懸念から解放されたことの証かもしれない。それぞれの本質を深掘りするほど、それをめぐる人間ドラマは活性化し、視聴者の感情移入をうながすだけに、終盤を迎える12月は盛り上がるのではないか。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『最愛』『和田家の男たち』『SUPER RICH』『恋です!』の4作。つまりTBS、テレ朝、フジ、日テレから1作ずつ選んだのだが、それほど甲乙つけがたい魅力を放っている(魅力の詳細は後日公開のコラムにて)。好みの差こそあれ、この4作は多くの人々に響くものがあり、最後には「見続けてきてよかった」と思えるものになるだろう。
その他、物語では『二月の勝者』、映像では『アバランチ』『じゃない方の彼女』も見どころアリ。「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。
■おすすめ5作
- No.1 最愛 (TBS系 金曜22時)
- No.2 和田家の男たち (テレ朝系 金曜23時15分)
- No.3 SUPER RICH (フジ系 木曜22時)
- No.4 恋です! (日テレ系 水曜22時)
- No.5 二月の勝者 (日テレ系 土曜22時)