歯周病は歯周病菌によって引き起こされる歯ぐきの感染症ですが、この歯周病菌は全身に悪い影響を与え、ガンや糖尿病、動脈硬化など100種類以上の病気を発症・進行させる手助けをします。また歯周病があると内臓肥満になりやすいなど、生活習慣病にも密接な関係も。

今年3月の国会では、歯周病が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)合併症を悪化させる要因として、菅総理や大臣たちが歯周病対策に言及しました。

歯周病は単なる歯ぐきの病気ではなく、全身の健康からコロナにまで影響を及ぼす本当に怖い疾患なのです。今だからこそ知っておきたい情報をお伝えします。

歯周病の始まりは中学生から

菌が口の中に住み着く際は、毒性の低い菌から定着することがわかっています。年齢を追うごとに悪性度の高い菌が定着することになるのですが、途中で感染しないようにすれば、それ以上の悪い菌が入ってきても定着せずに流れ出てしまう特徴があります。不注意に感染を続けて一旦悪性の高い菌が定着すると、絶対に追い出すことはできずに、一生涯においてその菌と共生することになるのです。

赤ちゃんは、口の中が無菌の状態で生まれますが、生活の中で同居する家族の口中の菌が唾液に混ざり、食べ物や食器、箸などを経由して移ります(垂直感染)。虫歯菌が最初に定着しやすいのは乳歯が生えてからの1歳半から2歳半で、この期間を「感染の窓」と呼びます。

中学生になると、早くも歯周病菌が定着し始めます。しかしこの年齢では、毒性が大したことのない弱毒菌です。そして高校生になると、もう少し毒性が上がった"チョイ悪菌"が定着するようになり、さらに18〜20歳になると、毒性の高い悪玉菌が定着します。歯周病菌は他人の唾液から感染することが最も多いので(水平感染)、親しい友人との唾液が交流する行動は慎重にしたいもの。歯周病菌に限っていうと「若い時の過ちのやり直しは難しい」のです。

「歯周病物語」の幕は40歳頃に開く

20歳頃には既に歯周病菌は住み着きますが、口腔内の環境や体の免疫が菌より勝るので、症状は出ません。時々、30歳代で発症する人がいますが、これは体の組織と歯周病菌のバランスが崩れて歯周病菌が暴れ出す場合で、このような人は重度の歯周病に進行しやすので注意してください。

歯周病の症状が出ない時期から定期的に歯科医院でプロケアの予防歯科を受けている人は、歯周病の病原性が高くなりにくいのです。通常、症状は40歳を超えたくらいから出ます。

歯ぐきから出血のある人は高確率で歯周病

歯周病の最初の症状は「歯みがきの時の出血」です。出血のある人は歯周病が発症していると言っても過言ではありません。

歯周病は歯ぐきが腫れても自覚がありませんし、痛みもないので、発見が遅れる特徴があります。歯みがきの時の出血はとても大切なサインなのですが、ほとんどの人が「気のせい」と思い、見過ごしてしまいます。また、多くの人は「歯ブラシが歯ぐきに擦れて出たのだろう」と考えますが、これは大間違いで、出血は歯と歯ぐきの境目の内側の歯ぐきから出た血が中にたまり、歯ブラシで押し出されたものです。

そして、この出血は、歯周病の進行においてもとても危険な因子となります。歯周病菌の栄養源は血液なので、出血があると一気に悪性化が進み、超悪菌に豹変します。まるで"ほうれん草を食べたポパイ"のような状態で、ここから歯周病は悪化の一途を辿ります。

「以前、出血があったけど、今はないから治った」と考える人もいるようですが、これも危険な思い込みです。一旦、歯ぐきから出血すると、歯周病菌が修復しようとする歯ぐき細胞を歯周病菌が妨害して、絶対に傷口が自然に塞がることはないからです。

"感染の入り口"に注意! コロナウイルスはどこから体に入ってくる?

では、歯周病はコロナウイルスとどう関係するのでしょう? ウイルスは、ウイルス自身で生命維持や増殖する能力がないので、生物の細胞に寄生しないと死活問題です。言い換えるとわれわれ生物は、どうやってウイルスが体内に侵入しないようにするかが、とても大切になります。

基本的にウイルスは、皮膚から直接感染することはなく、粘膜や傷口から体内に侵入します。その侵入口はウイルスによって異なり、インフルエンザウイルスは気道粘膜、C型肝炎ウイルスは傷口から体内に入ります。そして、新型コロナウイルス(SARS-COV-2)はACE2受容体というタンパクがあるところで、これは肺などの臓器、舌など口腔粘膜にあります(1)。

肺にしても、舌にしても、ウイルスは口を通って感染することが多いわけですから、ウイルスが口に入らないようにすることが大切なのです。

また感染の水際対策として重要なことは、口の中の抵抗力を上げること。実はそのために必要なのは、国会で取り上げられたことも既述しましたが、歯周病対策なのです。歯周病があるとコロナウイルスが舌から侵入しやすくなり、万が一に感染した場合、重症化や合併症のリスクが高くなります(2)。

1)Elucidation of interactions regulating conformational stability and dynamics of SARS-CoV-2 S-protein. Mori T, et al. Biophysical Journal. 1060-1071, 120: 2021.
2)Association between periodontitis and severity of COVID-19 infection: a case-control study. Marouf N, et al. Journal of Clinical Periodontology. 483-491, 48: 2021.

生活習慣病と歯周病の深い関係

メタボリック・シンドロームをご存知でしょうか? いわゆる「メタボ」ですが、生活の乱れから内臓肥満になり、高血圧や糖尿病を引き起こし、さらには動脈硬化に進展し、ついには脳梗塞など死を招く疾患にまでエスカレートする生活習慣病の一連の流れのことです。危険な病気になるまで放置するのではなく、なるべく早い段階の病気で食い止め、悪化を防ぐことが肝要です。

2017年6月9日に内閣府から出された「経済財政運営と改革の基本方針2017」で口腔と全身の健康との関連が明記され、メタボの最も早い段階の病気が歯周病だとされました。つまり歯周病対策が、最も健康に効果的で先ず始めなければならないことです。

なぜなら、肥満が糖尿病にまでエスカレートした状態では、歯周病が糖尿病を悪化させることがわかっていますが、内臓肥満の段階では、歯周病との科学的メカニズムはまだ十分に解明されていません。そのため、近年はメタボでの内臓脂肪の前段階である歯周病を治療することで、メタボの糖尿病などへの進行を防ぐことを目指しています。つまり、内臓肥満を気にしている方がダイエットを効果的にするには、歯周病対策を一緒にすることと言えます。

歯周病は自分で日常的に行う「セルフケア」と、定期的に歯科医院で行う「プロケア」の協働治療が必須です。僕は歯科医師になって30年以上になり、当院には毎日100人の患者さんが来院されますが、患者さん自身が知らないうちに歯周病が進行していて後悔した方をこれまで数多く診てきました。あなたはそうならないように、十分に気をつけてください。

他方、歯周病対策のために、何十年と定期的に歯科医院に通って後悔した方にお会いしたことは一度たりともありません。かかりつけ歯科医を持って、今と将来の健康のために、歯周病対策を怠らないようにしましょう。