一般社団法人鉄道模型コンテストによる、高校生らが作り上げる鉄道模型ジオラマのコンテスト「鉄道模型コンテスト2021」が8月に開催された。九州大会と東京大会(全国大会)に分かれ、前者は8月14・15日に博多のJR九州ホールで、後者は8月20・21日に新宿住友ビル三角広場で開催。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインのみの開催だったが、今年は感染対策を行った上で2拠点に会場が設けられ、さまざまな力作が集った。
■全国高等学校鉄道模型コンテスト、学生の作品に驚きと感動
全国高等学校鉄道模型コンテストは、モジュール部門、1畳レイアウト部門、HO車両部門に分かれている。モジュール部門では、直線モジュールは長辺900mm×短辺300mm、曲線モジュールは一辺600mmの規格のモジュールボードを使用したジオラマ作品が出展された。その中心に複線線路が必ず配置されるため、その上でどうやって情景を作り上げるかが気になるところ。
いくつかの学校の生徒にも話を聞くことができた。桜丘中学高等学校は東海道本線根府川駅のモジュール作品を制作。左側の白糸川橋梁から右側の根府川駅ホームに向かって、季節が春から冬に移り変わっており、崖に生えている樹木を見るとその様子がよくわかる。
東京都立戸山高等学校の作品は、中央本線定光寺駅のモジュール。この作品では、18年前に閉業したまま残っているという旅館「千歳楼」が強く印象に残る。建物だけがそのまま残り、だんだんと植物に浸食されているところや、割れてもなおそのままになっている窓ガラスを的確に表現しており、完成度の高い作品と見受けられた。
奈良県から参加した奈良工業高等専門学校は、京都の鴨川を中心に置いたモジュールを制作。三条から五条までの建物と、三条大橋の架かる鴨川沿いの魅力を凝縮した。川岸の石垣は、小石を細かく積み上げて作られている。地下は京阪電車三条駅になっており、コンコースとホームが作り込まれている。一見複雑そうな構造だが、その工程を見事に成し遂げ、出展に至った。
会場前方のステージでは、各校が自身のモジュール作品のプレゼンを行い、制作工程や作品の見どころなど紹介していた。会場に来られなかった参加校も、会場に展示された自身の作品をオンラインでプレゼン。その様子は、全国高等学校鉄道模型コンテストの公式Youtubeチャンネルにてリアルタイムで配信された。アーカイブも残っているので、会場に来られなかった人も視聴できる。
続いて一畳レイアウト部門。1,200mm×600mm~1,820mm×910mmの範囲でNゲージレイアウトを制作する。モジュールレイアウトとは異なり、線路が1周つながっているため、各校が用意した車両を会場で走らせることもできた。ステージ上でのプレゼンは行わないものの、1周つなげた線路を生かして列車が走り、動きのある情景で来場者の注目の的になっていた。
一例として、東京都立大崎高等学校は肥薩線の球磨川第一橋梁のレイアウトを制作。橋梁が紙で作られていることに驚いた。外観はもちろん、内部補強もすべて紙で組み上げ、橋梁の赤い塗装や「球磨川第一橋梁」の白い文字も手書きで再現。奥の山には生徒が自作した木が無数に植樹されている。並大抵ではない苦労があったと思われるが、それに見合った迫力ある情景が作り上げられた。
城北高等学校の1畳レイアウトは、青梅線をモデルにした作品。駅は古里駅がモデルとのことだが、青梅街道を再現できるようにあえてカーブにしたり、山岳区間としてループ線を設けたりするアレンジを行いつつ、実物の見どころがNゲージサイズで凝縮されていた。青梅線は電化区間ゆえに、線路上部に架線も張られてあり、再現度の高さがうかがえた。
HO車両部門では、参加校の生徒らが自作したHOスケールの鉄道模型を展示。その中から、秋田臨海鉄道DD56形のコンテナ貨物編成を制作した芝浦工業大学附属中学高等学校に話を聞いたところ、車両・コンテナ・台枠をペーパーで自作しており、その上でウェザリングも行い、リアル感を追求したそう。非常にわかりにくいコンテナの違いも見事に再現し、迫力ある作品になった。
コンテストの結果は2日目の午後に発表。今年はモジュール部門・1畳レイアウト部門の両方で、白梅学園清修中高一貫部が最優秀賞(モジュール部門は文部科学大臣賞と呼称)に選ばれた。
白梅学園清修中高一貫部のモジュール作品は、どこか懐かしさを感じる空想の風景。曲線の線路を境に、外周には田園風景、内周には屋台でにぎわう祭りと山の上に立つ神社を配置した。中でも田んぼの稲は、2カ月かけて1本1本植えたとのこと。屋台や樹木も数多く、手間のかかる作業だったのではないかと思われるが、その分だけ密度が濃く、見る者を引き付けるリアルな情景に感じられる。
一方の1畳レイアウト部門では、スタジオジブリ制作の映画『紅の豚』の世界観をレイアウトで再現。イタリアの町並みを自作の建物で表現したほか、レイアウトの随所に作中で描かれた要素を盛り込み、映画の世界を疑似体験できる作品としている。走行車両にはKATOの「チビロコ」を使用しており、マンション内に隠した急カーブの線路に対応しつつ、車両もレイアウトになじんでいた。
どちらも作品も、水の表現が非常に美しく仕上がっている。生徒らによれば、レジンを流して固めることで水面を表現したとのことで、鉄道にあまり興味がなくても楽しめるようこだわっていた様子だった。モジュール作品では田んぼと川の反射が美しく、1畳レイアウトでは飛行艇が離陸したときの水の流れや波しぶきも再現しており、迫力のある場面が作られていた。
モジュール部門の優秀賞は、ベトナム最古の鉄橋「龍編橋」(ロンビエン橋)を再現した灘中学校・高等学校と、旧三江線宇都井駅の情景を制作した江津工業高等学校が受賞。1畳レイアウトの優秀賞は、伊豆急行の世界観を表現した岩倉高等学校が受賞した。HO車両部門では、翔洋学園高等学校の鉄道用クレーン車KRC810Nが最優秀賞を受賞し、群馬県立高崎高等学校の国鉄ホキ800形貨車が優秀賞を受賞。他にも部門ごとに加藤祐治賞、審査員特別賞など多数の賞が用意され、それぞれの部門で多くの参加校が受賞を果たした。
多数の出展作品を見学しながら、すべてを紹介できないことが非常に心苦しい。各校の生徒らが精魂込めて作り上げた作品には、作り込みの細かさ、リアルな情景、ユニークな発想など、それぞれ違った良さがある。単に「上手」というひと言だけで表すことはできない。筆者も各校の作品を通じて、生徒らが作品に込めた熱意を感じ取ることができた。
今回掲載しきれなかった作品を含め、出展作品は「鉄コンアプリ」で閲覧可能。鉄道模型コンテスト公式サイトにてウェブブラウザ版も閲覧できる。