藤井二冠は棋王戦挑決トーナメントでの初勝利を挙げた

第47期棋王戦(主催:共同通信社)挑戦者決定トーナメントの▲藤井聡太二冠-△斎藤明日斗四段戦が9月2日に東京・将棋会館で行われました。結果は105手で藤井二冠が勝利。ベスト16に駒を進めています。


ベスト16以上からの第47期棋王戦挑決トーナメント表。敗者復活戦は省略

今期も驚異的な成績を残している藤井二冠。この対局前までで年度成績は24勝5敗、勝率8割2分8厘。棋王と王位のタイトルを防衛し、叡王戦ではタイトル奪取まであと1勝、竜王戦の挑戦者にもなっています。

一方の斎藤四段も今期好調。17勝6敗、勝率7割3分9厘の成績を残しています。その途中では12連勝も記録していました。

振り駒で先手番になった藤井二冠は、相掛かりを選択。斎藤四段も相掛かりを得意としています。

相掛かりにおける先手の飛車の位置は2六か2八のどちらかが主流となっています。藤井二冠は飛車先の歩を交換した後、飛車を▲2八飛と自陣まで引き揚げました。

両者は右銀を中央に繰り出していき、ともに腰掛け銀の構えを採りました。まだまだ駒組みが続くのかと思われた局面で、藤井二冠は▲9七角と上がって揺さぶりをかけます。これが機敏な動きでした。

6四の歩を守るために、斎藤四段は△5四銀と上がったばかりの銀を、△6三銀と撤退。逆に藤井二冠は▲4五銀と、さらに銀を進出させることに成功しました。斎藤四段は序盤について、「▲9六歩・△1四歩の形はやってみたかった形だったんですけど、少し駒組みが軽率で。早めに8筋の歩を切っておけば本譜のような筋はなかったので、▲9七角と出られてから苦労の多い将棋になってしまいました。(▲2八飛の)引き飛車をメインに研究できていなかったので、そのあたりは反省点かなと思います」と局後に振り返りました。

一方の藤井二冠も「▲9七角と出たあたりから見慣れない形になって、その後はずっと判断が難しいと思って指していました」と、未知の局面を手探りで進めていたと明かしました。

▲9七角~▲4五銀によって、後手にいびつな駒組みを強いることに成功した藤井二冠は、すぐに後手陣の弱点を突く攻めを繰り出します。1筋から端攻めをしたのがそれで、銀桂交換の駒損ながらも成桂を敵陣に作って優位に立ちました。

形勢が良くなっても、藤井二冠の攻めは緩みません。成桂で角を取れる局面で、駒得には目もくれずに▲3四歩と垂らしたのが好手。さらに自陣の桂を▲4五桂と活用し、後手玉を寄せにいきます。

斎藤四段もと金と成香で反撃します。そして△5九銀で飛車取りをかけ、藤井玉も危なくなってきました。一方の斎藤玉には詰みがない局面。素人目には形勢が詰まったか、と思われましたが、藤井二冠は華麗な決め手を用意していました。

それが銀に取られそうだった飛車を切って香を入手する▲4八飛。相手の攻めに空を切らせつつ、香を手に入れれば後手玉が詰むという美しい組み立てです。もはや手段のない斎藤四段はやむなく飛車を取りますが、▲7二歩と打って以下は斎藤玉は即詰み。斎藤四段の投了となりました。

本局は中盤で優位に立った藤井二冠が、そのまま優勢を拡大していくという横綱相撲での勝利。隙の一切ない、完勝と言っていい内容でした。

敗れた斎藤四段は「予選決勝はいい内容の将棋が指せて、その勢いで本戦も行けたらなと思ってはいたんですけど、今回実力不足を痛感した内容でした。来期はもっといい将棋を指せるように頑張りたいと思います」と今期の棋王戦について語りました。

一方の藤井二冠は意外なことに、この勝利が棋王戦の挑決トーナメントでの初勝利。初のベスト16進出です。次の対戦相手は斎藤慎太郎八段。そのことについて問われると、「棋王戦はこれまであまり上に行けていないので、厳しい戦いが続きますけど、少しでも上に行けるように頑張りたいなと思います。斎藤八段は一手一手丁寧に読みを入れられる印象がありますので、こちらもしっかり考えて、いい内容にできればなと思います」と意気込みを語りました。

強い内容で勝利した藤井二冠(提供:日本将棋連盟)
強い内容で勝利した藤井二冠(提供:日本将棋連盟)