2012年に国内での販売が終了していた世界有数の高級たばこブランド「ソブラニー」が今年7月に復活。日本の愛煙家の間で話題となっている。

販売元は葉巻、リトルシガー、手巻たばこ、パイプたばこ、キセル用の刻みたばこ、無煙たばこといった特殊たばこと言われるジャンルの商材を主軸とするJTの子会社「日本たばこアイメックス」。

喫煙具など愛煙家には興味深いニッチなアイテムを多数取り扱う同社が、なぜ紙巻たばこ「ソブラニー」を日本で復活させたのか? 9年ぶりの再販売に至った背景や「ソブラニー」の魅力を聞いた。

トラディショナルな高級たばこ「ソブラニー」

「たばこ市場にはチャンセラー社が販売する1箱3,000円の『トレジャラー・ブラック』、JTからも1箱1000円の『ザ・ピース』といった高級たばこが存在しますが、『ソブラニー』は世界で最も歴史が古いたばこブランド。上流階級・アッパー層向けの晩餐会用のたばことして嗜まれてきました」と、アイメックスの担当者は語る。

イギリスに本社を置くギャラハー社の高級紙巻たばこブランド「ソブラニー」をJTが輸入販売を始めたのが2008年のこと。JTグループがギャラハー社を2007年に買収したことが契機となっている。

しかし、日本の一般的なたばこの価格が300円台だった当時、1箱750円という2倍近い価格もあり、販売数量の減少などの理由で2012年に国内販売が終了。以来、日本市場から姿を消していた。

  • 「ソブラニー・カクテル」

喫煙者にとっても高級たばこはマニアックな世界だが少なからぬファンも存在しており、特殊たばこを中心に扱うJT子会社・アイメックスからの再販がこのほど決定したというわけだ。

現在、カラフルな巻き紙が印象的な「ソブラニー・カクテル」と高級感を感じるデザインが特徴の「ソブラニー・ブラックロシアン」の2銘柄が、1箱850円で販売されている。

  • 「ブラックロシアン」の箱にはエンボス加工が施されている

高級たばこの中でも特に「ソブラニー」は、晩餐会用として重宝されてきた歴史を物語る伝統的なビジュアルや、パーティーシーンでも映えるデザインが際立つブランドだ。

バラ入れタイプのシガレットケースのような形状のボックス、口紅の付着を防ぐためのリップリリース加工(フィルター部分に巻かれた金のペーパー)、巻紙やインナーラップに至るまで、細部に高級感を醸し出す装飾や加工をあしらっている。

  • ボックスやフィルターに配されたエンブレムは、ブランド創業者アルベルト・ヴァインベルクの出身地(現ウクライナ・オデッサ)であるロシア帝国の国章がモチーフとか

SNSでも反響が寄せられるデザイン

JTで販売していた当時から「ソブラニー」は免税店などでのお土産用のたばことしても人気で、いわゆる"夜の街"における贈答品などとしての需要も根強く、高級たばこながら比較的若いファンも多い。

「再販にあたっては過去に吸っていた層とは違う層、特にいまの若い方たちが高価格帯の紙巻たばこを買うのかという不安もありました。写真に映える見た目で、それなりに話題性もある商品とは思っていましたが、SNSを中心に20代からも想像以上に大きな反響あり、驚きましたね」

たばこ専門店など小売店とのやりとりも多い担当者も、「復活を待ち望んでいた方、懐かしくて買われる方なども含めて、たくさんの声をいただいています」と語る。

「『ソブラニー』は、アクセサリー感覚で買われていく方もいるようで、なかには人生で初めてたばこ屋さんに足を運び、SNSの画像を見せて購入されていくお客様もいらっしゃるそうで。流石に意外でした」

そんなファッション性が「ソブラニー」の大きな魅力であることは間違いないが、たばこの味や素材にもこだわっている。

「試喫してみたときの率直な感想として、とても吸いやすいたばこです。特に『ブラックロシアン』はタール7ミリなので、少し重めですが、その重さを感じさせない。非常にバランスの良いブレンドで、かつ無添加なのでたばこ葉が持つ本来の味わいを感じやすくなっています」

  • フィルターの口離れも驚くほど良い

見た目からクセの強い喫味を想像してしまいがちだが、実際に吸ってみると外国製たばこの独特な臭いなどはせず、吸い口はマイルド。やや辛口との声もあるようだが、個人的な印象としては喉への通りもスムーズで、たばこ葉のビターな風味が親しみやすい。シンプルで上質な味わいだ。煙量もちょうど良く吸い応えもある。

たばこ葉のブレンドは変わらないそうだが、フェミニンなデザインの「カクテル」はタールを5gと低めに設定している分、より軽い吸い心地。まろやかな甘みをより感じやすい気がする。貧乏性もあるが、どちらもフィルターぎりぎりまでおいしく吸えた。

特殊たばこ会社だからこそ扱える商品

「ソブラニー」は歴史の長い世界的ブランドだけに、昔からさまざまな名画に登場しているらしく、特に日本では沢尻エリカ主演の映画『ヘルタースケルター』に登場することでも有名だ。

しかし、熱心なファンや一定のニーズが存在し続けていたとはいえ、販売数量の減少で過去に撤退したように、日本のたばこ市場では決してメジャーな銘柄ではないことも事実。結果的には思いがけず若者の支持もあるようだが、なぜ再販に踏み切れたのだろうか?

「たばこの市場環境の変化が大きいです。増税で紙巻たばこの値段が上がり、価格差を縮めるかたちで販売しやくなったことも勝算でした。また、喫煙できる場が減り、喫煙者に向けられる社会の目は厳しい状況が続いていますが、RRP(加熱式たばこなどのリスク低減製品)も普及するなか、紙巻たばこが習慣化している喫煙者は改めて喫煙の理由や意味を考えざるを得ない。このタイミングで由緒正しいブランドのたばこらしいたばこを、日本で改めて販売することに意義を感じました」

「どんなシーンでたばこを吸うか」といったことも含め、自ら明確な意思で紙巻たばこの喫煙を望む人にとって、たばこはかつてないほど嗜好性の高い商品になっている。

そんな情勢下でアイメックスが行き着いたひとつの回答が、今回の「ソブラニー」復活だったようだ。

「紙巻たばこの『ソブラニー』には消費商材としての役割も当然ありますが、やはり1本、1本を大切に吸っていただく位置付けの高級たばこなんですね。日常的に吸う紙巻たばことは別に、大きな仕事がひと段落した日や少し着飾って贅沢をする休日など、ちょっと特別な、ハレのときの一服としてご提案できるブランドだと思います」

価格もデザインも高級な「ソブラニー」は、まさにユーザーが喫煙シーンを選びたくなるブランドであり、特殊たばこに精通するアイメックスだからこそ扱える紙巻たばこと言えるだろう。

「RRPなどマスに向けた領域の商品は、JTが展開していますからね。JT本体では取り扱いが難しい領域の商品も扱える我々くらいは、厳しい環境下でたばこを愛するお客様に向けて、その楽しみを後押しするような商品を投入していきたい。それが我々の使命ですし、その意味で『ソブラニー』は当社に相応しいブランドだと考えています」