日本有数の観光名所として知られる「箱根」。2013年に富士山が世界遺産登録され、以降コロナ禍以前は外国から訪れる観光客が急増し、一層の賑わいを見せていた。

そんな箱根の玄関口と言える、小田急箱根登山鉄道・箱根湯本駅に2021年3月から設置されているのが、"Sota"という名のAIロボットだ。

音声認識機能と発話機能を搭載し、挨拶など簡単なコミュニケーションを行えるとともに、併設のタブレット端末と連携して、箱根湯本駅周辺や箱根全体の施設、観光スポット、アクセス方法、箱根フリーパスといった乗車券、施設の前売り券情報など観光客に有益な情報を紹介している。

  • 箱根湯本駅に設置されたAIロボット"Sota"

箱根の観光情報をデジタル面でも強化

以前からICTを活用した施策に積極的に取り組んでいる小田急箱根ホールディングスでは、これまでにも『箱根ナビ』というポータルサイトを開設し、地元の観光協会とも連携して、公共交通の運行情報をはじめ、観光スポットや地元企業の情報をウェブ上でも発信している。

小田急箱根ホールディングス 営業統括部アシスタントマネジャーの市原健太氏は、「箱根には、ロープウェイや海賊船など天候に左右される乗り物もあって、できる限りリアルタイムでの情報を提供したいと思っています」とその目的を語る。

2020年6月には、従来のリアルタイムの運行情報に加え、待ち時間情報の多言語配信を新たに開始するなど、システムを刷新。さらに、箱根町観光協会とも連携し、大涌谷の駐車場の満空情報や、国道1号線の渋滞情報などを箱根町観光協会の公式サイトに集約し、シームレスな情報発信も開始しているそうだ。

  • 小田急箱根ホールディングス 営業統括部 アシスタントマネジャー 市原健太氏

箱根に急増する外国人観光客

一方、2018年前後からインバウンドで急増している外国人旅行者に対して、多言語による情報展開にも力を入れる。箱根湯本駅に設置されたSotaも、日本語、英語、中国語の3ケ国語に対応して、観光客を迎え入れる。

小田急トラベル インバウンド事業部 小田急旅行センター 箱根湯本の相原徹也氏は「湯本は箱根の玄関口ですから、観光客に不便をかけないようにという思いがあります。しかし、多言語で対応するとなるとやはり人手も限られ、なかなか難しいところがありました。Sotaを導入したのは、言葉の問題を解消したいというのが大きな理由です」と説明した。

「試しにやってみませんか?」と、Sotaの設置を提案したのは、NTT東日本。まずは2019年3月末から5月末にかけて実証実験を行った。4ケ国語に対応したAIロボットを通じて、ユーザーからの問いかけや利用履歴のデータを収集して分析を行い、実用性や有用性、利活用の方法の検討につなげているのだ。

導入を推進している、NTT東日本 神奈川事業部 地域ICT化推進部の坂本一平氏によると、「多かった質問は、『お手洗いはどこですか?』といった基本的な質問や簡単な挨拶。どの言語で何に関する質問が多いかなど、箱根の新たなマーケティングデータとして今後の施策を考える上で大いに参考になっています」と明かした。

  • NTT東日本 神奈川事業部 地域ICT化推進部 坂本一平氏

相原氏も「芦ノ湖を"足の甲"と認識していたり、英語圏の方が温泉を"インセン"と発音していたり、そうしたことがすべてログとして残っています」と、興味深い結果の一例を紹介した。

導入前後も運用中の現在も、NTT東日本が全面的にバックアップとサポートしている。坂本氏は「設置の前月の2月からは、1日4時間ぐらいはZOOMで会話していましたね。最後は小田急グループさんのオフィスに出社して、もう文化祭の前日のノリでした」と笑いながら振り返る。

市原氏も「グループ内でというのはこれまでにもありましたが、ここまで外部の方が入り込んでというのは初めてでした」と明かす。

同じ営業統括部で、おもに海外向けの箱根の情報やキャンペーンの企画を担当する胡瑜庭氏も「短期間で翻訳しなければならかったりするのですが、資料を用意してくださるなど、対応が本当に早くて大変助かりました」と続けた。

  • 小田急箱根ホールディングス 営業統括部 胡瑜庭氏

Sotaを活用した観光促進

設置後の運用は概ね順調とのこと。「3月に設置した直後の1週間ぐらいはフリーズするなど多少のトラブルがありました。システムを再起動すれば解消するものもあれば、そうでないものもあたったり、単に電源コードが抜けていたりといろいろでしたが、試行錯誤をしながら安定的に稼働できるようになりました。カウンターの方々も積極的に対処してくださり、大きなトラブルがなく運用できています」と坂本氏。

コロナ禍による観光客減少のため、現在は残念ながら想定していたほどには活用されていないという。

「平日は15回ぐらい、休みの日は60回ほどで、平均すると1日30回程度利用されています。検索で多いのは、スポットだとユネッサンや大涌谷の情報。あとは、チケット、トイレの場所、観光地の情報ですね」と現状を語る。

  • 箱根周辺の観光地情報をSotaに尋ねる観光客は多い

Sotaは入力デバイスであると同時に、AIロボットでもあり、クラウド上に集められたデータをもとに次第に進化していくのも利点だ。相原氏はその存在を「いまや相棒」と語り、高く評価する。

「多言語対応だけでなく、駅でのご案内の現場が本当に楽になりました。日本語でもイントネーションが違うと正しく音声認識ができないとかはあるので、そういう曖昧な部分を私のほうでも補足しながら運用し、ログから得られた誤認識を教え込むことで賢くなってきています。私にとっては助手以上の存在ですね」

坂本氏は「Sotaはアイキャッチなマスコットでもあるので親しみやすく、データ集めに適しているのもメリットですね。そして、ログをもとにデータを追加していくと精度が向上し、参照するデータは、パワーポイントとエクセルを用意すればいいだけなので専門知識も必要がありません。今はコンテンツの修正や増設を3ケ月ごとにやっています」とその使い勝手の良さに自信をのぞかせる。

Sotaによる観光促進の今後の展望や目標については「よりマクロ的な傾向を分析して、外国人向けの施策や、日本人の観光客が楽しめるデータが作れたらいいなと思っています。集めたデータや弊社の技術を使って、観光資源をより楽しめる面白い使い方を地域で模索し、箱根全体を盛り上げていきたいです。ここでの成果は箱根以外の観光地でも活用できると思います」と坂本氏。

「今後もSotaをPRしながら、Sotaを通じて集めたデータをうまく活用したコンテンツを作っておもてなしをしてきたいと思います」と、Sotaを活用した箱根の楽しみ方について、市原氏は手ごたえを感じているようだ。

  • 右から、小田急トラベル インバウンド事業部 小田急旅行センター 箱根湯本 相原徹也氏、小田急箱根ホールディングス 営業統括部 アシスタントマネジャー 市原健太氏、小田急箱根ホールディングス 営業統括部 胡瑜庭氏、AIロボット Sota、NTT東日本 神奈川事業部 地域ICT化推進部 坂本一平氏

※Sotaはヴィストン株式会社の登録商標です