「ランドクルーザー」「Gクラス」「ジムニー」など、タフで本格派なクルマが日本でも大人気となっている。これらは「ラダーフレーム構造」を持ち、「クロスカントリー4WD」(クロカン4WD)に分類されるクルマだ。クロスカントリー4WDにはどのような歴史があり、どんな特徴があるのだろうか。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    大人気の「クロスカントリー4WD」にはどんな特徴がある?(写真はトヨタの新型「ランドクルーザー」)

軍用を前提に誕生した頑丈なクルマ

悪路走破性を持ち味とするクロスカントリー4輪駆動(4WD)車は、第二次世界大戦などで軍用車両として誕生したり、戦後の軍用車両を基にして生まれたりしている。米国の「ジープ」はその代表で、トヨタ自動車の「ランドクルーザー」も戦時中に開発された技術が祖といえる。

三菱自動車工業は戦後、ジープの国内生産車として「三菱ジープ」を製造していたが、その4WD技術をいかし、1980年代に「パジェロ」を発売した。英国の「ランドローバー」は戦後の生まれだが、ジープを手本にしたとされる。日本でも人気のあるメルセデス・ベンツ「Gクラス」は、1979年に欧州のNATO(北大西洋条約機構)軍で採用された「ゲレンデヴァーゲン」が元祖だ。

  • トヨタジープBJ型
  • 三菱自動車「パジェロ」
  • 左は「ランドクルーザー」の始祖「トヨタジープ BJ型」、右は三菱自動車「パジェロ」の初代

いずれのクルマも軍用を前提としたため、どのような路面状況でも乗り越え、前進しなければならないという使命を負ってきた。また、万一の接触や故障に際しても、走行を続けられたり、修理しやすかったりすることが求められる。

例えばジープの場合は、部品が左右対称になっているので、片方の部品しか手に入らない場合でも修理できる。各所で使われるボルトの径をそろえ、さまざまな部品や機能を取り付ける際に応用できるようにもしていた。

世界で累計1,060万台が売れているというランドクルーザーも、開発主査が自ら現場を視察し、どのような場所を走っているのか、整備や修理がどのように行われているのか、どのような機能が求められているのかといったことを知ったうえで、開発を進めているそうだ。主査からは「日常的に未舗装の泥道であったところが、雨が降ると川のようになってしまうことがあります。それでも、日常的にその道を使っている人たちは、往復ができなければ暮らしが立ちゆかなくなることはもとより、命にかかわる事態も生じかねません。そのような場所でも、確実に走り切れることが求められるのです」という話を聞いたことがある。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    「ランドクルーザー」は「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」であることを使命とする

悪路をものともしない「ラダーフレーム構造」

こうした背景を持つクロスカントリー4WD車の特徴のひとつが、車体とフレームが別々になっている構造だ。「ラダーフレーム」と呼ばれる梯子(はしご)のような形をした骨格にエンジンや変速機、サスペンションなどを取り付け、クルマを作る。ラダーフレーム構造のクルマであれば、たとえ人が乗る車体部分に損傷を受けても、走る=前進するための機能が骨格に取り付けられているので、進み続けることができる。

  • 新型「ランドクルーザー」のラダーフレーム

    新型「ランドクルーザー」のラダーフレーム。梯子のような形の頑丈なフレームにエンジンなどを取り付けてある

1950~1960年代には、乗用車もラダーフレーム構造を採用していた。トヨタ「クラウン」は1991年の9代目までラダーフレームを使い続けていた歴史がある。タクシーとして走行距離が数十万キロを超えることも珍しくなかったので、耐久性を重視した結果だろう。クラウンがフレーム構造の採用をやめてモノコック車体になったあと、トヨタは1995年から、タクシーなどの商用にも使えるクルマとして「クラウンコンフォート」を発売している。

ラダーフレームを持つクルマは頑丈である一方、走行性能では、ことに高速域での操縦安定性でモノコック方式に一歩を譲る。

モノコック方式はフレームと車体を一体とし、車体の床部分を補強することで別体のフレーム構造をなくす手法だ。サスペンションなどを車体側に取り付けることで、客室のある車体とタイヤを取り付けるサスペンションがひとつの構造でつながるため、走行性能を高められるという利点がある。ただ、接触などにより車体が歪むと、サスペンション取り付け部も一緒に歪んでしまい、走行不能に陥る可能性がある。

  • ランドローバーの新型「ディフェンダー」

    ランドローバーの新型「ディフェンダー」は、先代モデルまで採用していたラダーフレーム構造をやめ、モノコックになったことでも話題を呼んだ

人気のSUVは乗用車を基に開発されたのが発端であり、車体構造は基本的にモノコックだ。これに対し、悪路走破性を第一とするクロスカントリー4WD車は、今日なおフレーム構造を別に持つことが特徴となっている。

舗装路で日常的な乗り方をする場合、フレームを持つクロスカントリー4WD車の乗り心地はややフワフワするというか、揺れが大きいというか、どこか捉えどころのない印象を与えるかもしれない。それは、フレームと客室のある車体が別体であるためだ。もちろん、クルマとしては一体のものだから、フレームと車体の取り付けが緩いということはない。それでもモノコック式に比べれば、つなぎ目の境がある分、上と下とで時間差があるような動きになりやすい。それがフワフワ感の原因だ。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    新型「ランドクルーザー」も舗装路では少しフワフワする乗り心地だった

未舗装の悪路では路面の凹凸により、左右のタイヤで上下の差が非常に大きくなるときがある。前後左右で路面の凹凸形状が異なり、対角線上に前後のタイヤが上と下になって、タイヤが地面から浮いてしまうようなことも起こる。そのような過酷な場面でも、可能な限り4つのタイヤが設地できるよう、クロスカントリー4WDのサスペンションは上下に動く移動領域が大きくとってある。いつでも、どのような路面の凹凸であっても、タイヤが十分に上下して接地できるように、サスペンションが動きやすくしてあるのだ。そのため、舗装路を走る際もタイヤが上下に動きやすいので、フワフワと感じたり、揺れが大きいと感じたりする乗り心地になるわけだ。

舗装路では、運転操作や加減速をほかの乗用車に比べゆっくりと行うことで、余計な揺れを抑えることができる。日常的にクロスカントリー4WDを利用するときは、ゆったり構えた気分で、のんびり運転するといい。

未舗装路を走る可能性はあるものの、ほとんどは舗装路で高速道路の利用も多いという人は、SUVを選ぶといいだろう。モノコック車体なので、クロスカントリー4WDに比べしっかりとした手応えが得られる。