スマートフォンゲーム「モンスターストライク」でおなじみのミクシィが、2021年9月2日に、暗号資産取引所ビットバンクへ約70億円を出資すると発表しました。
"当社(ミクシィ)が培ってきたサービス開発やマーケティングに関するノウハウと、ビットバンク社の持つブロックチェーン等様々な最新技術を相互に活用"すると述べていますが、どのような施策が考えられるでしょうか。本記事で一緒に深読みしてみましょう。
プレスリリース情報まとめ
- 2021年9月2日にミクシィとビットバンクとが資本業務提携を発表
- ミクシィが約70億円をビットバンクへ出資する。出資は2021年9月30日予定
- 出資後ミクシィはビットバンク株を約26.2%保有し、持分法適用会社に
- ビットバンクの既存株主「セレス」も約5億円をビットバンクへ追加出資
- 合計約75億円の出資を受けたビットバンクは手元資金が約150億円となる
※引用元:ミクシィ プレスリリース「ビットバンク株式会社との資本業務提携に関するお知らせ」
●用語
・暗号資産取引所
別名、仮想通貨としても知られるビットコインやイーサリアムなどの暗号資産と日本円とを売買できるサービス。日本国内では30社以上の企業が取引所を運営している・ブロックチェーン
暗号資産を実現するデータ・ネットワークのこと。中央で管理するサーバーや管理者がなく、ネットワークに接続するサーバーがデータを分散して保持し、また記録するデータを監視している。
ミクシィが出資した主な目的は、NFT事業の早期展開か?
ミクシィがビットバンクに出資し、資本業務提携した狙いは、2021年に国内外でブームとなった「NFT」(ノン・ファンジブル・トークン)コンテンツの事業展開が考えられます。NFTとは何かは、後段で詳述します。
同日にビットバンク側が行ったプレスリリースで、セレス社が"資本増強をミクシィ社と共に行うことによって、IEO、カストディ、NFTなど拡大する暗号資産・ブロックチェーン市場において、国内No.1事業者になることができると確信"と述べています。
この中で、ミクシィが主体で事業化できるのが「NFT」です。
ミクシィが手がけるコンテンツのNFT化は確度が高そうです。例えば、モンスターストライクのゲーム内で使えるアイテムのNFT化などです。
他2つはそれぞれ、
- IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)は、暗号資産(仮想通貨)を取引所で新規に上場させるビジネス
- カストディは、投資家や他の取引所の暗号資産を預かるビジネス
であるため、取引所が主体での事業となるためです。
NFTはミクシィのみでも作れますが、暗号資産取引所との密な連携によって、事業拡大が早くできそうです。ミクシィが作ったNFTをすぐに取引所で売買できる効果もあります。
インターネット企業として競合となるGMOグループやヤフーグループなどもNFT事業を発表しており、それに続くのが急務であると、ミクシィが考えたともいえます。
※参考:プレスリリース
・GMOインターネット:2021年6月16日 NFTマーケットプレイス「Adam byGMO」を通じコンテンツ流通革命をもたらす新会社「GMOアダム株式会社」を設立!
・ヤフー:2021年7月27日 Yahoo! JAPANとLINE、二次流通市場拡大に向けNFT領域で連携
NFTとは、デジタルコンテンツに資産価値を見出す暗号資産の一種
NFTはよく、「非代替性トークン」と説明されますが、ざっくりいうと「所有権を暗号資産化したもの」です。
デジタルアート作品などのデータをNFT化すると、価値を持たせられるので、投資家の新たな投資対象として、またアーティストの新たな収益源として、注目されています。
暗号資産と同じように売買できるほか、コンテンツのNFT化をしたアーティストには、売買の都度、手数料が入る仕組みが作れます。
中古売買などの二次流通では手数料収入が無かったアーティストに対して、対価が支払われるようになります。
アーティスト視点では「売り切り」だったコンテンツが、NFTによって利息を生む「資産」に生まれ変わるのです。
ちなみに、2021年9月現在では、デジタルコンテンツのような形の無いものには、所有権の対象となっておらず、法的に所有権の主張はできません。将来性への期待感に投資マネーが集まっているので、注目度の高さが伺えます。
一見すると、デジタルデータの販売所に見えますが、売買の対象となっているのはデジタルコンテンツのNFTです。OpenSeaは、海外発の最大手NFTマーケットプレイスとして知られています。国内では仮想通貨取引所のCoinCheckが運営するCoincheck NFTなどがあります。
ミクシィがNFT事業を手掛けた場合、スポーツ市場開拓で他社と差別化できる
プレスリリースには記述が見当たりませんが、ミクシィの差別化契機が、スポーツ市場開拓にありそうです。
ミクシィの投資家向け資料であるアニュアルレポートを見ると、2019年からスポーツ市場開拓に注力していることがわかります。プロバスケットボールチームの子会社化や店舗でのスポーツ観戦ができる飲食店の検索サービスのリリースなど多岐にわたります。(下図)
NFT事業が差別化できる理由は以下の2つが考えられます。
北米のプロバスケットボールリーグ(NBA)でNFTコンテンツ展開があり、2021/5/31時点では取引高が1位になるほどの活況っぷり
国内のプロ野球・サッカーのファン人口が減少傾向であり、ファン増加のきっかけにNFTが使えそうだから
日本総研が2021年6月10日に発表した「【IT動向リサーチ】NFT(Non-Fungible Token)に関する動向」によれば、NFTサービスの総取引額の1位がNBA Top Shotのコンテンツです。(下図)
NBA Top Shot では、NBA選手のデジタルトレーディングカードがNFT化されています。1枚1000万円を超えるものもあり、取引の活況さがわかります。紙のトレーディングカードと異なり、プレイ中の動画データがデジタルカードになっている特徴があります。
また、マクロミルが2020年10月27日に発表した「【速報】 2020 年スポーツマーケティング基礎調査」によれば、日本のプロ野球、Jリーグチーム、サッカー日本代表のファン人口数は減少傾向だとわかります。(下図)
ミクシィはアニュアルレポート中でスポーツ市場開拓のソーシャライズ戦略、つまり、一人で楽しむのではなく家族や友だちなどと一緒に楽しむ場体験を提供すると述べています。
例にあげたデジタルトレーディングカードは、友だちなどと交換したり、投資家と売買したりなど、コミュニケーションの場つくりに一役買いそうです。つまり、プロスポーツ組織の知名度上昇や、売上増加の期待が持てるというわけです。NFTブームに乗じて、効果が増幅するかもしれません。
折しも、ミクシィはプロバスケットボールチームを子会社化していますから、NBA Top Shotのようなコンテンツを試験的にでも作りやすい状況にあります。
拡大を続ける暗号資産市場の波をミクシィは乗りこなせるか?
米国のリサーチ会社「アライドマーケットリサーチ」社は、暗号資産市場は2030年に約5400億円(49.4億ドル)と予測しています。2020年では約1640億円(14.9億ドル)ですから、約3倍以上の規模になります。
ビットバンクでの暗号資産の取引高が増えていくのは自明ですが、取引高増に対してミクシィが業績を上げられるでしょうか。
ここ数年右肩下がりで、2021年3月期決算で回復の兆しを見せるミクシィが打つ、次なる一手の動向に目が離せません。