アイドルグループ・Sexy Zoneの佐藤勝利が初の単独主演を務めるPARCO PRODUCE『ブライトン・ビーチ回顧録』が東京芸術劇場 プレイハウス(9月18日~10月3日)、京都劇場(10月7日~13日)にて上演される。ブロードウェイを代表する名コメディ作家ニール・サイモンによる同作は、サイモン自身の少年時代を描いたとされ、貧しくもたくましく生きるユダヤ人一家と、性に目覚め、戸惑いながらも成長してゆく思春期のユージンの姿を描く。

今回、佐藤演じるユージンの兄・スタンリーを演じるのが、声優としても活躍する入野自由だ。「ニール・サイモンの作品に挑戦してみたい」と思っていたという入野に、同作への思いやジャンルを超えて活動することについて話を聞いた。

  • 舞台『ブライトン・ビーチ回顧録』に出演する入野自由

    入野自由 撮影:友野雄

■肩書きではなく、作品や芝居を見てほしい

――まず、作品が決まった時の印象を教えてください。

率直に嬉しかったです。戯曲を色々と読むようになってから、いつかニール・サイモンの作品に挑戦してみたいなと思っていましたし、パルコさんとご一緒するのも12年前の『露出狂』以来だったので、そのことも嬉しかったです。

――戯曲を読むと、入野さんが出演されていたミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』と少しつながる部分もあるように思いました。

時代的に近いところがありますし、僕もつながるものは感じました。海外留学をしていた時にユダヤの文化に関係する場所も巡っていたので、その経験も少し生きてくるのかな、と感じています。

――今回は佐藤勝利さんと兄弟役になりますが、どのような印象ですか?

こんな弟がいたら、もう最高です(笑)。ご本人の持っている優しさや気遣いを感じていて、勝手に本当の弟のように思っています。もちろんテレビで活躍される姿や楽曲はこれまでに見たり聞いたりしていますが、すごくフラットな状態で関係を作っていくことができるんじゃないかな。2人でいるシーンはずっとかけあいなので、遠慮せずに全部話せるような空気になっていければ嬉しいです。

――勝手に入野さんに「6人兄弟の末っ子」みたいなイメージもありますが…。

僕自身は一人っ子ですが、4歳からずっとこの仕事をやらせてもらっているので、末っ子気質は備わっているかもしれません。20代に入ると年下の後輩と接するようになって、30歳も過ぎると現場でもちょうど真ん中くらい。年下だから、年上だから、ということはなく、フラットにいられる方だと思います。

――もちろん声優としても活躍されてますし、舞台でもすごく活躍されている入野さんですが、その切り替えや違いについてどのように感じていますか?

自分でも、常々考えて悩んでいるところなんです。「どういうところが違うんですか?」と聞かれますが、僕自身もまだ探しています。 行動や感情の流れがちょっとずつ違うということは感じています。アニメは絵も芝居をしているので、それに自分が合わせていくけど、舞台は自分の身体を使っていくから、芝居をする上で気にする部分が違うのかな?

でも、それぞれの面白さを知っているので、どちらかに偏ることなく携わっていければと思います。自分が声優として生きていくための武器も、舞台や映像という様々なフィールドで培えるだろうし、その逆もあるし。自分が声優なのか俳優なのか歌手なのか、ジャンルはもう関係ないと思っていて、「入野自由」として知っていただければ嬉しいです。

――時代的にも、ジャンルレスというか、分野を横断して活躍している方が多いですね。

芸人さんが芝居をされたり、逆に声優がコントに出たりもしていますよね。本当にノンジャンルになっていけばいいなと思います。肩書きではなく、その作品や芝居に目が行くようになるといいし、自分もそうありたいです。

――今回の作品で言うと、注目してほしい、面白いと思ったのはどのようなポイントですか?

すごいなと思うのは、登場人物全員がチャーミングでいきいきとしているところ。実際そんなに大変な事件は起きてないんだけど、それぞれにとっては抱えているものは大きなことだというのが、より共感できるポイントだと思いました。それから、忘れてはいけないのが時代背景です。芝居の表層にどれだけ出てくるかは別にしても、知っているのと知らないのとでは変わってくる部分は確実にあります。台本を繰り返し読んでいく中で、ある日突然「ここはなんでこうなんだろう」と引っかかったりするので、読んで調べてということを続けていくしかないと思っています。

■留学の経験「選択して良かった」

――先ほども海外留学のお話が出てきましたが、実際にどういうことをされていたんですか?

最初はイギリスで語学学校に行って、カリキュラムが終わった後はカバン1つで色々なところをまわりました。その後はイギリスに戻ってレッスンを受けたり、舞台を観ていたりしました。デイシートというのがあって、当日の朝ボックスオフィスに行くと安く最前列で観れたりするんです。『Wicked』『Kinky Boots』『Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812』と、その時に上演されていたものは基本的に観るようにしていました。

僕は以前にデヴィッド・ルヴォーの演出を受けた(『ETERNAL CHIKAMATSU』)ことがあるんですが、ダニエル・ラドクリフくんがルヴォー演出を受けた『Rosencrantz & Guildenstern Are Dead』を観ることができたのも良かった。英語がすごくできるわけじゃないので、わからないこともあるんです。でもとにかく「明日、何を観よう」と考えて劇場に通う毎日が楽しかったです。

――2016年に翌年の留学のための活動休止を発表された時は驚いた方も多かったと思いますが、今では難しいということも含めて貴重な経験ですね。

自分ではあまり特別な感じはなくて、もう、とにかく行きたかったんです。あの経験があるかないかでは多分今の作品についての感じ方も違っていただろうし、僕はその選択をして良かったと思っています。

――それでは、改めて作品を観に来てくださる方に向けてのメッセージをいただければ。

ニール・サイモンを代表する1つの作品で、全てが詰まっている感覚がありました。皆さんにも楽しみにしていただきたいですが、正直、自分自身が1番楽しみにしています。ぜひ会場に足を運んでいただけると嬉しいです。

――入野さんが演じるスタンリーは、実は三部作(『ブライトン・ビーチ回顧録』『ビロクシー・ブルース』『ブロードウェイ・バウンド』)の3作目にも出てくるんですよね。

その話もすごくいいんです。だから、三部作を全部読んでから来ても面白いかもしれない。僕は全て読んだんですけど、よりニール・サイモンが好きになりました。観てくださる方も、きっと作品に加えて一人ひとりの登場人物のファンになって帰っていただけると思います。

■入野自由
1988年2月19日生まれ、東京都出身。4歳から芸能活動を始め、2001年に公開された『千と千尋の神隠し』ではオーディションでハク役を射止める。声優、歌手、役者として幅広く活動し、近年の出演作にアニメ『おそ松さん』シリーズ(15年~)、『モブサイコ100』(16年~19年)、『プラチナエンド』(21年)、『平家物語』(21年)、ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(13年、17年~18年)、KERA CROSS第2弾『グッドバイ』、ミュージカル『ボディガード』、ミュージカルコメディ『Gang Showman』、舞台『ピーター&ザ・スターキャッチャー』(20年)など。